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第6話 皆クソッタレ

 










 俺の本性を知っている性悪女、マガリが聖女になるということで王都に厄介ばらいをした。

 ここからは、まさに俺の時代。俺の弱みを知っている者は誰もいなくなり、精神的な負荷も一切なくなる。


 これから、どのように人生を送っていこうか。

 女の貴族の愛人になってもいいし、裕福な豪商の娘婿になってもいい。


 相手の容姿も別に美人でなければならないというものもない。

 見た目に求めることはない、内面である。


 そして、甘やかしてくれる中でお金に不自由しないのんびりとした生活を送り、そこそこ生きて死ぬ。

 俺の考える理想ストーリーである。


 とりあえず、村に戻ってこれからの人生設計をるんるん気分で考えようと思っていたのに……。


「人生ってままならないものなんだなぁ……!!」

『ギィッ! ギギッ! ギギギィッ!!』


 俺は必死に脚を動かしていた。

 後ろから聞こえてくるのは、聞くに堪えない魔物の声。


 そう、今俺は村に帰る途中で魔物の一種、ゴブリンに襲われていた。

 クソがぁっ!! どうして俺を追いかけてくるんだ、この雑魚ゴブリンどもがぁぁぁっ!!


 この国の主だった道は……とくに王都につながるような道は、騎士団によって整備されている。

 そのため、ドラゴンなどといった危険な魔物が現れることはめったにない。


 ただし、ゴブリンなどのようなクソ雑魚ナメクジな魔物は数も無駄に多いため、完全に駆逐することはできないのだろう。

 それに、多少鍛えればその程度の魔物は追い払うことができる。


 しかし、俺のように一切鍛えていない農民の子なんて、その程度の魔物にだって殺されてしまう可能性が十分にあるのである。


「くそっ……! 騎士に送ってもらえばよかった……!!」


 俺は悪態をつきつつも走り続ける。

 というか、騎士の奴らも申し出ろよ! 行きたくなんてなかった王都に、わざわざついて来てやったというのに……!!


 いや、そんなことを言うのであれば、そもそも俺を王都に道連れにしやがったマガリに対して怒るべきだろう。

 本当、ふざけんなよ! あいつ!!


 これから聖女として身の縮こまる思いをして生活をしていろ! ははっ、笑ってやる!!


「ひぃっ、ひぃっ……! も、もうダメだ……!!」


 息が途切れ途切れになってくる。

 戦闘の訓練も受けていない俺だが、体力向上のための運動なんてことも当然していない。


 農民がやるべき農作業も大体サボっていたのだから、普通の農民よりも体力はないだろう。

 そんな俺が、命の危機を感じながら走り続けられるはずもない。


 ……なんて余裕ぶっこいている状況じゃない! どうするんだ!?


「このクソゴブリンども! 俺みたいな善良な人間を追い詰めるんじゃなくて、もっと性格が腐っている奴をねらえよ! マガリとか!!」


 口汚くゴブリンを罵る俺。

 人前では決して見せない本性だが、ゴブリンとかいう他人に意思を伝えることすらできない低俗で気持ち悪い魔物になら、何を言ってもいいだろう。


 少しいら立ちが収まってふへっと笑っていると……。


「ギギィィィィィィィィッ!!」

「……へ?」


 ヒュンッと高速で移動したものが空気を裂く音がした。

 そして、かすかな痛みと頬からタラリと血が流れる感覚。


 恐る恐るゴブリンを見ると、いかにも怒っていますというような奴らが小さな弓矢を構えているではないか。

 …………弓矢?


「お前ら飛び道具もありなのかよ!?」

『ギギギギィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!』


 俺は絶叫して再び走り出した。

 ゴブリンの追っかけは、先ほどよりも執拗かつ速度が上がっている気がした。


 怒らせたから? そもそもゴブリンどもが俺を襲わなければいいだけの話だろうが!! 絶対に謝らねえ!!

 しかし、ヒュンヒュンと矢が飛んできて、俺は涙が出そうだった。


 ちくしょう……何で俺みたいな善良なイケメンがこんな目に……。

 本当、世の中って不条理だわ。ようやくマガリを厄介払いできたというのに……。


 これから、俺ののんびり楽勝ライフが始まるというのに……!

 そんなことを考えていると、もともとイライラしていたのに加えてさらにいら立ちが増す。


 くそったれ……!

