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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
最終章 アリスター消失編

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第155話 9割弱ってところだね!

 










「ば、ばっかじゃないの!? 普通、自分が犠牲になってヒロインを助ける展開でしょ!? なに積極的にヒロインも道連れにしているのよ!!」

「お前はヒロインではない」

「それくらい美人で可愛いってことよ!!」


 くわっと俺を間近で睨みつけるマガリ。

 自分でこれだけ言えるのは凄いと思う。悪い意味で。


 まあ、俺も誰よりもイケメンだと思っているけど。良い意味で。


「よし、これでどうだ魔剣!?」

『そうだね! これで、僕たち三人が皆仲良く壊れる確率は9割弱ってところだね!』


 まだ分が悪い!?

 どれだけ役に立たないんだマガリ!!


「私のせいにしてんじゃないわよ! じゃあ、離しなさいよ!!」

「今は猫の手も借りたいんだ。役立たずでも使ってやるから感謝しろ」

「ぶっころ」


 こいつ、噛み付こうとしてきやがる……!

 必死に手をつなぎながらいなしていると、ぶおっと魔石の方から異質な魔力の増大を感じ取った。……魔剣がだけどね。俺はさっぱりわからん。おかしな風が吹いたなぁ、くらい。


 視線を向ければ、ドクン、ドクンと魔石が脈動する。

 ……鉱石が脈動ってやっぱり以上だよな?


 形もグニャグニャと気持ち悪く動き出している。

 も、もう爆発しちゃう系ですか!?


『もう時間がない! やるよ!!』


 その魔剣の言葉と共に、それを持つ俺の腕が振りあげられる。

 溢れ出す黒い魔力は、今までとは比べものにならないほど巨大で濃厚なものだった。


 魔剣と、俺と、マガリの色々と大切なものを注ぎ込んで発した力だ。

 これで失敗とかだったら笑えねえからな!!


「うわあああああああああああああああああ!! 俺だけでも助かってくれえええええええええええええ!!」

「この二人を生贄に、私を召喚!!」


 俺とマガリの声が響く中、魔剣が振り下ろされた。

 そこから放たれた力が魔石を覆い隠そうとした瞬間、あの鉱石も一気に膨れ上がり……。


 そして、世界は白に染まった。











 ◆



 …………あれ?

 あれからどうなった? 魔石が爆発しそうになって、魔剣に道連れにされて、マガリを道連れにして……あれ?


 目を開けようとするのだが、驚くほど瞼が重い。

 っていうか、すっげえ眠い。まあ、それもそうか。気絶しているうちに化け物みたいなフロールを倒していたし、それもよくわからない力を発揮したようだからな。


 ぶっちゃけ、いつ倒れてもおかしくないくらいには疲弊していた。

 このまま寝たいのだが……いや、目を開けて状況確認くらいはしておいた方がいいだろう。


 ゆっくりと、ゆっくりと目を開けていき……。


「あら、起きたのね」


 俺の目に映ったのは、マガリの顔だった。

 ……何で起きたてにお前の顔を見ないとあかんねん。


 別に彼女の顔が見るに堪えないというわけではない。整っているとは思うし、今のようにうっすらと笑みを浮かべている様子は、まさに絵画のようだ。

 ……内面がドブ以下って知っていなかったらな!


 というか、俺を覗き見ているせいか、ハラハラと垂れ落ちてくる黒髪が頬を撫でてくすぐったい。

 良い匂いもするし口に入れるぞ、これ。


 しかし、そうか。こいつも死ぬことを免れていたか。

 うーむ……あんなに分の悪い賭けだったのに、俺もこいつも生き残るとかわけわからん。


 まあ、悪くはないんだけどな。


「感謝しなさい。世界中の男たちが望んでもしてもらえない膝枕をしてもらっているのよ」


 ……そうか。後頭部が柔らかく温かいと思っていたら、お前の太ももか。


「ちょっと。くすぐったいから頭を動かすのは止めなさい」


 寝心地があるから……。

 硬い地面に頭を置かなくてもいいことは感謝するが、今更膝枕くらいで自慢されてもなぁ……。


 だが……ああ、まさかうまいことできるとはなぁ……。


「あら、眠いの?」


 ずっと眠かったわ。

 というか、もともと意識戻った瞬間から眠かった。


 だって、身体の虚脱感が……ってもう何度考えたかわからないが、本当に酷いのだ。

 今だって、マガリの膝枕から起き上がろうとは微塵も考えられない。


 柔らかさと温かさが心地いいという理由もあるが……。


「まっ、ゆっくり寝なさい。もうしばらく怖いことも、危ないこともないんだから」


 サラサラと頭を撫でてくるマガリ。

 ぼやけてくる視界を必死に開いて見ると、何とも優しげで穏やかな笑顔を浮かべていた。


 ……え? なにこいつ、誰こいつ?

