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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第二章 望まぬ行幸編

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第42話 ふっ……

 










「はぁ、はぁ……!」


 俺は大きく息を切らしながら歩いていた。

 出立前、ヘルゲがマガリに惚れていることが分かってウキウキ気分になっていたのはどこにいったのか。


 全身から大量に汗を溢れさせ、フラフラとおぼつかない足取りで歩いていた。


『おーい、大丈夫ー? しっかりしなよ』


 のんきな声音で言ってくる魔剣。殺すぞ。

 俺がこんなにも苦しんでいる原因は簡単だ。


 体力が……ない……!!

 もともと農民で、しかも農作業すらサボっていた。


 そんな俺が、何時間も歩き続けることなんてできるはずもなかった。


「てか、お前が言うなよ! お前の重みのせいでもあるんだぞ!」


 俺は小さく魔剣に対して怒鳴る。

 そう、普通に歩いているだけなら、もう少し持っていたかもしれない。


 問題は、持っている魔剣が無駄に重たいということである。

 普通に歩くだけでも俺には辛いというのに、それに加えてこの廃棄物の重み……拷問かっ!


「はぁ、はぁ……なあ、もうお前捨てて行っていい?」


 そうしたら、そのまま護衛の列から離れて故郷に帰るからさ。


『ダメに決まってるでしょ。さあ、頑張って頑張って』


 はぁ……こんな奴に応援されたら、余計にやる気なくなるわ。


『というか、それだったら馬を借りればよかったじゃん。実際、ヘルゲは乗っているんだしさ』

「乗れるか」


 俺は、この行幸に出立する前に、あちらさんから馬を貸すという提案を受けた。

 確かに、馬に乗っていれば自分で歩く必要もないため、今のように疲労することはなかっただろう。


 だが、ただの農民が馬に乗れるわけがないだろうが。馬鹿か。

 農耕馬を使っている人もいたが、それだって騎乗する目的ではないし、そもそもサボりまくっていた俺なんか馬の扱いすらさっぱりわからんわ。


『それはまあ……仕方ないかもしれないけどさ。サボっていたのは自業自得だけど』


 そもそも、こんなこと想定していなかったんだから体力なくたって仕方ないだろ!

 俺は適当に農作業をサボりつつ上手いこと都合の良い女を捕まえて養ってもらおうとしていただけなのに……!


 それもこれも、あいつが俺を引きずり込んだから……!


『あ、あれマガリじゃない?』


 魔剣の声に顔を上げれば、俺の近くに馬車が来ていた。

 そして、その小窓から顔をのぞかせるのは、マガリであった。


 彼女はニマニマと、本当に楽しそうに俺を汗だくの顔を見ていた。

 何見てんだ、ああっ!?


 聖女だからって馬車に乗せてもらうとかズルいぞ!

 俺がそこに乗るからお前が歩け!!


 しかし、当然そんな思いが届くはずもなく……。


「ふっ……」

「ッ!?」


 心底馬鹿にしたような目で俺を見ると、すっと小窓から姿を消すのであった。


『うわぁ……あの子も君と同じくらいクズみたいだね』


 クソがああああああああああああああああああああああああああっ!!!!

 俺は怒りでさらに息を荒くさせながらも、ひーひー言いながらついていくのであった。











 ◆



「あー、つっかれたぁっ!」


 俺は大きく声を出して、ドサッと座り込んだ。

 少し小高い丘のようになっており、眼下には行幸の目的地である村が見えていた。


 うーむ……うちの故郷ほど寒村というわけではなく、そこそこ豊かで規模もあるようだ。

 近くには海もあって、潮風が気持ちいい。


 ……ただ、ずっとは当たっていたくないな。ギシギシしそう。

 しかし、今のように汗をかいた身体が冷えていく感覚は本当に気持ちがいい。


 もちろん、長く当たっていると冷えてしまうため、そこはちゃんと考える必要があるが。


『お疲れー。なんだかんだ言ってここまで来られたんだから、凄いよ』


 魔剣も労いの言葉をかけてくる……が。

 普通に褒めてくるとか……何こいつ気持ち悪い……。


 最近では俺を罵倒することしかしない無機物お荷物のくせに、いったいどうしたというのだろうか?

 今更すり寄ってきたところで、俺がこいつを捨て去ることには変わりはない。


 溶鉱炉にでもぶち込んでやろうか?


