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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第二章 望まぬ行幸編

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第67話 必ず苦痛を与えてやる……!

 










『アリスターへ。お元気ですか? 僕は元気です。お姉さまが悪魔に操られていたとはいえ、人魚たちを奴隷として売っていたことによって、お姉さまはリーダーの地位から退くことになりました。今までの罪を償うため、これから一層人魚のために尽くすと言っています。いつか、助けてくれたアリスターにも恩返しがしたいと言っています。僕はというと、何故かお姉さまの代わりに人魚たちをまとめることになりました。人魚としてできそこないで、皆からは避けられていたのに……何だか都合がいいような気もしますが、やっぱり僕は人魚が大好きなので、頑張って人魚のために生きようと思います。これからも時々手紙を送りますので、返してくれると嬉しいです。それでは。マルタより』


 呪いの手紙が届いた。焼却しないと……。


『ゴミ野郎! ちゃんと取っておくんだよ!!』

「いてててててててててててっ!?」


 俺に不幸しかもたらさなかった人魚からの手紙なんて、焼き捨てて当然だろうが!

 しかし、残念ながら魔剣の妨害にあってしまい、捨てることはできないようだ。


 ……まあ、いいか。もうあいつらと会うこともないしな。

 人魚たちの身内騒動に遺憾ながら巻き込まれてから何日か経った。


 俺はというと、もちろん人魚たちの集落から離れて王都へと戻ってきていた。

 人間を海の藻屑にするような亜人たちだぞ? 一刻も早く離れたくて仕方なかったわ。


 まともそうなマルタもとんでもない戦い方をするし、そいつの姉のパメラなんて仲間を売り飛ばして洗脳仕掛けてくるような危険な連中だ。

 俺が彼女たちに信頼を寄せることは未来永劫ないだろう。


『家族さえ信用していない冷血漢が何偉そうに言ってんの?』


 まあ、それもそうだな。俺、マジで誰も信用していないし。

 もちろん、この魔剣もである。一刻も早く捨てたい。


『酷い!……まあ、マルタたちのことは得をしたとでも思っていたらいいんじゃないかな?』


 得? 損以外のなにものでもないと思うんだけど。


『君には理解できないかもしれないけど、人魚って本当に一生に一度見ることができるかどうかっていう珍しい亜人だよ。それこそ、見ることができないまま死ぬ人の方が圧倒的に多い。それにくわえて、皆美人で歌も上手いでしょう? そんな人魚のリーダーと文通をしているなんてことを知られたら、君を殺してでも成り代わりたいって男はたくさんいると思うよ』


 ひぇ……。やっぱり損じゃないか。

 俺を殺してでもって……もう絶対に人魚と知り合いなんて言えなくなったな。


 まあ、言いたくもないから大丈夫か。


「……どうかした?」

「ああ、いや。何でもない」


 俺に声をかけてきたのは、シルクである。

 相変わらずの無表情で、小さく首を傾げている。


 ……何でこいつ当たり前のように俺の部屋にいるの? 怖いんですけど……。

 まあ、こいつは物静かだし奴隷から解放された今厄介ごとを持ってくることもないので、別にいいのだが。


 しかし、やけにすり寄ってくるのはいかがなものかと思う。

 お前、人気の女優なんだろ? これ、不祥事にならないの?


 シルクには上流階級の甘くてチョロそうな女を紹介してもらわなければならないのだから、それが終わる前に失脚されてしまっては困るのだ。

 はぁ……しかし、そうなるとこの王都から逃げ出すことも困難だなぁ……。


『ん? どうかした?』


 マジでこの魔剣さえどうにかできたら……。

 俺がここにいなければいけない理由って、王国では国宝とされているこの魔剣を引き抜いて適正者になってしまったことだし。


 ……こんなの、国宝にする価値もない呪いの剣だと思うのだが……。


『今何か酷いこと考えなかった?』


 まあ、いいや。住まわせてもらっている場所は最高級宿で待遇としては文句ないし、何かしなければならないということもほとんどない。

 そりゃあ、以前のマガリの僥倖に付き合うように勇者として国から命令が来ることもあるが、それは極々稀だ。


 それなら、今も王城で聖女としての教育を毎日受けているであろうマガリの方が大変だ。メシウマ。


「……また演劇があるんだけど、見に来てくれる?」

「ん? また主役なのか?」

「ん」


 少し驚きながら尋ねれば、コクリと頷くシルク。

 へー。こいつが入っている劇団って、確かこの国でもトップのやつだよな?


 そこで主役を何度もできるって、相当なんじゃないか?

 一時期一緒に練習していたこともあったが、何も感じることはなかったんだけどなぁ……。


 うまくなったのか、はたまた見ている奴らがただの馬鹿なのか……。


『あの時からうまかったよ。僕は実際感動していたし。君みたいな例外だけが、心を揺さぶることができないだけだよ』


 俺けなされている?


『うん。っていうか、大人気の女優さんと、夜中に二人きりでずっと練習してきたって、君凄い幸運なんだよ?』


 ふざけるなよ無機物。

 俺はシルクのせいでグレーギルドとかいう訳のわからん連中とガチンコする羽目になったんだぞ! 不幸の割合の方が大きいわ!


