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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第二章 望まぬ行幸編

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第45話 よろしくしたくないっす

 










「なっ、何、人間!? 僕に何か用があるの?」


 警戒しつつも強い目を向けてくる女。

 僕っ子かよ。いや、それはどうでもいいんだけど……。


 用なんて何もないし、お前のことなんてまったく興味ないぞ。

 魔剣に脅迫と強要をされて来ただけだから。


「ま、まさか、最近人魚が行方不明になっている犯人って……僕を攫う気!?」

「ねえよ」


 自分の身体を抱きしめて震える女に、思わず本音を強い口調で言ってしまった。

 こいつ攫っても俺にメリットないじゃん。


『メリットあったらするのか……』


 それは、その時々だろ……。


「えーと……俺はアリスターっていうんだ。ここにはちょっとした用事で立ち寄っただけの、ただの人間だ。君をどうこうしようという気持ちは微塵もないから、安心してくれ」

「ほ、本当……?」


 警戒されていたら鬱陶しいし、名前を言って緊張を解くようにする。

 それでも、まだ俺を見る目に色々な感情がある。


 ……何で俺がこんな気を遣わないといけないんだ。


「ああ。……どっちかって言うと、俺の方が怖いかな。人魚は歌で人間を海に引きずり込もうとするらしいからな」

「はあ? そんなことしないよ。人間を海に沈めて、何のメリットがあるの?」


 ちょっと弱みを見せてみたら、一転攻勢に出る女。

 知るか。実際に海難事故があるっていうからビビってんだよ。


 とくに理由もなく人を殺すような連中もいるんだし、人魚だってそんなもんだろ。


「僕たちの歌に、人間が勝手に聞きほれてかじ取りをしなくなったのが事故の原因だろう? 僕たちのせいじゃないよ」


 ツンとした態度で言う女。

 生意気だなぁ……。


 まあ、俺が事故ったわけでもないので、別にどうでもいいが。

 もし、俺が事故にあっていたら絶対に許さないけど。人魚という種族を浄化してやる。


 そして、それをやるのが魔剣である。


『民族浄化なんてしないぞ!』

「……それで、どうしてその無害な人間がこんな所にいるの?」


 先ほどよりは警戒は解いてくれたようだ。

 もう用はないし戻りたいから話しかけてくるなよ……。


「歌が聞こえてきたからさ」

「この辺りには人間はいないと思っていたんだけど……」


 ああ、なるほど。

 俺は空き家に泊まっているから歌声を聞いてしまったのだが、普段は誰もいないから聞かれることはなかったのか。


 ……この俺を人魚が出没するような場所にあてがいやがって……! あの村長に災いあれ!


「……普段はここには来ないよ。人間の近くにはできる限り近寄らないようにしているし、最近は人魚が行方不明になることも多いから」


 へー、そうなのか。

 先ほどから行方不明とか不穏な言葉が聞こえてくるけど、無視しておこう。俺は関係ない。


 よし、じゃあ人魚がいたということで、もう戻っていいよな?

 何も問題ないみたいだし。


『いやいや。普段は来ないってことは、何か理由があってここにきているというわけだ。聞いて、力になれるんだったら手助けしよう』


 何この無機物。おせっかいにもほどがあるだろ。

 こいつ、本当ろくでもないことしか思いつかないよな。死ねよ。


『聞くだけ聞くだけ。ほら、早く』


 頭痛ぁい! 最近雑だぞ!?


「じゃあ、どうして君はここに?」

「むぅ……」


 頭が割れるような頭痛に屈して、聞きたくもないことを聞く。

 女は俺を値踏みするようにジロジロと見て……。


 興味ないんだからさっさと話せよ。


「まあ、悪い奴じゃなさそうだし、それくらい話してもいいかな……」


 一人で頷きながら、そう呟く女。

 おっ、見る目あるじゃん。


『見る目ないなぁ、この子……』

「……歌の練習をしに来ていたんだ」


 女はどこか切羽詰ったような表情で、ここに来ていた目的を話した。

 そっすか。なんかシルクのことを思い出すから嫌だな。


「人魚は皆生まれながらにして美しい歌を歌うことができるんだけど……僕は才能がないらしくてね。綺麗な歌を歌うことができないんだ」


 悲しげな表情に歪めて言う女だが……興味ないっす。

 まあ、そういう人魚もいるんじゃない?


 人魚事情に詳しくないから、上手いも下手も分からねえよ。


「そうか。でも、こうして努力をしていることは、凄いことだと思う。いつか、他の人魚にも負けないような美しい歌を歌うことができるだろうさ」


 はい、適当に言いました。

 だって、わからないんだもん。


「……ふんっ。気安く根拠のないことを言わないでほしいな」


 ツンとした態度でそっぽを向く女。

 こっちが無理に褒め言葉ひねりだしているのに、何だその態度! ぶっ殺すぞ! 魔剣が!


