コミックス1巻発売記念(副題:アリスター、寄生の矛先をシルクへ向ける)
アリスターとマガリの結婚(苦笑)の後の時系列です。
「~~~~」
ああ……帰りてえ……。
俺は舞台の上で輝かく笑顔を見せながら演劇をしているシルクを死んだ目で見つめながら、ボーッと考える。
もはや、上の空で演劇の内容なんて入ってこない。
『王都演劇団の演劇を……それも、シルク主演の演劇を、最もいい席で見させてもらっている立場でそんなことを言えるのは、君くらいなもんだよ』
いや、そんな大層な……。
『いや、本当に。今、あの子主演の演劇って予約殺到していて見たくても見られない人がほとんどらしいよ。数年待ちらしいし』
数年も待って大金を払って、演劇を見るの?
価値観違いすぎてわけわからん。
金があったらぼーっと自堕落に過ごす方がよっぽど有意義じゃん。
『無意義なんだよなあ……』
そんなバカな会話を魔剣としていると、どうやら演劇が終わったらしい。
満員の観客席から、万雷の拍手が鳴り響く。
『ほら、終わったよ。立って拍手! 立って拍手!』
面倒くせぇ……。
嫌々魔剣に促されて立とうとして……ふと、あることに気づいた。
……ん?
ちょっと待てよ。
シルクって、今そんなに人気なんだよな?
『うん。王都、王国を超えて、他国にまで知れ渡っているらしいよ』
……ということは、かなり高給取り?
『……ま、まあ、そうなんじゃないかな? 低い待遇を受ける理由もないし』
……よく考えれば、シルクって物静かで比較的楽なんだよな。
ご機嫌取りも、たまにこうして演劇を見に来るだけでいいし。
そして、高給取り。
演劇団である程度の地位にいけば、引退してからも関わり続けることができることから、地位も安定している。
……ふむ。
『え、ちょっと? 嘘でしょ?』
思案する俺に、魔剣が焦った声を向けてくる。
それを無視し、俺はスッと立ち上がった。
シルクに満面の笑みを浮かべ、大きく拍手をする。
彼女も俺のそんな姿を見て、嬉しそうに笑った。
シルク! お前に俺を養わせてやろう!
『ここにきて、全力のスタンディングオベーション!?』
◆
しかし、アリスターの思い通りにはもちろん進まず。
「(はぁ……なんで私が接待なんてしなくちゃいけないのかしら? むしろ、私を接待しなさいよ。ありえないくらい持ち上げなさいよ)」
表面上はニコニコ、内心は唾を吐くマガリ。
彼女がいる場所は、王城の最高ランクの客室。
彼女だけでなく、国王にエリア、加えてアリスターとシルクまでいる。
シルクは演劇を披露している。
今では彼女の劇を見るために数年待ちなのにもかかわらず、そんな彼女を呼び寄せてまで接待をしなければならない相手。
王国で最も偉い国王や王子、聖剣持ちの勇者に聖女までもが出張る相手。
「ほう、美しい女だ。どうだ? わが帝国に来る気はないか? 妾として、かわいがってやるぞ?」
それこそ、上から目線でとんでもないことを言ってのける男……帝国の王子ミクスである。
王国とは比べものにならない国力を誇る帝国。
そんな国の王子が出てくれば、当然不興を買うわけにもいかないため、これほどの人々を接待に当たらせているのである。
「おほほほっ。私、すでに婚約しておりますので」
ここぞとばかりにマガリは指輪を披露!