 俺を追い掛け回すゴブリンどもも、マガリが好きで何故か俺に突っかかってくる村の男どもも、仕事をさせようとしてくる大人どもも、俺を道連れにしようとしてゴブリンに追い掛け回される原因となったマガリも……!!


「皆クソッタレじゃぁぁぁっ!!」


 俺は拳大の石を拾い上げ、後ろに思い切り投げつけた。

 かなり接近されていたのだが、それ故に避けることができなかったゴブリンの顔面に直撃!


 気持ち悪い悲鳴を上げ、鼻血を噴き出させながら地面に倒れる。

 それを見て、威勢よく俺を追いかけていたゴブリンたちがピタリと足を止める。


 まさか、今まで逃げに徹していた獲物が反撃してくるとは思わなかったのだろう。

 俺は不様に倒れるゴブリンをせせら笑い……。


「死ね、バァカッ!!」


 悪態をついて、道を逸れて森の中に逃げ込んだのだった。

 正直、森の中を逃げるのは避けていた。


 走りやすいように整備はされていないし、ゴブリンよりも恐ろしい魔物が潜んでいるかもしれないからだ。

 しかし、このまま整備されて走りやすい道を逃げていても、直線で障害物もないためいずれゴブリンに捕まってしまうだろう。


 それに、仲間を流血させているし……簡単に殺されるとは思えない。

 というか、ゴブリン程度に人間を簡単に殺すほどの力はないと思うし。


 そんなわけで、俺は森の中を走り出したのであった。

 ここなら、走りづらいのはそうだが、木々が生い茂っているためうまくいけば俺を見失ってくれるかもしれない。


「ギギ……ギギャッ!?」

「ギギッ! ギギギッ!!」


 しばらく仲間が不意打ちでやられて呆然としていたゴブリンたちであったが、俺がいなくなったことにようやく気付いたのか、再び追いかけはじめる。

 しかし、幸いなことにその呆然としていた間にそれなりに距離が離れたため、俺は先ほどよりは余裕を持って逃げ出すことができた。


 余裕ができれば、怒りがわいてくる。……いや、なかったときも怒っていたけど。

 本当、ゴブリンとか騎士とかマガリとか皆クソだわ。


「はっ、はっ……!!」


 その悪態を口に出すことができない程度には、体力を消耗していた。

 というかもうフラフラ。いつ倒れても不思議じゃないね。


 そもそも、農作業をサボりまくってきた俺にこれほど走り続けろというのが無理な話なのだ。

 だというのに、馬鹿で低俗なゴブリンどもは俺を諦めようとしないし……なんなんだ、本当。


「ひーっ、ひーっ……! ちょ、ちょっとだけ休憩しようかな……!」


 ゴブリンのギイギイと喧しい声も、随分と遠く聞こえる。

 ……これが俺の意識が遠くなっていることが原因だったらヤバいけど。


 とにかく、走り続けて酸欠寸前だ。本当に休憩して……。


「あっ……」


 なんてことを考えていたら、木の根に引っ掛かってこけてしまった。

 無駄に根っこなんて生やしてんじゃねえよ!! 伐採するぞ!!


 ゴブリンの視界から遮ってくれた木々に呪詛を吐いていると……。


「……あれ? 痛い?」


 足首が痛くてうまく立ち上がることができない。

 見れば、何だか早速腫れ上がっているではありませんか。


 ……え? 足首を挫きました……?


「ちょっ、それはマズイって。動けないのはマズイ。こんなの、見つかったら俺リンチされるじゃん……!」


 何とか立ち上がってみるが、これが限界っぽい。

 無理すれば歩くことくらいはできるだろうが、先ほどまでのように全力疾走は不可能だ。


 ……えぇ……マジでヤバいやつじゃん……。


「ギギャッ! ギギギッ……?」

「ひぇっ……」


 かすかに聞こえるゴブリンの声。

 やばい……どんどんと近づいてきている気がする……。


「ちくしょう……! どうして俺みたいな善人が、こんな目に……!」


 俺は足首の激痛で半泣きになりながらも、何とか立ち上がる。

 とにかく、ここから離れなければ。ゆっくりでいい、少しずつでいい。


 あの気持ち悪い生物もどきたちから離れなければ……!

 本当、神が適当に作ったような生き物だよな、ゴブリンって。


 俺はひぃひぃ言いながら歩き続けて、そして……。


「……何だ、ここ?」




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