 クリスタみたいな包容力があるんだけど。


 …………何か寝ている俺に仕掛けるつもりか?

 いや、まあいいか。とにかく、今は眠たくて仕方ない。


 お言葉に甘えて、寝させてもらうとしよう。

 温かくて甘い匂いがして、しかも柔らかいというとても眠り心地の良さそうな枕もあるのだ。


 俺はスッと目を閉じた。

 その瞬間、すぐに意識は深いところに沈んでいくことを実感する。


 深海に重りを縛り付けられて沈んでいく感覚。しかし、冷たく暗いところではなく、温かく明るい場所だ。

 このまま、どこまでも沈んでいきそうな……。


 普段であれば恐怖を感じて警戒して目を無理やりにでも覚ますのだが、今はどうしてもそういう気持ちになることはできなかった。

 魔剣にとてつもない力を吸われたからだろうか?


 やっぱり、あの巨大な魔石の爆発を抑えるのは、瀕死になってしまうほどの力が必要だったのかも……。

 …………あれ?


 そう言えば、何だかこの雰囲気おかしいよね?

 マガリがやけに優しいし、俺もどんどん意識が深いところに沈んでいっているし……。


 何か温かいし、心地いいし……。

 そんでもって、直前にあったのは巨大な魔石の爆発である。


 …………うん。え? あれ?


 ――――――もしかして、俺が死ぬ展開?


 え? え? 嘘でしょ? 何で?

 俺が道連れにしたマガリはピンピンしていた……っていうか、なんとなく元気そうだったじゃん。何故に俺だけ?


 俺が死ぬ展開だとしても、マガリも死ぬ展開じゃないとおかしくない?

 いや、まあ俺が死ぬってことが決まったわけじゃないけど。


 ……じゃあ、何でやけにマガリは俺に優しかったの?

 背筋に氷を突っ込まれたようにゾッとするはずなのに、起き上がることができないし。


 それに、魔剣も真っ先に声をかけてきそうなのに、一切なかったし。

 ……もしかして、俺と魔剣が壊れた?


 あいつの性格なら、そういうことをやりそうだ! マガリにはできるだけ吸収する力を抑えて、俺と自分だけフルに回収してそう!

 ……えー……嘘ぉ……? マジなの? そういう展開なの?


 もうさぁ……何とも言えんわ。

 ……いや、まだあきらめるな。この俺がこんな所で死ぬはずがない。


 だって、まだ寄生して楽な人生少しも送っていないんだから。そんなはずはないのだ。

 俺は何とか深い所から起き上がろうとあがいていると……。


『あ、こんにちはー』


 あ、どうも。

 …………え? 誰?


 いきなり声が聞こえてきたので反射的に返事をしてしまったが、誰だよ。

 今俺は目を瞑って意識の深い所にいるため、間違いなく普通の人間に話しかけられたものではない。


 じゃあ、魔剣か?

 いや、魔剣はこんな感じで挨拶をしてくることなんてないし、声も違った。


 あいつの声は聞くだけでイライラするような声音に対して、これは何というか……ゾワゾワしておぞましさを感じるというか……。

 ……めっちゃ怖いんですけど。


 別に目を開けた感覚があるわけでもないのに、なんとなく意識の中で視力が回復していき……。

 俺の目に映ったのは、骸骨が黒いローブを身に纏っているという死神であった。


 …………えっ?


『あ、どうも。じゃ、逝きましょうか』


 え? ちょっと待って。もうちょっと説明してくれない?

 そんな気軽に行きましょうかって……逝きましょうじゃないよね? 生きましょうだよね?


 とか考えていると、骨の指をこちらに伸ばしてきてクイクイと曲げるとめちゃくちゃ引っ張られる!?

 海に漂うようなフワフワとした感覚があったのに、今はグイグイ引っ張られて痛い痛いなのだ。何で!?


 ちょっと待ってええええええええええ!! 話を聞いてください! 僕は死んでいません!!


『いやいや、そう言われましてもね。まっ、あっちに逝ったら大体ご理解いただけると思いますので。じゃ、逝きますねー』


 いやああああああああああああああああああ!! こんな終わり方嫌あああああああああああああああ!!

 まだ全然人生謳歌してないのに! こんな軽い死神に引きづりこまれるなんて嫌あああああああああああ!!


 そんな悲鳴を残しながら、俺は死神に引っ立てられていくのであった。











 何とか逃げ出せた。




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