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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
最終章 アリスター消失編

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第149話 とりあえずきれいごとを言っておこう

 










 そのカプセルは、お世辞に言っても素晴らしい薬とは言えなかった。

 力を増幅させる。それは素晴らしいものだろう。


 もし、それだけの効果ならば、誰もが求めて使用したくなる。

 だが、当然だが、大きな効果には大きな副作用が伴う。


 そもそも、この薬は何も強大な力をただ与えてくれているというわけではない。

 これは、将来その使用者が使うであろう生命力の前借である。


 つまり、この薬を使用すると、間違いなく寿命が縮むのだ。

 また、寿命を代償に強大な力を前借することに成功したとしても、その負荷に身体が耐えられるかが問題となる。


 寿命何年分もの力を一気に引き出すのだから、身体に凄まじい負荷がかかるのは当然だ。

 そして、これら二つに耐えられる存在はほとんどいない。


 だからこそ、この薬はそれほど出回っておらず、また使用者なんてほとんどいないのだ。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ひぇ……」


 しかし、それに耐えたら……その力はとてつもなく大きなものとなる。

 もともと持っている力が大きければ大きいほど、より強大な存在へと進化する。


 フロールはどちらかというとやせ形の容姿が整った男だった。

 だが、今の彼にその面影はない。


 ゴリゴリと一気に肥大した筋肉。おそらく、骨格も変わっているだろう。

 身長も伸び、ほとんど同じくらいだった目線が見上げなければならないほどになっている。


 顔も無理な力の増大によって歪み、せっかくの容姿が台無しだった。


「はぁ、はぁ……」


 フロールの身体の変化が収まる。

 今も身体への負荷で強烈な激痛が走っているはずである。


 だが、それをも耐え、フロールは強大な力を……少なからずアリスターを打ち倒すことができるほどの力を手に入れた。

 スッと軽く肥大化した拳を地面に置いた。


 殴ったとかではなく、本当にただ置いただけ。それだけで、地面には深い亀裂が入った。


「痛かった……苦しかった……! だが、耐えたぞ!!」


 鬼のように変わってしまった顔を歪な笑みに変えながら、フロールはその力に感動していた。

 自分が大いに変貌してしまったことは理解している。寿命が減ったことだって。


 だが、この力で目の前の悪意を倒すことができるのであれば、それも本望だ。


「(……なあ。これってまずくない? 俺が見てもあいつめちゃくちゃ強いって分かるんだけど)」

『……頑張ろうね!』

「(止めて。頑張って倒そうとするんじゃなくて逃げようとして)」

「(私を見捨てないで!)」

「さあ、行くぞ。お前を殺し、聖女の力を手に入れ、俺は世界を救う!!」


 フロールがそう宣言した瞬間、彼の太くなった脚がさらに膨らみ力を蓄えると、一気にそれを解放した。

 ズドン! という音と共に、蹴りぬかれた地面が大きくへこみ、アリスターの攻撃でボロボロになっていた建物がついにガラガラと崩れ落ちる。


 そのフロールの突撃は、アリスターの目からはまるで突然彼が消えてしまったかのように映るほど、人間の限界を超えている速さだった。

 そして、それは様々な経験をしてきた聖剣からしても同様であり、アリスターの目前に拳を振りかぶって現れた彼に対して、とっさに自分を構えさせることしかできなかった。


 ズガアアアアアアアアアアン!!


