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第70話 クソガキからガキへ

 










「はぁぁぁぁぁ……」

『ため息重っ』


 そりゃあため息だって重くなるわ。

 シルクとマルタのやつ、何であんな頻繁に俺の所来るの? 招いてないんだけど。


 っていうか、あいつら人気女優と人魚のリーダーだろ?

 なに持ち場所離れて俺の所に来てるんだよ。馬鹿かよ。


『そりゃあ君……乙女の想いってもんがね……?』


 俺に惚れるとかヤバいだろ、常識的に考えて。


『確かに』


 いや……そこはフォローしろよ。

 そんなことを魔剣と話しながら、俺は現在外を出歩いていた。


 やっぱり、こういった鬱々とした気分は外に出て日の光を浴びると改善されるような気がする。

 故郷にいたときも、外に出て昼寝をよくしていた。


 農作業とかも本来やらなければならないのだが、俺のイケメンと演技によって免除してもらうように取り計らっていた。完璧だった。

 近くにマガリが来るのは嫌だったが、今よりはマシだったな。


 シルクとマルタもすでに自分たちのいるべき場所に戻っている。

 頻繁に俺の所を訪れる彼女たちだが、流石にずっと入り浸ることができるほど暇ではないようだ。幸いだ。


 王都は人も多い分治安もあまりよろしくないので、以前までの俺だと絶対に昼間でも出歩いたりはしなかっただろうが……魔剣がいるため、チンピラに絡まれても安心だ。

 数少ない役に立つ場面である。


『す、少ないって……。まあ、それくらいなら何とでもしてあげるけどね』


 もう俺もチンピラと相対するくらいだと、それほど怖いとは思わなくなってきた。麻痺している。

 チンピラにも余裕で打ち負ける自信のある俺は、少し前まではそんなこと絶対に思わなかったのに……。


 魔剣に付き合わされてグレーギルドとか人魚とかと戦わされたせいだ。チンピラよりはるかに怖かったわ。

 今更ろくに鍛えておらず、人を殺す能力を持っていない連中にビビることはない。……少しくらいはビビるけど。


 まあ、そんなわけで俺の安全も保障されているわけなので、のんびりと散歩を楽しませてもらっている。


『でも、あんまり賑やかな所は行かないんだね』


 まあな。

 魔剣の言う通り、俺は人通りが非常に多い市場などは歩いていない。


 あそこまで賑やかだと、のんびりできないんだよなぁ……。

 ボーっとしつつろくに考え事もしないで歩くのであれば、できる限り人ごみは避けるべきだろう。


 スリとかを警戒するのも面倒だし。


『まあ、それもそうだね。のんびりすればいいと思うよ』


 魔剣のお墨付きも得たことだし、フラフラと歩こう。

 まあ、反対されていても無視していたけどな。


 雨上がりの街は、意外と心地いいものだ。

 雨の匂いというのだろうか、そういうものが残っていて鼻をくすぐる。


 人もあまり出歩いていないし、俺みたいな人と接することを避けたいタイプからすると本当に良い感じだ。

 ふと王城を見上げる。あそこでは、外をろくに出歩けないマガリが必死に聖女としての勉強をしているのだろう。


 ふっ、いい気味だ。


『君たちって本当に仲悪いよね。どうすればそうなるの?』


 さあな。ただ、昔は……それこそ、本当に子どもだった時は、マガリはあんな性格じゃなかったぞ。


『まあ、生まれながらにしてあの性格っていうのも嫌だけど……』


 俺は物心ついた時からこんな感じだった。


『君は異常なんだから特別だよ』


 前の言葉いらないよね? 特別だけでいいよね?

 まあ、マガリが昔みたいなままだったら、こんないがみ合うことはなかっただろうな。


 俺に一方的に利用されて終わっていたはずだ。


『そう考えると、今のマガリでよかったの……か?』


 そう言えばさ、マガリもお前の声聞こえるんだよな?

 ということは、あいつにも聖剣の適正があるということじゃないか?


『うーん……無きにしも非ずだね』


 それを聞いて、俺はその場で思わず飛び跳ねてしまった。

 マジかよ! 最高じゃん!


 じゃあ、俺から離れてマガリを操ってくれよ!

 聖女で聖剣使い……これは大変そうで面白……もとい、人気が出ますねぇ。


 あいつも俺と同じくらい腐ってるけど、それでよくない?

 俺はウッキウキになって提案するが……。


『いや、ダメだよ。彼女は腐っても女の子じゃないか。女の子を危険な目に合わせることはできないよ』


 それは俺を危険な目に合わせていいことにはならないんだぞ? 分かってる?

 マガリを女の子にカウントするのもまたおかしな話だ。


 あいつ、魔王みたいなやつだぞ?


