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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第二章 望まぬ行幸編

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第40話 呼び捨て

 










「さあ、ここまで来たんだったら覚悟決めなさい」

「連れてこられたの間違いだろ」


 俺は王城に来ていた。

 もちろん、俺の意思ではない。


 隣で歩いてすまし顔をしているマガリに強制的に連れてこられたのである。

 とはいえ、流石に俺も国王の命令となれば表だって拒否することはできなかった。


 まあ、雲隠れするということは考えたが、それを防ぐためにマガリがわざわざやってきたのだろう。マジでいらないことをしてくれるな、こいつ。


「……てか、何でお前が来たんだよ。普通、聖女を呼び出しに使うことなんてないだろ」


 こいつじゃなかったら、上手いこと言って逃げるつもりだったのに。

 腹立たしい。


「もちろん、最初はヘルゲがあなたを呼びに行くことになっていたわ。私も、あなたを道連れするため以外にこんな使い走りみたいなことしないわよ」


 確かにそうだろう。

 俺と同じく、農作業を平然とサボっていたような女だ。


 誰かを呼びに行く、なんて下っ端のやるようなことを、こいつが積極的にやりたがるようなはずがない。


「私以外だったら、あなたはなんだかんだ上手いこと言って逃げ出していたでしょうからね。だから、私がそれを防ぐためにも来たのよ」


 ニヤリと笑うマガリ。

 ちっ、と俺は隠すこともせずに大きく舌打ちをした。


 今更こいつに隠すような本性もないしな。


「そういえば、お前王子と仲良くなれたの?」


 少しでもマガリのことを揺さぶりたくて、俺はそんなことを聞いてみる。

 彼女の身体が小さくビクッと動いたことを、俺は見逃さなかった。


 ふっ、人の弱みは決して見逃さないぜ……。


「玉の輿ねらえよ。何だったら、俺も手伝ってやるからさ」


 ニッコリと笑って言えば、マガリはこっちを睨みつけてくる。


「ぜっっっったいに嫌……!」


 そして、ドスの効いた声であっさりと拒絶宣言。

 お、おぉ……まあ、嫌がると思っていたからこそ言ったのだが……一国の王子とのつながりを持つことをここまで激しく拒絶するのは、珍しいのではないだろうか?


「王子の妃なんて、本当に四六時中猫かぶり続けないといけないじゃない。私、多分耐えられないわ」


 ブルブルと震えながら言うマガリ。

 鍛錬が足りんなぁ……。


 俺なんか死ぬまで演技を続けられる自信があるぞ。


『君が異常なだけだぞ』


 うるさい魔剣だなぁ……。


「それに、エリアの俺様って感じが嫌いなのよ。上から見られることって、ほんっとう腹が立つから」


 本当にイライラしている様子で呟くマガリ。

 自分がいつも他人を見下しているくせに、何言ってんだこいつ。


 自分が他人にすることは、往々にして帰ってくるんだよなぁ……。


『自分のことを棚に上げて何を言っているんだこいつ』


 俺は一切表に出していないからいいんだよ。

 そんなことを話しているうちに、王城の中でも重要な場所……玉座の間の前にたどり着いていた。


 ここからは、俺の完璧なる演技を発揮しなければならない。


「さっ、着いたわよ。ここからはちゃんと猫を被った方がいいわ」

「言われるまでもない」


 マガリと俺はキリッと表情を変える。

 ふっ、完璧だな。


『なんなんだ、この二人……』


 魔剣の引いたような声を聞きながら、俺たちは玉座の間に入っていくのであった。











 ◆



 中では、この国のトップであり俺を呼びつけやがったクソジジイ……もとい、国王が一段高い場所に坐していた。

 それを守るように幾人かの騎士たちが周りを囲み、さらに貴族たちも何人か囲んでいる。


「よく来たな、勇者よ。ご苦労じゃな」


 偉そうに言ってくれる国王。

 本当だよ。何の権限があってこの俺を呼び寄せてんだ、こいつ?


 神でさえも俺に頭を下げるべきなのに……。

 というか、何が勇者だ。俺はそんなものになるつもりは毛頭ないぞ。


「いえ。陛下のご命令とあらば、いかな困難でも打ち破って駆けつける所存です」


 だが、もちろんその感情を表現する馬鹿はいない。

 それどころか、俺が思っていることとは正反対の言葉と共にその雰囲気も醸し出すことによって、真実性をマシマシにする。


『おぉ……!』

「そうか。嬉しいことを言ってくれるの」


 周りの貴族や騎士たちが感嘆のため息を漏らし、国王までもが頬を緩める。


『どの口が言うんだ、どの口が。寸前に国王に向けるとは思えない負の感情を出していたのに』


 魔剣は相変わらず苦言を呈してくるが、何も響かない。

 そんな奴の言葉に感心する馬鹿な貴族と騎士どもよ。


 ほんっと、マガリさえいなければ世渡りなんてチョロイぜ。

 ここにいる貴族の令嬢に都合の良い奴はいないかなー?


