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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第二章 望まぬ行幸編

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第55話 うひょう!

 










 日がとっくに沈み、天にあるのは大きな月だけ。

 その明かりは非常に煌々としており、夜でも周りがしっかりと視認できるほどであった。


 安全な場所で月見酒でもしていたら、どれほど幸せなことだろう?

 それだというのに、俺の姿は何故か安全な家ではなく、茂みに隠れてマクシミリアン邸を窺っていた。


 ふっざけんな。


「やっぱり、見張りがいるな」


 俺の視線の先には、門を守る二人の門衛がいた。

 よし、諦めて帰ろう。


 そういう意思を込めて言葉を発したのだが、同行者には伝わっていないようだ。


「それは、想定していた通りだよ。だから、お願いね、アリスター?」


 俺に強い信頼を寄せたような声で言ってくるのは、マルタである。

 同じ茂みに隠れているためか、身体が近い。


 おら、離れろや。当たってんだよ。嬉しくねえんだよ。

 というか、人肌が感じられて気持ちが悪い。


 自分以外の人肌って生理的に受け付けないわ。


「…………おう」

『返事おもっ』


 当たり前だろ。

 何で会ったことすらない奴のために、貴族邸に忍び込まなきゃいけないんだよ。


 忍び込んだだけでも重罪だろ。自分のためでもないのに危険なことをする意味が分からない。

 それに、その助ける対象って人魚だろ? 人間を引きずり込むような奴を好き好んで助ける奴なんているかよ。


『まあ、僕に任せておきなって』


 ブツブツ内心で毒を吐いている俺に飽きたのか、魔剣はそう言って俺の身体を操り始める。

 お前、人の身体を操ることに躊躇がないって、本当に聖剣じゃないからな。


 そんなことを考えながらも、俺の身体は本来では出せないはずの素早い動きで門衛に迫っていた。


「ぐぁっ!?」

「お、おい、どうした!? がはっ!?」


 まず、油断しまくりだった一人をあっけなく魔剣で殴り気絶させ、同じく状況が読みこめていないもう一人も殴って気絶させた。

 あっけない。これなら、俺も怖い思いをしなくて済むので、まだマシである。


 だが……。

 おい! そんな急に身体を動かしたら、明日確実に筋肉痛になるだろうが! もっと手加減しろ!


 あれ地獄なんだぞ!!


『えぇ……。これくらい、戦士なら普通の動きだよ?』


 俺は戦士じゃねえ!!

 前もそうだ。グレーギルドの親玉とやり合った時も、全身の痛みが凄まじかったんだぞ。


 ろくに攻撃を受けていないのに、だ!

 それに、何か変な斬撃みたいなものを出したせいか、身体から何か吸い取られるような形で、ヒューヒュー言っていたんだぞ。忘れたのか!?


「すっご……。アリスター、どうやってそんなに強くなったの?」


 マルタが近づいてきてそう声をかけてくる。

 強いだと?


「俺は強くなんかないさ……」

「アリスター……?」


 俺が悲しげな表情を浮かべながら言うと、訝しげに見上げてくるマルタ。

 こいつには分からないだろうな。俺が魔剣に操られて意に沿わないことをさせられているだなんて。


 ふっ、悲劇のイケメンだぜ……。


「さっ、行こうか。いつ異変を感じて他の護衛が駆けつけてくるかわからないからな」

「う、うん……」


 俺が改めて言えば、マルタはどこか腑に落ちないような表情を浮かべながらも俺を先導するように前を歩き始めた。

 人魚の居場所が分かるのはこいつだしな。


 俺が先頭に立ったら、そのまま回れ右して帰るだろう。


「それにしても……」


 俺は苦虫をかみつぶしたような、苦しい表情を浮かべる。

 くっそぉ……! マガリのやつ、一人だけ逃げやがって……!


