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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第一章 勇者聖女誕生編

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第22話 気に入らんといて!

 










「あらあらぁ? まさか、この女を助けに来たの? 出てこなかったら、死なずに済んだのにねぇ」

「(ひぇぇ……)」


 エドウィージュがガクガクと首を曲げながら言うので、アリスターは内心震え上がっていた。

 ただ、彼の猫かぶりは凄まじいの一言で、その臆病っぷりを一切外に出さずに油断なく彼女を見据える戦士の様相であった。


「貴様は……くくっ、報告にあった男だな。近頃、私の奴隷であるシルクが世話になっていたようでな……いずれ、お礼をさせてもらおうと思っていたところだった」

「(え、お礼? 金? 金ですの?)」


 プリーモの言葉に、アリスターは内心歓喜する。

 なんだ。嫌々付き合っていた甲斐があるではないか。


 やはり、誰かが必ず見てくれるのだ。


「お礼って、どうせ楽に殺してやるとかそんなんでしょー?」

「苦しまずに死ねるんだったら、それも礼になるだろ」

「きひひひひっ!」

「ふはははははっ!」


 そのすぐ後のエドウィージュとプリーモの会話に白目をむいたが。


「(頭おかしいじゃん、こいつら……。もう一度勉強し直した方がいいんじゃね?)」


 エドウィージュはともかく、貴族として教育を受けていたプリーモに、一度も教育を受けたことのない農民の言葉である。


「さて、今すぐここから背を向けて逃げ出すのであれば、追わないでいてやるぞ? みっともなく、みじめに逃げるのであれば、な」


 プリーモはせせら笑う。

 アリスターのように容姿が整った男が、余裕を捨てて必死に逃げている姿は堪らなく好きだ。


「……私はいいから。アリスターは逃げて。貴族に逆らったら……」


 助けられたシルクもまた、アリスターに逃げるよう進言する。

 ここで彼が逃げれば、自分がどうなるかは分かっているはずなのに……。


 それほど、彼のことを大切に想って自分を捨てることができるほど、彼女の性格はできていた。


「(え、本当ですか!? 逃げる逃げる!)」

『プライドはないのか!?』


 なお、アリスターの性格はまったくできていなかった。

 聖剣も声を荒げるが、彼は落ち着けと内心で呟く。


「(流石に冗談だって。どうせ逃げたところでこういう性格悪そうな奴は、それを嘲笑ってから殺してくるだろうし)」

『それに、シルクのこともあるしね!』


 いいえ、シルクのことは特に考えていません。

 本当にプリーモが逃がすような性格だったならば、彼は嬉々として逃げ出していただろう。


 しかし、どうせ逃げたって殺されるという理由と共に、アリスターがここに残ったもう一つの強い理由……。


「(それに、俺のことをコケにするとか許さん。ゴミ虫風情が……生きてきたことを後悔させてやる……!)」

『プライド高っ!!』


 聖剣は前言撤回をした。

 アリスターのプライドというか、自己愛は凄まじいものがあった。


「お断りだな。お前たちを倒し、シルクを助ける」

「アリスター……」


 外面だけは格好よく決めるので、シルクは救世主を見るかのように彼を見上げていた。

 まあ、状況的には殺されかけていたのを助けてくれたということもあって、正しいのかもしれないが……。


「馬鹿な奴だ。ヒーロー願望でもあるのか? 女の前だから、良いところを見せようとしたか? どちらにせよ、その判断でお前は苦しんで死ぬことになる。……エドウィージュ」

「はいはーい」


 そんな彼らを見て、プリーモは顎肉を揺らしながら笑った。

 勇気と無謀は違う。そして、アリスターが選んだことは、間違いなく後者に当たるものであった。


「エドウィージュは私の護衛だが……騎士というわけではない」

「(見た目キモイし、それは見れば分かる)」


 自慢げにエドウィージュを紹介するプリーモ。

 ボサボサの髪に痩せた風貌、そして常軌を逸している話し方などから、割と失礼なことを考えるアリスター。


 何も言わない彼を見て、プリーモはさらに怯えさせようと言葉を発する。


「彼女はな、あのグレーギルド『アコンテラ』のメンバーだ」

「(どこだよ)」


 最近寒村から出てきたばかりのアリスターが、ギルドの名前など知るはずもなかった。

 その『アコンテラ』というグレーギルドが、この王都でどれほど恐れられているかということも……。


『その組織の名前は知らないけど……グレーギルドっていうのは、普通のギルドと違って犯罪も平気で行うようなギルドだね。だから、正規ギルドと違って区別されているし、国からの支援も受けられないんだけど……』

