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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
最終章 アリスター消失編

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第153話 信用できねぇ

 










 マガリに身体を支えられながら、ボーっとしてしまう。

 なんというか……虚脱感が凄い。自分で何もやる気がない。


 マガリの体温が高いし、ぽかぽかするのもその理由の一つだろう。

 ……ちょっと骨の感触が伝わってくるので、柔らかくはないけどな。


「……あれ? そういやフロールは?」


 ふとマガリに尋ねる。

 無駄に強く、俺の命がいくつあっても足りないような化け物。奴の姿が見当たらない。


 いざとなれば、マガリを肉盾にして逃げなければならん。


「……あなた、またクソみたいなこと考えてるでしょ」

「ソンナコトナイヨ」

「なにその話し方。キモイわよ」


 やっぱり、以心伝心も考えものだ。

 アイコンタクトで言葉を発さずとも意思疎通ができるというのはなかなか便利なのだが、考えていることが漏れてしまうのは難点である。


「ほら、あそこに転がってるわよ」

「……え?」


 ため息を吐きながら、マガリは指をさして教えてくれた。

 ……いや、抱き合っているから見づらいんですけど。


 それでも、少し顔を離して指の方向を見れば……大きなクレーターの中心地でぐったりと倒れているフロールの姿が。

 しかも、あの屈強で分厚くて大きかった身体が、ボコボコに何十人にも殴られたかのように負傷しており、しかも腹のあたりから下がかなり悲惨な感じになっている。


 出血量がえぐい。

 ……え? なにこれ?


 そう言えば、何だこの周りの状況。色々ぐちゃぐちゃになってるし……何よりも怖いのは、何かめっちゃ倒れている知らない人たちである。

 なにこの人たち。どこで寝てるんだよ。


「……覚えてないの? これ、全部あなたがやったのよ」

「……え? マジで?」


 またそういうパターン? 黒化の影響か?

 いや、でもある程度はコントロールできるようになっていたし、だから使っていたわけで……。


 まあ、それでも通用しなかったんですけどね。

 ……あれ? 記憶を失って戦闘をしていたってことは……。


「また筋肉痛か!!」


 絶望した! またあの地獄の苦しみを味わわなければいけないのか!?

 魔剣に操られた後は、だいたい数日ベッドの上でグネグネ悶え苦しまなければならなくなる。


 それは、農作業すらサボっていたつけなのだが、最近は遺憾ながら魔剣が頻繁に操ってくるため、だんだんとその苦しむ時間は短くなっていっている。

 だが、黒化は別だ。魔剣はまだ一応……本当に一応俺の身体のことを考えてくれているようだが、記憶を失った状態の黒化はマジで好き勝手しやがる。


 ヘタをすれば、筋繊維がいくつか千切られているような状態である。その苦痛は計り知れない。

 ろくに歩くこともできなくなり、ベッドから抜け出せずに芋虫のようにもだえ苦しむのが一週間近く続くのだ。拷問以外のなにものでもない。


 だから、俺は激しく絶望したのだが……。


「それはないんじゃないかしら? あんまり動いてなかったわよ」


 マガリの言葉に少しだけホッとする。虚脱感は感じるから、完全に安心することはできないが。

 よかった。確かに筋肉の疲労を感じない。


 ……あまり動かなくてあのフロールとこれだけの人数倒したの? どうやって?


「あー……でも、何かすっごい力が抜ける。というか、力が入らない……」

『何かすっごい力使ってたもん。僕もよくわからない力』


 ぐでーっとマガリにもたれかかる。

 流石に重いというプンプン怒っている声が聞こえてくるが、自分の脚で立つことが億劫で仕方ない。


 マガリも最悪ポイ捨てすることだってできるはずだが、それはしないようだ。感謝……。

 しかし、魔剣が凄い力って言うほどなのか……。


 なにその怖い力。俺、正体のわからない力なんて使ってたの?

 魔剣なかったら何もできないはずなのに……。


 というか、こいつも生きていたのか。壊れていてくれたらよかったのに……。


「……まあ、俺がかなり疲れていること以外うまくいってよかったじゃん。ほら、帰ろうぜ。俺のこと運んでね」

「仕方ないわね。引きずってあげるわ」

「運んで!」


 まあ、マガリの力だと本当に俺のことを運ぶことはできないだろう。

 仕方ない。すっごい疲れているけど、自分で歩くか。


『いやいや! マーラたちがまだいるんだから勝手に帰っちゃダメだよ! あと、僕を置いて行かないで!』


 魔剣のそんな制止の声が届く。

 魔剣を置いて行くことに変わりはないが、確かにマーラたちを……というか、マーラを捨ておくのはなぁ……。


 でも、今の俺はマジで足手まとい以外のなにものにもならんぞ?

 言っておくが、これは自分可愛さに嘘を言っているとかではなく、本当に身体が動かないんだからな。虚脱感凄い。


 役立たずが前線に出たら、マーラは俺のことを庇うだろうから、それが原因で大きな怪我をしないとも限らない。


『うっ……た、確かに、凄い力を使っていたけど』


 魔剣もそのことが分かっているのが、もごもごと口ごもる。

 俺、どんなことを自分がしていたか知らないからただただ力が入らないって怖い状況なんだよな。


 そんなことを考えていると……。

 ゴゴゴゴゴゴ……と地鳴りと重々しい音が聞こえてくる。


「な、なんだ?」


 嫌な予感しかしねえ!