ちなみに、普段は婚約者と罵倒しあっているのだが、その幸せそうな仮面笑顔は睦まじい夫婦にしか見えない。
「そんなことは関係ない。俺の思い通りにいかないことなんてありえないのだから。俺の思うままに、世界は動くのだ」
「(なんだこいつ……。アリスター以上に吹っ切れていない中途半端だから、余計むかつくわ)」
アリスターの婚約者発言で自分にダメージを負っていたマガリだが、それ以上のミクスを見て辟易とする。
「陛下。彼女は我が国にとって非常に重要なお方。冗談でもそのようなことは受け入れられません」
「冗談ではないのだがな。だが、まあいい。帝国も貴様らと戦争がしたいわけではないのだからな。だが、代わりと言ってはなんだが……」
ジロリとミクスが目を向ける。
その先には、美しい演技を披露するシルクの姿。
「あの女を、もらい受けようか」
「(ぶっころ)」
自分は関係ない感じで気配を殺していたアリスター、自分がマーラの次に目を付けた寄生先を取られそうになり、一瞬で沸騰。
「シルクを渡すわけにはいきません。彼女は、俺にとって大切な人だから」
「なんだ貴様。殺されたいのか?」
大国の王子とにらみ合うアリスター。
普段の彼からは考えられない蛮行である。
『アリスターが帝国の王に立ち向かうだなんて……。分かったぞ! マガリと婚約させられたことによって、もはや自分がかなり崖っぷちにいることに気づき、だからこそシルクという希望を奪わせないために、普段では決してしないことにも勇気を出して踏み込んだんだ!』
「(私という世界最高の美女を手に入れておいて、何様?)」
『そこまでの自信は素直に凄いと思う』
聖剣が真理にたどり着く。
ここで、マガリ。
アリスターに幸せになってもらっては困ると、自分にもダメージを負うもろ刃の剣を繰り出す。
「ですが、アリスター。この国のこと、人々のこと……そして、婚約者の私のことも考えてくれていますか?」
「(ううん。俺さえよければそれでいいから)」
『こっちも素直だ……』
無表情で首を横に振るアリスターに、マガリの額に青筋が浮かぶ。
「あなたの言動一つで、多くの人々が影響を受けるんですよ?」
「その聖女の言う通りだ。あまり強い口をたたくなよ、勇者。潰したくなる」
「(ひぇ……。怖い……)」
『一瞬でしなびた』
寄生先を奪われそうになって奮い立ったアリスター、一瞬で戦意をそがれる。
「……いいの、アリスター。あなたに助けられたこの命、あなたのために使えるのなら、何も後悔なんてない」
そう言って、シルクは悲しい笑みを浮かべてミクスに連れられて行く。
だが、自分大好きアリスターは、絶対にそんな結末を許さない!
◆
大陸最強の帝国に、たった一人で、たった一人のために立ち向かう勇者アリスター。
「俺が聞きたいのはそんな言葉じゃない! ただ一言、その言葉を言ってくれたらいいんだ!(俺を養いたいって言え!!)」
『その言葉だけは絶対に違う!』
その想いを受けて、大女優シルクも涙を流し、自分の本心を叫ぶ。
「――――――助けて!!」
「その言葉を待っていた(そんな言葉なんて待っていなかった……。養いたいって言えよ……)」
寄生先を助けるために奮闘するアリスター。
そして、とにかくアリスターが幸せになることだけは嫌なマガリが登場!
「アリスター! 婚約者の私はどうなるんですか!?」
「テメエ……! そこまでなりふり構わないのか……!」
ミクスの血を吐くような迫力のある衝撃の言葉に、アリスターは自己保身のために戦慄する。
「俺が自分の欲望のためだけに動いていると思っているのか!? 俺には、帝国とその民を守る義務がある! あの黙示録の魔物が生まれるのを防ぐために、この女の歌と命を費やす。圧倒的多数を救うためには、仕方ないんだ!」
「バカ野郎! そんな(俺にとって寄生先を失うという)悲劇的な結末、誰が望むんだ!」
彼は自分のためにのみ、行動する。
「アリスターを助けられるのなら、私は……」
「必ず、助ける……!」
偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~【黙示録の魔物編】
そして、黙示録の魔物は復活する。
【■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!】
「(……やっぱ、シルク生贄になってもらっていい?)」
『ダメです』
続かない。
コミックス1巻が本日発売されました!
蟹蜜先生がとても面白くしてくれていますので、ぜひご確認ください。
1巻には、書き下ろしSSも掲載されております。
カバー裏が面白かった(小声)
 




