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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第二章 望まぬ行幸編

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第56話 オーガ

 










 マルタはマクシミリアン邸を全速力で駆け抜け、外に飛び出した。

 あのまま室内で戦闘になっていれば、間違いなくアリスターに迷惑がかかってしまう。


 敵は自分しか狙っていないようだったので、彼女は自分を外に出すことによってアリスターから敵を離そうとしているのである。

 日が昇っていない夜なのだが、月が煌々と輝いているため遠くを見ることはともかく下の地面すらわからないということはなかった。


 この貴族邸は海に非常に近い。

 理由はとくに考えていなかったが、今思えば人魚を拉致して運び込みやすくするためなのだろう。


 そう思うと、この屋敷そのものが薄気味悪かった。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 そして、さらにその気味悪さに拍車をかけるのは、マルタを追いかけてくる雄叫びである。

 マルタは顔を引き締め、三叉槍『フィロメーナ』を構える。


 そのすぐ後、彼女を追いかけていた存在が姿を現した。


「オオオオオオオオオオオッ!!」


 その声を張り上げたのは、真っ赤な皮膚に見る者に恐怖しか与えない憤怒の表情を浮かべた鬼のような魔物。

 それは、オーガという非常に強力な魔物であった。


 筋骨隆々の身体からは、人間とは生まれながらにして異なった怪力を持っていることが分かる。

 それだけではなく、鋭い牙と爪は簡単に人を切り裂くことができるだろう。


 太い首元には、黒い首輪がつけられていた。


「私の戦闘奴隷だ。奴らだけでは心もとないからな」


 追いついてきたマクシミリアンが自慢げに胸を張った。

 護衛ではどうしようもできなくなった場合の隠し玉が、オーガである。


 だからこそ、彼は人魚に乗りこまれても余裕を持っていられることができたのである。


「さて、さっさと終わらせようか。オーガ、できる限り傷のないように無力化しろ。大事な商品になるのだからな」

「オオオオオオオオオオッ!!」


 オーガにマクシミリアンの言葉を理解する知能があるのかどうかは知らないが、しかし魔物は大きく吼えてマルタに襲い掛かった。


「僕は君みたいなのに好き勝手されるつもりはないけどね。『フィロメーナ』!」


 鍛えられた大の男でもすくみ上ってしまいそうなオーガの敵意と威圧感を正面から受けても、なおマルタはいつもの様子を崩すことはなかった。

 三叉層をオーガに向けて、魔力を込める。


 すると、いくつもの水球が作りあげられ、オーガ目がけて発射されたのであった。

 ただの水の球ではなく、『フィロメーナ』の魔力を込められて作られたそれは、人間であれば簡単に吹き飛ばすことができるほどの威力を持つ。


 それが、複数同時に身体にぶつかれば、タダで済むはずがなかった。

 しかし……。


「硬いなぁ……」


 オーガはその水球の直撃を受けても、一切勢いを緩めることなく突撃を敢行し続けていた。

 怯むことはもちろんのこと、その分厚い皮膚や強固な筋肉のおかげでダメージすらまともに受けていないようだった。


 むしろ、オーガは攻撃を受けたことで怒りを爆発させており、迫ってくる速度は早まっていると言えるほどだ。

 これには、マルタの頬にも一筋の汗が流れる。


 だが、だからと言って何もできずに敗北するほど、彼女は弱くはなかった。


「オオオオオオオオオオッ!!」

「くっ……!?」


 横なぎに振るわれるこん棒を、三叉槍で受け止める。

 マルタの細身では受け止めきれず、その圧倒的な力によって一気に吹き飛ばされる。


 だが、それでいいのである。

 彼女は完全に受け止めようとしていたわけではなく、この力を利用して移動しようと考えていたのだから。


「……でも、ここまで力が強いっていうのは予想外だったなぁ」


 ビリビリと痺れる手を見て、苦笑いするマルタ。

 何度も受けていれば、直撃を受けていなくても腕を骨折してしまいそうだ。


 まあ、それも当然だろう。人魚という種族は近接戦闘に優れているわけではなく、逆にオーガは肉弾戦に優れているのだから。

 そもそも、マルタだって近接戦闘でオーガに打ち勝とうとしているわけではない。


「グガアアアアア!!」


 吹き飛ばした獲物をしとめようと、当然オーガは追いかけてきた。

 それを見て、マルタはニヤリとほくそ笑んだ。


 彼女の吹き飛ばされた場所は、海に非常に近い場所であった。

 人魚であるマルタが本当の力を発揮できるのは、母なる海である。


 雄叫びを上げて迫ってきたオーガを、横っ飛びをすることによって避ける。

 すると、オーガは非常に海に近い場所に移動することになってしまった。


「『ゲルラッハ』」

「グオアアッ!?」


 ゴウッと唸りを上げて、水の竜巻がオーガを飲み込んだ。

 驚いたような声を出すオーガを、完全に閉じ込めてしまった。


 これは、以前人魚の集落にグレーギルドの人間が襲い掛かってきたときと、完全に同じ戦い方であった。

 この戦い方こそが、マルタにとって必勝のものだからである。


 三叉槍を担ぎ、人魚の視力で水の竜巻の中に拘束されているオーガの姿を視認する。


「グルオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 自分が閉じ込められたということを理解できたオーガは、激しく暴れまわる。

 硬い拳を振り上げ、鋭い爪で切り付け、こん棒で殴りつける。


「……ッ。やっぱり、力が凄いなぁ」


 閉じ込めているマルタが冷や汗を流す。

 圧倒的な暴力は、この水の竜巻の拘束を打ち破りかねないほどのものがあった。


 グレーギルドの人間とは比べ物にならないほどの力である。

 これは、長く拘束することはできないとマルタは感じた。


 だが、長期間拘束する必要はないのである。

 この一撃で、全て終わるのだから。


「これで、終わり!!」


 全力で三叉槍を投擲した。

 それは、的確にオーガ目がけて突き進み、水の竜巻の中で暴れまわるオーガに迫って……直撃した。


 それと同時、『ゲルラッハ』が解除されて中からオーガの姿が露わになる。

 三叉槍に身体を串刺しにされた、哀れな魔物の姿がそこには……なかった。


「…………あれ?」


 首を傾げるマルタ。

 オーガは三叉槍に身体を串刺しにされることなどはなく、その非常に硬い皮膚と筋肉は槍を受け付けることはなかった。


 小さな傷程度しかつけられていない事実に、マルタは目を白黒とさせる。


「グギギギギギ……!」

「か、硬すぎるだろ……」


 オーガが不気味に笑う。

 それを見て、マルタは渇いた笑みしか浮かべることはできなかった。


 オーガは邪魔な槍を放り捨てると、猛然と彼女に襲い掛かったのであった。



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