『全部僕に押し付けようとするの止めようよ!』


 適材適所だろ。

 正直、俺はこの女と殴り合いをしていい勝負にしかならない気がする。


『僕は人殺しマシーンじゃないんだぞ!』


 剣のくせに何言ってんだこいつ。

 剣の役割なんて、人殺し以外のなにものでもないだろ。


「だけど、そうだね……。そう言ってもらえると、これからも努力を続けて少しでもお姉さまに近づこうと思えるかな。あ、ありがとう……」


 頬をうっすらと赤く染めて、お礼を言ってくる女。

 おう、それでいいんだよ。


 気分が良くなった俺は、よせばいいのに余計なことを聞いてしまった。


「へー。姉がいるのか」

「そうだよ!」

「うわっ」


 グイッと顔を近づけてくる女。

 端整な顔が目の前に現れるが、俺からすれば鬱陶しくて仕方ない。


 止めろ。初対面の人間にそんな胸襟を開くことなんてできないんだよ。


『幼馴染にも開いていないのに何を言っているんだ』


 女はキラキラとした顔で姉自慢を始めた。


「僕のお姉さまは凄いんだ! 美しい者が多い人魚の中でもさらに美しく、その歌声は人間どころか人魚すらも魅了してしまう素晴らしい人だ。女らしい気品も持ち合わせているし、その優しい性格から多くの人魚たちから慕われている。まさに、人魚が憧れる人魚なんだ!」


 そう……。

 まったく興味ない。


 お金持ちで俺を甘やかしてくれるような都合の良い人魚だったら……とは思う。

 ただ、万人に優しい人間はどうにも信用できないので、話を聞く限りだがその女はないな。


「その分、妹の僕が不甲斐無いんだけどね。お姉さまの足を引っ張ってばかりだ……」


 ……優秀な姉と比較されてきたのだろうか?

 それで、自分が貶められるだけならまだしも、姉にも何か小言を言われているみたいな?


 まあ、俺はずっと優秀で比較されるときも俺優位のものだったから、こいつの気持ちはさっぱりわからん。


「でも、今はこうして努力をして、少しでも近づこうと努力している。それは、誇ってもいいことだと思うぞ? 今度は、お前が姉のことを引っ張ってやることができるようになればいいな」


 俺はニッコリと笑って女にそう声をかけた。

 適当だけど。


「…………誘拐犯は甘言を用いて人を攫うと聞く。僕をどうするつもり……?」


 ふざけんなよこいつ。


「あははっ、嘘だよ。何だか久しぶりに笑えた気がするな。姉の足を引っ張っているって後ろめたく思っていたし、周りの人魚たちもあまり良い感情を僕には向けてくれないからさ」


 カラカラと笑う女。

 俺もお前に良い感情は向けていないぞ。迷惑な奴だなって思っているぞ。


 まあ、流石に今回はシルクみたいな面倒事に巻き込まれることはなさそうなので、勘弁してやるが。


「ねえ、一つお願いしてもいいかな?」


 俺を見上げて不穏な言葉を吐く女。

 ダメです。


「僕、あまり友達がいなくてさ。まあ、お姉さまの足を引っ張っているし、それも仕方ないんだけど……。だから……」


 もじもじとしながらも、俺の目から視線を逸らさずに向けてくる女。


「ぼ、僕と、と、友達になってくれないかな……?」

「嫌だけど?」

「えっ……」

「えっ……」


 し、しまった。ついうっかり本音が……!


「ふぇ……」


 あぁっ、女の目にいっぱい涙が……!

 ……そう言えば、人魚の涙って宝石とかになるものもあるんだっけ?


 売ったら金持ちになれる……?

 よし、じゃんじゃん泣け!!


『お前が泣け!!!!』


 怒りの声が脳内に響き渡る。

 それと同時、今までで最大級の頭痛がぁぁぁぁっ!?


 うっぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!?


『この子を何としてでも泣き止ませろ!!』


 俺を地獄の苦しみに叩き落としながら、悪魔の声が響き渡る。

 か、勝手に泣いたのこいつなのに……!


「な、なあ!」

「えっ……?」


 声を張り上げる。

 目から今にも落ちそうになるほど涙が溜まっていた。


 俺も泣きたいよ……。


「か、勘違いするな。友達になるのが嫌だって言ったんじゃないんだ……」


 俺の身体が自然に震えだす。

 い、痛みで人の身体が震えるのか……。これ、何かマズイ合図じゃないだろうな……。


「で、でも、さっき嫌だって……」


 ちっ、余計なことを思いだしやがって……!

 考えろ……! ここから大逆転して、この耐え難い頭痛から解放される言葉を……!


「ふっ、馬鹿だな。はぁ、はぁ……嫌だって言ったのは、お前の考え方さ」

「……どういう意味?」


 息も荒くなってきた……。

 運動していないのに息切れって、やっぱりマズイ状態じゃないか……?


 痛みで人って死ぬよな……?


「まだ分からないか? だってさ……」


 こんなこと言いたくない! だが、この苦痛から解放されるためだ!

 俺は、最高のイケメンスマイルを女に披露し、心にもない言葉を吐いた。


「――――――俺たち、もう友達だろ?」

「…………キザなの、君?」


 白けた目で見てくる女。

 ブッ飛ばすぞ……!! 言いたくて言っているわけじゃねえんだよ……!


 しかし、これで魔剣は満足のようで、頭痛は収まった。

 もう用済みじゃ、ボケ。


「でも、そうだね。ちょっと嬉しいかも」


 クスクスと笑う女。

 俺は悲しくて仕方ないぜ。


「よろしくね、アリスター……だっけ?」

「おう。えっと……」


 手を差し出されたので、また無視をすると頭痛が引き起こされそうということもあって、嫌々手を取る。


『人魚の手をこんな嫌そうに握る男は初めてだよ……』


 ……そう言えば、こいつの名前なんだっけ?

 別に興味ないからいいんだけど。


 今夜が最初で最後の出会いだし。

 しかし、女は俺が名前を呼びあぐねていることに気づいたのか、うっすらと笑みを浮かべた。


「僕の名前は、マルタ。マルタ・ピラーティ。よろしくね、アリスター」


 よろしくしたくないっす……。

 そう思いながら、笑顔で彼女の手を握りしめるのであった。




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