「何だか嫌な感じがするわ。ちょっと悪いけれど、アリスター離してくれるかしら。私一人だけならなんとか……」

「逃がさん……!!」

「クソ……!!」


 一人さっさと逃げようとしているマガリにへばりつく。

 ギロリと睨み合う俺とマガリ。もう原因はどうでもいい。


 ただ、お前だけは逃がさない……!!


『あ、フロールだ!!』


 魔剣が声を上げる。

 そうか、フロールの仕業か。ちっ、死にぞこないめ。


「……終わりだ」

「何が起きている!? というか、何をしでかした!?」


 一人で達観してんじゃねえよ! ちゃんと説明しろや!


「……大したことじゃないさ。ただ、この辺り一帯……いや、王国の半分程度が吹き飛ぶだけだ」


 大したことじゃん!!


「あれを見ろ」

「あれは……なんだ?」


 今にも息絶えてしまいそうなフロールが折れた手で指した方向には、建物があった。

 その建物は俺が意識を失っている間の戦闘で崩壊しており、外壁が瓦礫となって崩れ落ちている。


 そんな隙間から見えるのは、何やら煌々と輝いている水晶みたいなものだった。

 それも、かなりの大きさだ。部屋のほとんどを埋めてしまっているであろう大きさ。


「魔石だ。魔法を閉じ込めて本来であれば使えない者にもその魔法を使うことができるようになる、便利な鉱石」


 へー、そんなものがあるのか。

 俺も魔法は一切使えないのだが、あの石を媒介にすれば使うことができるのか。


 ……まあ、使いたい魔法なんて特にないからいらねえ。


『お、大きすぎる……! こんな大きな魔石、それこそ一国の国家予算ほどの価値があるよ……!!』


 え、マジ?

 ……持って帰られないか?


「重たそうよ」


 と言いつつも、マガリの目はキラキラと輝いている。

 目が金貨になっている。こんな聖女嫌だ。


『いや、そういうことをしている場合じゃないから!!』

「そこに閉じ込められているのは、爆発魔法。何年も、何人もの魔力が込められた、最強の破壊兵器さ」


 ふっと自慢げに呟くフロール。

 持って帰れねえええええええええええええええ!! てか何してんだこいつううううううううううううううううう!!


「あなた馬鹿なの!? 何でこんな自爆装置作ってんのよ!!」


 マガリも自分の命の危機を感じ、聖女という皮をかなぐり捨てて怒鳴りつける。


「俺が敗北し、死んだときは正義が終わった時だ。その後に悪がはびこるくらいなら、いっそのこと……」

「もうお前が悪だよ!!」


 くっ……! こんなバカに構っている場合ではない!

 一刻も早くここから逃げ出さなければ……!


「無駄だ。今から逃げても爆発の威力が届く範囲を抜け出ることはできん。俺も終わりだが……お前たちも終わりだ」


 ニヤリと達観した笑みを浮かべるフロール。

 こ、この正義馬鹿……! 自殺するんだったら俺に迷惑のかけないところでやれよ……!!


 舐めるなよ……! 俺の命がかかっているんだぞ!?

 何があっても諦めるわけにはいかん……!!


「ねえ、アリスター」

「何だよ! 今のんきに会話している場合じゃねえだろ! 何とかして逃げ出さないと……!」

「あなたのこと、そんなに嫌いじゃなかったわよ」


 …………。


 唖然とした表情を浮かべていることを自覚しつつも、俺はゆっくりと振り返りマガリの顔を見る。

 彼女の顔は、そうそう見ることができないほど安らかな表情を浮かべていた。


 あ、諦めやがったあああああああああああああああああ!!

 こいつ、ここにきてもう逃げられないと悟って変なこと言いだしたあああああああああ!!


 おかしいよ、こいつの頭。おかしくなってるよ!

 普段のマガリだったら絶対に言わないこと言ってるもん!


「馬鹿野郎、正気に戻れ! こんな所で死んでいいのかよ! もっと楽な人生を他人任せで楽しく生きていくんじゃなかったのかよ!!」

『うっわ、こいつ……意地きたなっ!』


 魔剣のクソが毒を吐いてくるが、誰だって自分の命は惜しいだろう。

 誰に何と言われようと、俺は絶対に生き延びてみせる……!


 世界中の誰がどれくらい死んだとしても、俺だけは……!!


『……まあ、最期まで君らしくて少し安心したよ』


 …………。


 俺はまたもや唖然として地面に転がっている無機物を見やる。

 お、お前もかああああああああ!! お前も諦めたのかあああああ!!


 どいつもこいつも……この馬鹿! もう知らない!


『いや、そうじゃなくて……』


 何とか一人だけでも生き延びようと考えていると、魔剣がやけに気持ちのこもった声を発する。

 気持ちというか……覚悟?


『僕が、何とかする』


 力強い、覚悟のこもった言葉。

 それを聞いて、俺は……。


 …………信用できねぇ。




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