『それに、適性でいったら君の方がマガリよりも上だよ。…………遺憾だけど』


 奇遇だな。俺もお前と一緒にいるのは遺憾だ。

 しかし、俺と魔剣の適性が一緒ねぇ……。お前、やっぱり聖剣じゃなくね?


『そんなはずないよ! そんなはず……ない、よね……?』


 いや、俺に聞かれても……。

 ただ、俺とお前の性格はかけ離れている気がするけど……。


 ていうか、お前俺を操って激しい戦闘繰り広げるの自重してくれる?


『え、どうして?』


 いや、どうしてじゃないだろ。

 お前、毎回俺がお前に操られて戦った後に筋肉痛でもだえ苦しんでいるの、知ってるだろ。


 俺は魔剣に操られることによって、ほとんどの人間に勝つことができるほどの動きと力を発揮することができる。

 しかし、だ。その代償は必ず付きまとう。


 本来、俺の身体では出せないような力で動き回るものだから、その反動で翌日俺は身動きが一切できないほどの身体中の痛みに襲われているのだ。

 ベッドの上でのた打ち回る気持ち、分かるか?


『ご、ごめん。で、でも、そうしないと君も危ないんだよ?』


 いや、だからね? そんな危ないことに首を突っ込まなければいい話でしょ?

 俺に降りかかってきた火の粉を払うために戦って筋肉痛になったことないよね?


 シルクやマルタといった、赤の他人を助けるためにわざわざ首を突っ込んで命の危険をさらしてその後の代償で筋肉痛に苦しんでいるんだよね?

 じゃあさ、それ控えるべきじゃん?


『それはダメ』


 クソが!!

 やはり、俺と魔剣が分かり合うことはできないようである。


 いつか鍛冶屋の溶鉱炉にでも突き落としてやろうと考えていると……。


「うわ。路地裏に来てたのか」


 思わず声に出して嫌な顔をしてしまう。

 俺がいたのは、細い路地裏。そう、社会不適合者や落伍者の集まる薄汚い場所である。


『言いすぎだろ』


 だって、路地裏って犯罪の温床じゃん。

 薬物売買、女引きずり込んで強姦、男引きずり込んでリンチして強盗……そんなのばっかだろ?


 それがないにしても、表の道路に比べて不潔だし、気味の悪い連中が屯しているし……。

 やっぱり、イケメンハイブリット好青年の俺にはふさわしくないな。


『え? 顔だけ性格破綻青年?』


 お前の耳どうなってんの? 死んだ方がいいんじゃない?

 まあ、とにかくここに居続ける理由はない。さっさと戻ろう。


 そう考えて振り返ろうとして……。


「うげっ!?」

「わっ!?」


 下腹部に強烈な打撃を受けて、思わずくぐもった悲鳴を上げてしまう。

 な、何ですの!? いきなり何が起きたの!?


 っていうか、魔剣! テメエ、危険から俺を守るんじゃねえのか!? 俺は対応できなくとも、お前は対応しないといけないだろうが!!


『い、いやいや! だって、敵意も何もなかったんだもの!』


 それを何とかするのがお前の仕事だろうが!!


「いたたた……」


 痛いのはこっちなんですけどぉ? 慰謝料払ってくれますぅ?

 そう言いたいのをこらえながら俺に突っ込んできた馬鹿を見れば、そいつは俺よりもはるかに小柄な女だった。


 ……子供?


『子供だったら尚更僕がどうにかしようとしたらダメじゃん』


 子供とか関係ないよね。カウンターでなんとかしろよ。


『ゴミか!』


 しかし、どうして子どもがここにいるのだろうか?

 路地裏に突撃したいガキンチョもいるかもしれないが、普通親が止めるだろうに……。


 こいつ、親からどうでもいいと思われている系ガキンチョか? かわいそうに……。


「ああ、すまない。大丈夫か?」


 どう考えても悪いのは突っ込んできたこのクソガキなのだが、俺の評価を下げるわけにはいかないため、謝罪しつつ手を差し出す。

 そいつは尻餅をつきながらじっと俺の顔を見上げ、まるで確かめるようにジロジロと見てくる。


 そして、何か納得したのか、ニッコリと笑って手を掴んできた。


「ありがとうございます、優しいお兄さん」


 ……自分の立場分かってるじゃない?

 クソガキからガキに昇格してあげよう。喜びたまえ。


「私はエリザベス・ストレームです。あなたはなんて仰るのですか?」


 薄く笑みを浮かべながら尋ねてくるガキ……エリザベス。

 すっごい名前だな。そんな彼女に対して、俺もニッコリと笑いかけ……。


「なに、名乗るほどの者じゃないさ」


 名前を言うことは拒絶するのであった。




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