「……チケットもある」


 シルクはそう言って紙切れを差し出してくる。

 や、野郎……! お願いしている立場のくせに、断られるとは微塵も思っていない……!?


『お願いしているからこそ、チケットとかも用意してくれるんじゃないか。お金を払えって言われたら、嫌でしょ?』


 嫌もくそも、絶対に行かないわ。


『それに、シルクが渡してくれるチケットって、凄く良い席ばかりだよ。それこそ、一般市民の数か月分の収益と同等の』


 だけど、演劇なんて興味ないんだから、いくらいい席渡されても困るわ。


「ああ、ありがとう。ちゃんと見に行かせてもらうよ」

「……ん」


 笑顔でチケットを受け取れば、すり寄ってきてスリスリと頬を身体にこすり付けてくる。

 女の柔らかさを感じるが、やはり興奮しない。鬱陶しいだけである。


 しかし、都合の良い女を見つけるためには、その出会いの場となる可能性が高い王都演劇団の劇場には足しげく通う必要があるだろう。

 自分で金を払うのであれば行きたくないが、せっかくただで行けるんだったら行っておこう。


『ゴミだね』


 魔剣の戯言を無視しつつ、未だにスリスリと抱き着いて頭をこすり付けてくるシルクをどうしてやろうかと考えていると……。


「…………?」


 扉をノックされる音と共に、この宿の従業員の声が届いた。

 何やら、俺に会いに来たという人がいるらしい。


 ……居留守だな。ここに来る連中なんて、ろくでもない奴ばっかりだから。


『もしかしたら、助けを求める人かもしれない。行くよ』


 嫌だ。


『行くよ』


 お前さああああああああああああああ!! 頭痛を気安く起こして操ろうとしてんじゃねえよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 俺は嘆きながら、頭を抱えてフラフラと歩き始める。


 そして、従業員に来てもらうことを伝えて、しばらく待つと……。


「えと……久しぶり、アリスター」

「マルタ……」


 扉の前に立っていたのは、もう二度と会うまいと考えていた人魚のマルタであった。

 濃紺の髪をせわしなく触って、もじもじとしている。


「な、何故ここに……?」

「えっと……やっぱり、手紙だけだと……あれだから」


 あれってなんだよ。


「だから、時々来てもいいかな?」

『人魚からのこんなお誘い、受けられるのって君しかいないんじゃない?』


 嬉しくないんだよおおおおおおおおおおおおお!!


「あ、ああ……もちろんだ……」


 俺は震えながら、そう伝えるのであった。


「……誰?」

「む……」


 顔を合わせたシルクとマルタに、おかしな空気が流れていても俺は知らない。関係ない。

 あぁ……マガリはどうしているだろうか?


 あいつが苦しんでいてくれると、俺も救われるのだが……。

 俺は彼女のことを考えるのであった。


『……嫌な考え方だなぁ』











 ◆



 くっだらない僥倖から戻ってきたと思えば、すぐに王城で缶詰になって聖女としての教育。

 いい加減嫌になってくる。ブチ切れそう。


 しかし、その僥倖にアリスターを引きずりこめたことはよかったわね。

 人魚のごたごたにも巻き込まれたけど、彼が大変な目にあっていたしウキウキよ。


 だから、少し気分はよかったのだけど……。


「聖女様! 先日は私が不甲斐無いせいで危険な目にあわせてしまい、申し訳ありません! 護衛として失格です!!」

「へ、ヘルゲさん……」


 私の前で深く頭を下げる男の姿。

 相手が下手に出ているのはとても気持ちがいいのだけど、いくら何でも毎日何度もしつこく謝られたら鬱陶しいわ。


「もう。何度も言っているじゃないですか。大丈夫だったんですから、あまり気負わないでください」

「そうはいきません! 私は今回のことで、力不足を痛感しました。聖女様のお力に少しでもなるため、精進を続けていきます!!」

「そ、そうですか……」


 暑苦しい。ヘルゲってこんなタイプだったかしら?

 まあ、別にいいわね。だって、力ある人が私の味方になってくれるんだったら、悪いことではない。


 無能な味方なんて必要ないし。


「そ、それに……」

「…………?」


 もじもじと目の前で動くヘルゲ。

 何かしら。あなたみたいにがっちりした男がもじもじしているのは、なかなか気持ち悪いわよ。


「アリスターにも教えてもらいました。やはり、正々堂々と好意を伝えていかなければならないと」

「…………え?」


 熱っぽい視線を向けてくるヘルゲ。

 あ、あの野郎……! 余計なことをこいつに吹き込みやがって……!!


 やっぱり、いつかあいつを地獄に叩き落とさなければならない!!


「おお、聖女! 帰ったか。どうだ? 俺と少し王都を出歩いてみないか?」


 エリアがそんなことを言いながら近づいてきたが、私の頭の中はアリスターでいっぱいだった。

 待っていろ。必ず……必ず、苦痛を与えてやる……!!




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