【ぐおおおおおおおおおおおおおおお!?】


 とてもじゃないが拳と剣がぶつかり合ったとは思えないほどの音と衝撃がアリスターを襲った。

 脚は地面にめり込み、とてつもない負荷が彼を襲う。


 今にも膝を屈してしまいそうになるのだが、何とか食い止めているという状況だ。


【力がさっきまでとはまったく……!!】


 あの薬に、それほどの力があったのかと驚愕するアリスター。もう帰りたい。

 しかし、何とか食い止めることはできている。このまま……。


「インパクト!!」


 だが、フロールが拳から衝撃波を発したことによって、アリスターの身体は面白いように吹き飛ばされた。

 まるで、強くバットに打たれたボールのように、ポーンと人間の身体が飛んでいるとは思えないほどの速さだ。


 マガリも目を丸くしてポカンと見送るほかなかった。

 何度も地面を跳ねながら転がり、建物の壁にぶつかってようやく止まる。


【がはっ……!?】


 大量の血を吐くアリスター。

 それはまさしく、先ほどのフロールと立場が逆転した姿だった。


「(ほぎゃああああああああああああ!? クッソ痛いいいいいいいいいいいいいいいいい!!)」


 ゴロゴロのた打ち回りたい。

 別にここにいるのはマガリとフロールだけなので、猫を被る必要もなくそうしたいのはやまやまなのだが、そのフロールが強大な敵として立ちはだかっている以上、そんな隙だらけの姿を見せるわけにはいかなかった。


 普通の人間であれば、死んでいたであろう攻撃。

 というか、アリスターも黒化していなければ、間違いなく命を落としていた。


 それほどの力を、今のフロールは身に着けていた。


「……自分で言うのもなんだが、素晴らしい力だ。これが前借でなく寿命も縮まなければ最高だが……そんなうまい話はないな」


 グッグッと太く逞しくなった拳を何度か握り、その力を確かめる。

 これが常時使えるようになれば、彼の計画も一気に進めることができるのだが……。


「だが、これほどの力を手に入れることができるのであれば、悪を皆殺しにすることだって可能だ。正義の、優しい世界を作る。そのために、俺の邪魔をしないでくれるか、勇者?」


 スッとアリスターに目を向けるフロール。

 建物の壁に寄りかかりながら、しかししっかりと二つの脚で地面に立っている男。


 死んでいてもおかしくないほどの大きなダメージを受けたはずなのに、彼は強い目でフロールを睨みつけていた。


【……その善悪の判断はどうなるんだ? 誰もが悪とみなすこともあるが、その判断が分かれることもあるだろう?】

「無論、それは俺が決める。俺が白と言えば白、黒と言えば黒だ。俺が善悪を判定し、悪を処断する。そして、世界の頂点に君臨し、力による正義を施行するのだ」


 この世界には、悲劇が多すぎる。

 だからこそ、自分がそれをなくす。


 一見するととても素晴らしい考え方であるが、その過程がアリスターにとって問題だった。


「(じゃあ、もしかしたら適当な女をだまくらかして寄生しようとしていることも悪だと判断されることがあるってことか? それはいかん! 正義だ正義!)」

『いや、悪でしょ』


 結局、自分以外の者を迫害して世界が平和になるのであれば勝手にやっててくれと笑いながら見過ごすのだが、自分が迫害される可能性が一ミリでもあるのだとしたら、それは見過ごすわけにはいかない。

 小心者らしい考え方だった。


【それは間違っている!!(とりあえずきれいごと言っておこう)】

「何がだ?」


 もちろん、寄生を悪だと判断されそうだから! なんてことを馬鹿正直に言うことはできない。

 耳ざわりの良さそうなことを考えて、それを熱意を添えて撃ち放つ。


【それでは、まるでお前に世界が管理されるようだ。世界は! 人は! 誰かに管理なんてされず、自由に生きるんだ!!】


 その言葉は、彼の演技力も相まって非常に説得力のある言葉だった。

 それこそ、先に向かったマーラたちが聞けば、何度も頷いてその言葉に納得していたことだろう。


 だが、残念ながらここにいるのは、彼の考えを知ってしまっている聖剣とマガリ、そしてこの言葉でも決して信念を曲げることのないラスボスのフロールである。

 誰も聞き入れることはなかった。


「ふん! それで多くの悲劇を生むのであれば、自由なんて制約した方がいいに決まっている!」

「(はい)」


 納得しちゃうアリスター。


「別に、お前に俺の信念を分かってもらおうなんて思っていない。お前をここで殺し! 聖女の力をいただく!」


 そう言って、フロールは再び地面を蹴り砕く音と共に姿を消した。

 猛スピードで迫られていることは分かっているため、アリスターも対応しようとするが……。


【『邪悪なる(イヴィル)』……!!】

「遅い!!」


 黒く染まったアリスターの顔面に、強大な拳が叩き込まれたのであった。




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