「てか、本当何もない場所だなぁ。ド田舎って感じ」

『こら! そんなこと言ったらダメだろ!』


 俺が素直な感想を言えば、魔剣がまたしょうもない正義感で咎めてくる。

 いいんだよ。絶対に人がいるような場所では言わないんだし。


 外面だけは完璧にしているのだから、毒を吐いている姿など絶対に見られるわけにはいかない。

 ド田舎だが、行幸にやってきた聖女の一行ということで、多くの村人たちが集まって歓声を上げている。


 海側には船が何艘かつけられており、それで漁をするのだろう。

 ……新鮮な魚、食べたいなぁ。


『あ。あれ、マガリだよね?』


 魔剣が気づいたように声を上げる。

 視線を向ければ、年寄りの手をにこやかな笑顔で握っている清純で優しそうな女がいた。


 ああ。猫かぶり偽善者モードのマガリだ。

 俺は今まで大変だったが、これから大変なのは彼女だろう。


 これから、村人たちが求める聖女像を演じていかなければならないのだから。

 もちろん、俺も注意して本性を知られるようなことはないようにしなければならないが、主に対応を求められるのはマガリであり、俺はおまけみたいなものだ。


 とくに気負うことはない。

 そんな風に上から見ていると、チラリとマガリが視線を向けてきた。


 ……結構離れているのに、よく俺を見つけられるな。

 もしかして、俺が馬鹿にしている視線を感じ取ったのだろうか?


 ならば……。


「ふっ……」

「~~~~ッ!!」

『あっ。一瞬憤怒の表情を浮かべたね』


 先ほどマガリが俺に馬車の中から向けたような嘲笑の笑みを向けてやれば、一瞬で沸騰して顔を真っ赤にする。

 ……が、村人が視線を向けた瞬間に元の白い肌に戻していた。


 ふっ、まあまあだな。

 てか、自分がされてそんなに怒るようなことを俺にするなよ……。


『いやー……君で見慣れているけど、本当凄い演技力だよね』


 呆れながらも感心したような声音でそう言う魔剣。

 しかし、俺は首を横に振る。


 まだまだだな。

 あいつはエリアからの好意を、妃という立場が多くの人の目を集めて、その中で演技をし続けることは厳しいといって拒絶している。


 だが、俺だったら四六時中どれほど見られても演技を続ける自信がある。

 まあ、流石に命を狙われやすい奴の隣には立ちたくないがな。


『……それを別の形に活かせていれば』


 嘆くような魔剣の言葉に覆いかぶさるように、潮風に乗って喧しい声が聞こえてきた。


「アリスター! 早くこちらにいらしてくださーい!!」


 俺に嘲笑われることに限界が来たのか、大声でマガリが呼んでくる。

 ニコニコと顔だけは笑っているが、あいつの心中は怒り狂っていることが分かる。


 やれやれ、行ってやるとするか。

 ずっとここにいてもあれだしな。


 あと、もっと間近で苦労しているマガリを見て嘲笑いたい。


『君たち歪みすぎだろ……』











 ◆



 俺たちは……というより、聖女であるマガリは村長宅に招かれていた。

 本当は俺も他の護衛の騎士たちと一緒に外でのんびりとしているはずだったのだが、何でもかんでも道連れにしたがるヤバい女であるマガリに引きずり込まれてしまったのであった。


 こいつ、俺のこと大好きかよ。


「本日はこのような村にも来ていただき、ありがとうございます。村人たちも聖女様が来られたということで、喜んでおります」

「いえ、私の方こそ温かく出迎えてもらって嬉しいですわ。温かい人たちに触れ合えて、とても幸せです」


 にこやかに笑みを浮かべ合う村長とマガリ。

 どの口が言ってんだ? お前、行幸だってクソ嫌がっていたの知っているんだぞ。


「この村は何にもない田舎ですが、運が良ければ人魚を見ることができます。何とか聖女様とお会いしていただきたいものですなぁ」


 ほんっとうにド田舎だよな。寒村出身の俺が言うのもなんだけど。

 こんな所には、俺にとって都合の良い女はいそうにない……。


「…………人魚?」


 ふと気になった言葉を呟いてしまう。

 怪訝そうにマガリが見てくるが……人魚?


「ええ。この村の近くには、人魚がごくまれに現れることがあるんですよ。村にも、人魚伝説として伝わっている話もありますしね」


 へーっと聞きつつ、俺は少し前にシルクがやってきていた時のことを思いだす。

 ……聞いたことがあるぞ?




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