「(なん、だと……)」


 何百年も森の中に突き立てられていたとはいえ、アリスターよりも知識がはるかに豊富な聖剣に教えられ、彼は内心愕然とする。

 そんな頭のおかしい組織と敵対しなければならないのか、と戦慄する。


 しかし、今更どの面を下げて逃げ出せるというのだろうか。

 というか、逃げてもプリーモは決して許すような男ではないことは分かっているので、彼はもはや相対することしかできないのである。


「彼女がどこの組織の人間かなんて関係ないさ。俺は、誰が相手になろうともシルクを守る。たとえ、それがグレーギルドでもな」


 そうとなれば、とりあえず恰好つけておく。

 内心冷や汗をダラダラ流していても、誰にも気づかれないのでセーフだ。


 見た目だけは格好いいことになっているので、シルクは呆けたように彼を見上げる。


「ちっ!」


 一方、腹立たしいのがプリーモだ。

 不様にうろたえる姿が見たかったのに、アリスターは強い決意で彼らの前に立ちはだかる。


 それを、気に入るはずがなかった。


「きひひひひひひっ! 『アコンテラ』の名前を聞いて、それだけ啖呵を切れるのは凄いじゃない。雇い主さんはあんたのことが嫌いみたいだけど、私は気に入ったわ」

「(気に入らんといて!)」


 エドウィージュの言葉に愕然とするアリスター。

 というか、名前を聞いて逃げなかっただけで褒められるとか、どれだけ『アコンテラ』がヤバいのかと震えあがる。


「シルクとかいうガキをズタズタにした後、あんたの両手足の腱を切ってお人形さんにしてあげるぅ!」

「(それだったらシルクをよろしくお願いします!)」

『おいゴミ!』


 聖剣の罵声に器の小さいアリスターが憤怒。心の内で激しい口論を繰り広げる。

 そして、プリーモとエドウィージュもまた軽い口論をしていた。


「エドウィージュ! 勝手なことを……!!」

「雇い主さぁん。あたしたちにそこまで干渉するのはなしでしょう?」

「うぐっ……! か、勝手にしろ……!!」


 その口論はあっさりと終わったが。

 エドウィージュは依頼を受けて護衛をしているのに過ぎないので、何でも命令を聞く部下ではないのだ。


 その領域を弁えずに超えてしまえば……貴族であるプリーモでも、『アコンテラ』は危害を加えることに躊躇しないだろう。

 そのため、汗をたっぷりとかいてそっぽを向くのであった。


「アリスター、あなたは逃げて……!」

「(逃げたいっす)」


 シルクは再三にわたってアリスターを逃がそうとする。

 自分がどうなってもいいから、それでも彼を助けようとするのだ。


 内心でクズな考えをしているアリスターとは比べ物にならない。

 だが、何度も言うが、ここに至っては逃げることもできないのである。


「安心しろ。俺がシルクを助ける」


 そこで、アリスターは相変わらず格好つけるのであった。


「かっこいいー!! ますます欲しくなってきちゃった!」

「(止めて!)」


 シルクが頬を赤らめて彼を見上げるのと同じく、エドウィージュも歪に笑いながら褒め称える。

 アリスターは頬を引きつらせていた。


 エドウィージュはそんな彼の様子に気づくことはなく、両手を地面につけてぐぐぐっと身を低くする。

 それは、まるでこれから駆け出す猛獣のようだった。


 当然、ド素人のアリスターは警戒して構えることすらできず……。


「だからぁ……大人しく両手足斬られて……ねっ!!」


 次の瞬間、エドウィージュの姿がアリスターの視界から完全に消えた。

 は? と目を丸くした直後、彼の腕が独りでに跳ね上がり、聖剣を抜いて構える。


 ギィン!! と耳をつんざく金属音が鳴り響いた。

 腕に伝わる衝撃と共に、目の前にエドウィージュの姿が現れた。


 彼女の手に持たれてあるのは、短剣。アリスターの腕を切り裂こうと振るわれたそれを、聖剣が防いだのだ。


「あら……?」


 まさか防がれるとは思っていなかったようで、エドウィージュは目を丸くしていた。

 だが、それは防いだアリスターも同じである。


「(……何が起きたのかさっぱりわからん)」




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