 そう、この場にマガリはいない。

 マクシミリアン邸に侵入するのは、俺とマルタだけである。


『マガリは絶対に動こうとしなかったし、君も絶対にあきらめようとしなかったね。いやいやいやいや……って言いながら引っ張り合っていたの、異様な光景だったよ』


 家の柱にしがみついて絶対に付いて来ようとしないマガリの細腕を抜けるほど力強く引っ張ったのだが、あのひ弱ボディのどこにそんな力があるのか、断固として拒絶しつづけたのであった。

 確かに、マガリは体力もゴミで戦闘能力も俺と同じく微塵もないから足手まとい以外のなにものでもないのだが……だからって、あいつだけ安全な場所でのほほんとしていることは許しがたい!


 今頃、あいつは俺のことを嘲笑いながら酒でも飲んでいるのだろう。

 くそ……あいつのことを考えるだけで、殺意と憎悪におかしくなってしまいそうだ……!


 そんなことをウジウジ考えながらマルタの後をついて行っていると……。


「……ここだ」


 マルタが立ち止まった。

 ここに人魚がいるのか? もうどうでもいいから、さっさと終わらせよう。


 しかし、門衛以外に人と出会うことがなかったな。

 運がいいと思うのか、何かマクシミリアンが企んでいると考えるのか……。


 後者だったら最悪だな。

 マルタを囮にして何としてでも俺だけは逃げよう。


「あっ……!?」

「大丈夫!?」


 どうやら、マルタはお目当ての人魚を見つけたようである。

 マクシミリアンは、本当に馬鹿なようで何匹かの人魚をここに置いていたようだ。


 マッジで馬鹿だな。ほんっと馬鹿。


「ま、マルタ? どうしてここに……」

「助けに来たからだよ!」


 困惑したように顔を歪める人魚に、マルタが答える。

 それを見ながら、俺は内心で悪態をついていた。


 ……何でここに人魚置いてるねん。

 さっさと奴隷市場に売り飛ばしておけば、マルタに人魚の存在を感づかれることもなく、俺もこんな所に来ることもなかったのに……。


 マジでこの国の貴族って無能しかいないの?

 ……そう言えば、人魚が何匹かいるけど、まさか全員逃がすわけないよな?


 俺とマルタの二人しかいないんだぞ?

 まさか、往復して助けるとかじゃあないだろうな? 確実に見つかるぞ?


 お荷物とか、本当にいらないんですけど……。


「おや? おやおやおや……約束は明日ではなかったか?」

「マクシミリアン……!」


 俺が嫌な予感がして汗をダラダラと流していると、何とも楽しげな声が聞こえてきた。

 そう、無能である。……じゃなかった、マクシミリアンである。


 現れた彼を見て、マルタは心底軽蔑した表情を浮かべるのであった。


「侵入者は、排除しないとなぁっ!!」


 会話をするつもりは毛頭ないらしく、マクシミリアンはそう言って指を鳴らした。

 すると、大勢の人が怒声を上げて駆けつけてくる。護衛の人間だろうか?


 そんな連中を見て、俺は……。


「ここは俺に任せろ!」


 マルタの前にその身を飛び出させたのであった。

 ふっ……いつもの俺なら絶対にしない行為だ。


 なんだったら、迫りくる連中にマルタを放り投げてその隙に逃げるというのが、俺としては正しい行為だろう。

 だが、である。どうにも嫌な予感がぬぐえないのである。


 なんというか……マクシミリアンがさらに隠し玉を持っているような気がしてならない。

 ということで、あの雑魚連中を相手にしていた方がいいと勘が訴えかけてくる!


 厄介そうな奴はマルタに丸投げだ。こいつでもどうすることもできないような奴だったら、逃げよう。


「じゃあ、僕は君だね、マクシミリアン。同胞の仇をとらせてもらうよ」

「うん? 何を言っている。お前の相手は私ではないぞ」


 マクシミリアンを見据えて三叉槍を取り出したマルタに、彼は余裕の笑みを浮かべていた。

 やはり、俺の予想通りか!


「なに――――――」


 訝しげな表情を浮かべて、その真意を問いただそうとした時であった。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

「っ!?」


 地鳴りがするほどの凄まじい雄叫びが上がり、その雄たけびを上げた者がマルタに襲い掛かったのであった。

 うひょう!




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