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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第三章 黒の発露編

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第75話 気配遮断気配遮断

 










「あら。起きたのね」

「なんだぁ、テメエ……」


 爽やかな朝がおどろおどろしい感情で潰されてしまった。

 その理由は、勝手に俺の部屋に侵入して高いお茶を飲んでいたマガリである。


 長くサラサラの紫がかった黒髪、澄ましている整った顔、貧相なスタイル。


「おい。今おかしなこと考えていなかったでしょうね?」

「考えてないぞ」


 ギロリと睨みつけてくるマガリ。

 幼馴染であるこいつも、俺と同じく都合の良い異性を見つけて養ってもらおうとする性根の腐った奴だ。


『君も腐っているんだぞ?』

「お前、何でここにいるの? 俺たちは離れていた方がお互い幸せじゃん」

『倦怠期のカップルかな?』


 倦怠期のカップルは隙あらば殺そうとはしないはずだぞ。


「当たり前よ。私があなたに会いに来たということは、どういうことがあなたなら分かるでしょう?」


 マガリの言葉に、俺は何も言い返せない。

 そう。マガリだって、俺と一瞬たりとも一緒にいたくないはずだ。俺がそう思っているから。


 そうであるのに、わざわざここにやってきた……ということは、だ。

 何か厄介ごとに道連れにしようとしているに違いない!


「断る。俺はこれから病気になるからな」

『学校に行きたがらない子供かな?』


 俺は仮病をすることにした。

 なに、俺の演技力なら、本当に苦しんでいるように見せることだって可能なはずだ。


「ふーん。いいのかしら? そんなことをして」


 しかし、マガリは余裕の表情だ。

 くっ……やはり、俺が拒絶してくることなんてお見通しだろう。


 彼女も彼女で何かしらの対策を立ててきているに違いない。

 それは……。


「これ、国王の命令でもあるのよ?」

「くっ……! またあいつか……!」

『国王をあいつ呼ばわり……』


 この国の絶対権威にして最高地位に立つ男、国王。

 流石の俺も、そいつに抵抗することはできない。俺の評価下がるし。


 以前もマガリは国王からの命令ということで、俺を面倒事に引きずり込みやがった。

 そのせいで、人魚などという危険な亜人とつながりができ、マルタも頻繁に俺のところを訪れるようになったのだ。許せん。


「私がただ聖女としての教育を受けているだけだと思っていたのかしら? 国王に気に入られるように努力し、今の私の王城での地位はかなりのものになっているのよ」


 勝ち誇ったようにドヤ顔を披露するマガリ。

 流石は俺の脚を引っ張り続けることができる怪女。国王に取り入っているとは……股でも開いたか?