『いつか痛い目に合ってくれないかなー、こいつ』


 こいつ、俺がいないと再封印ということが分かっていないようだな……。


「ところで、俺はどのような理由で呼ばれたのでしょうか?」


 俺は早速用件を聞く。

 マガリがいるような場所に長居すれば、こいつがまた俺を何かしらの手段で巻き込もうとしてくるので、さっさと出て行きたいのだ。


 さてはて、国王の命令とはなんだろうか?

 ゴブリンくらいだったら、ほんっとうに嫌だけど魔剣がどうにかしてやるぞ。


 そんな風に待ち受けている俺に、国王は破顔して口を開いた。


「おお、そうじゃな。お主を呼んだのは他でもない。聖女の行幸に連れ添って護衛してほしいのじゃ」


 はい、却下。

 俺は笑顔の下でさっさと拒否して出て行くことを選択した。


『えぇ……? 君の幼馴染でしょ?』


 魔剣が困惑気味の声を漏らす。

 幼馴染の護衛ということは、確かに傍から見たら普通のことかもしれない。


 だが、俺とマガリの関係性は一般とは隔絶しているのである。

 何度も言っているだろ。俺とマガリはお互いを邪魔に思っているんだぞ。


 なんだったら、彼女がどこぞの山賊に襲われて誘拐された方が嬉しいのだ。


「行幸、ですか?」


 もうちょっと意図を読み取ろうと尋ねる……と見せかけて、断る理由を考える時間稼ぎをする。

 もう行くつもりは毛頭なかった。


「うむ。聖女としての教育の一環……社会見学のようなものじゃな。少し離れた場所に慰問に行くのじゃ」


 そう……行ってきたら?


『無関心!』


 いや、そう言われても……本当に興味がない。

 マガリがもっと遠いところに行ってくれるのであれば、ニコニコ笑顔で送り出すのだが……。


『付いて行きはしないんだね……』


 当たり前だろ。


「それには、やはり護衛が必要じゃ。遺憾なことに、賊などもおらんとは限らんからな。それを、勇者に頼みたいのじゃ」


 嫌ですけど?

 俺にそんな義務ないし。


 なんだったら、賊に襲われてどこか遠い場所に行ってくれることさえ望んでいる。

 ただでさえ、人のために戦ったり人を守るために身を張るのが嫌なのに、それが怨敵であるマガリが対象となれば、やる気がわいてくるはずもないだろう。


 …………よし、この断り文句でいくか。


「……俺の力をそれほど見込んでくれていることは、光栄です。しかし、俺は力不足だと思います。マガリを……いや、聖女様を守るにふさわしくないかと思います。精鋭の騎士の方々に任されることがいいかと……」


 伝家の宝刀、『力不足で謙遜』である。

 これなら、相手方も受け入れざるを得ないだろう。


 なぜなら、俺は今まで農民ということもあって軍事訓練も一切受けていないし、目に見える成果を上げたことすらないからだ。

 だからこそ、謙遜とまですらいかずに本当のことを言っているということにだってなる。


 実力がよくわからない人間が言うことなのだから、聞かざるを得ないということである。


「――――――!!」


 マガリが凄く怒っているけど無視である。

 あいつも流石に声を出すことはできないようなので、顔で怒っているだけだし。


「うーむ……確かに、元は農民じゃったな。訓練を受けていなければ、聖女を守ることもできないかもしれんし、何より勇者の身も危ないかもしれん」

「――――――!?」


 お、分かっているじゃないか、このジジイ。

 俺が敬意や忠誠心を持っているように見せかけたことも、好意的に受け取られる理由の一つになっているだろう。


 俺の演技にはマガリ以外誰も気づいていないし……世の中、チョロイな。

 マガリが激しく狼狽しているが……ぶはっ、いい気味だ。


 俺と国王の言葉を受けて、ざわざわと騒がしくなる玉座の間。

 これは……いける!!


 マガリだけを遠ざけ、その間に俺は雲隠れでもしてみよう。

 彼女がいなければ、逃げることだって容易だろう。


 魔剣を投げ捨て、そうだな……外国にでも行ってみるか?

 流石に故郷は戻ってきたマガリが真っ先に捜索するだろうからな……。


 ふふっ、夢が広がってきたぜ。


『大体そういうときは上手くいかないよ』


 つまらないことを言う魔剣。

 負け犬の遠吠えはよせ、魔剣。捨てるぞ。


「ふーむ……確かに、今回は聖女の護衛は騎士に任せた方が……」


 国王の言葉に、俺は勝利を確信した。

 俺が内心ひゃっほいっと大喜びし、マガリが絶望の表情を浮かべて……。


「いや、護衛はその男に任せるべきです、父上」


 余計な口をはさむ奴が現れた。

 くそっ……話を遮るだけならまだしも、俺に不利になるようなことを言いやがって……!


 誰だぁっ!?

 俺は怒りのままに振り向いて……。


「エリア……王子」


 そこにいたのは、この国の王子であるエリアであった。

 あっぶね。呼び捨てにするところだったわ。




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