 ちっ……今度国王に『マガリがふさわしい聖女になりたいと猛勉強を志願していた』と伝えよう。


「さあ。返答やいかに?」


 ドヤ顔で尋ねてくるマガリ。

 まさか、断られるとは思っていない様子だ。


 確かに、俺がどうこうすることはできない。逃げようにも、逃げられない。

 俺は、マガリについて行くしかないのだ。


「まあ、今回はただ私の接見に付き合うだけだから、とくに何もないはずよ。ただ、なんとなく嫌な予感がしたから巻き込んでやろうと思っただけで」


 凄い……性根が腐ってやがる……。

 嫌な予感がするから人を巻き込むなんて、普通の人間はしないのに……。


『正論だけど、君が言うなってなるよね』


 おいおい、よしてくれよ。

 俺はできる限り道連れということはしないぞ。


『必要に迫られればやるんだ……』


 俺だったら、面倒事や厄介ごとは全て他人に押し付けて俺だけは逃げ切るからな。

 自分が最初に巻き込まれている時点で、二流だな。


『一流にはなってほしくないから、二流でいいよ』

「はぁ、接見ね……」


 どちらにせよ、俺に断ることはできない。

 聖剣と称されている魔剣を引き抜いてしまった今、俺は国王直属の駒みたいな形になっているのだ。


 そんな俺が国王の命令を拒否すれば……魔剣を取り上げてくれるだけなら大喜びだが、下手したら不敬罪などで牢獄にぶち込まれるかもしれない。それは困る。

 そこそこの家柄の女だと、調べられて元犯罪者だとばれてせっかく掴みかけた都合の良い奴を逃すことになりかねない。


 それに、ただただ行くだけということもない。

 先ほども考えていたことだが、国王にマガリの余裕がなくなるほど勉強に力を注がせなければならない。


 それを口添えするためにも、直接向かった方がいいだろう。


「仕方ない、行くか」

「あら、案外素直なのね? あなたのことだから、強行突破で逃げるものだとばかり思っていたのだけど……」


 目を丸くして俺を見るマガリ。

 ふん。お前をさらなる地獄に叩き込むためだ。多少の犠牲は払ってやるさ。


 それに……。


「お前のことだから、何か対策をしているだろうが」

「まあね。ヘルゲたちを連れてきているわ」


 ちっ、やはりか。

 魔剣の力を借りればヘルゲはどうともできるだろうが、逆に力を借りることができなければ俺程度の力ではどうすることもできない。


 鍛えたこともなく、農作業さえサボっていた俺が、ガチガチに鍛え上げられた王国騎士をどうにかすることなんてできるはずもないのだ。

 俺の様子を見て、楽しげに笑いながら読んでいた本を閉じて立ち上がるマガリ。


 笑っていられるのも今の内だ。国王に行って、二度と俺の所に来られなくしてやる。

 彼女にばれないように、俺もまたほくそ笑むのであった。











 ◆



 場所は変わって、王城の謁見の間。

 マガリだけでなく国王もいるということは、それなりの相手が接見を求めているということだろう。


 ……目をつけられないように、気配を消して大人しくしておこう。


『うわっ!? まるでアサシンのような気配遮断……! 君、何者なの?』


 しかし、相手は誰なのだろうか?

 もしかして、どこぞの国の使者とか? 流石に他国の王族とかは来ないだろうし……。


 やっぱり、俺は気配を消して人ごみに紛れているのが正解だろうな。

 マガリは聖女ということもあって、非常に目立つ場所に立たされている。


 頬が引くついているのは、俺しか見えていないのだろう。

 一方の俺は、近くに騎士たちがたくさんいる場所に立たされていた。


 つまり、隠れることは余裕である。

 いやー、聖女様って大変だなー。頑張ってほしいなー。


 ちなみにだが、すでに国王にマガリのことは伝えてある。

 もっと時間をかけて聖女としての勉強をしたがっていた、とな。


 国王は感動したように目を輝かせていたから、マガリはこれからさらに勉強に励むことになるだろう。

 その分、拘束時間も長引くだろうが……彼女も俺と会いたくないだろうし、一石二鳥だな。


 そして、マガリが忙殺されている間に都合の良い女を見つけ、この魔剣を処分し、この王都から姿を消す。

 ふっ……完璧な計画だぜ……。


「ヘルゲさん。そういえば、今回の謁見する人というのは知っていますか?」


 近くにいたヘルゲに尋ねてみる。

 人魚騒動での負い目があるのだろうか、彼もあっさりと答えてくれた。


 そのままマガリを落とせよ、ヘルゲくん。


「いや、私もあまり詳しくは知らないのだが……非常に影響力の強い宗教家が来るらしい」


 しゅ、宗教っすか……。


『宗教かぁ……』


 俺と同じく、少し引いたような声を発する魔剣。

 お? 珍しく……本当に珍しく意見が合いそうじゃないか。


『あんまりここの宗教は詳しくないんだけどね……。どんなのがあったっけ?』


 有名どころとしては、天使教と悪魔教じゃないか?

 どっちも俺からすればクソみたいな宗教だけどな。


 天使教は他宗教を一切認めず弾圧して異教徒を殺そうとするカルト集団だし……。

 かといって悪魔教は欲望を撒き散らすことを是とするから犯罪者集団だし……。


 うん、やっぱりろくでもない宗教しかないわ。


『そんなの無視したらいいのに……』


 それができないほど影響力はあるんじゃないか?

 わざわざ国王が謁見を認めるほどだ。かなりの力を持っているのだろう。


 ……これを知って、なおさら目立つことができなくなったな。

 いや、もともとする気はなかったけど、目をつけられることも絶対に避けなければならない。


 俺は固く決意するのであった。


「来たようだな。私語はこれからは慎んでくれ」


 言われなくても分かってるわ。

 もちろん、そんな毒を吐くわけにもいかず、俺はヘルゲに向かって小さく頷いて気配を消した。


 謁見の間の扉が開かれて、外から二人の人間が入ってくる。

 一人は軽薄そうな笑みを浮かべた男だ。


 見るだけで嫌な予感がしてくるから、関わらない方がいい奴だ。気配遮断気配遮断。

 そして、もう一人は……。


『あ、あれって……』


 サラサラの金色の髪、人形のように整った顔、小さな体躯……どこかで見た要素が詰め込まれているガキが歩いていた。

 それも、明らかに年上な男を率いる形で。


 ……神様、どうして俺にそんな厳しいんですか……?

 俺がつーっと無言で涙を流していれば、ガキは小さく頭を下げて国王に言った。


「お初にお目にかかります、国王陛下。私は天使教の聖女、エリザベス・ストレームと申します」


 ひぇぇぇぇぇ……。




書籍化の続報を活動報告に上げましたので、是非ご覧ください。

下の方にもありますが、書影もあります!

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