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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
最終章 アリスター消失編

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第143話 はーっはっはっ! 俺の勝ちだ!

 










「さて、と……」


 フロールに連れ攫われたマガリを見送った。

 彼らがいた宙には、もう何も浮いていない。


 俺はグーッと伸びをして……ふっと息を吐いた。


「のんびり生きるか」

『いや、ダメでしょ! 絶対にダメでしょ!! 助けに行こうよ!』


 魔剣から鋭い声が届いてきた。

 大丈夫大丈夫。あれだから。マガリは自分でどうにかできちゃうしっかりした子だから。


 俺の助けなんて必要ないんだよね。


『思い切り助けてって絶叫していたよね! いくらマガリでも、あれはどうしようもないんだよ!!』


 いや、まあ……知ったことではないというか……。

 むしろ、俺の弱みを唯一知る奴が消えて助かったというか……。


『マガリが大変な目に合わされてもいいの!?』


 魔剣に言われて、少し想像してみる。

 フロールにこき使われて、疲れ切った様子のマガリを。


 …………素敵やん?

 いやいや、聖女の力が必要だって言っていたんだから、殺すことはないだろう。


 これから、フロールの隣に立って何か頑張るんじゃない?

 自分のことを押し殺して何かをやらされるのって、聖女である今とそう変わらないだろ。


 今だってクソ嫌そうに聖女やっているんだからさ。

 その俺の考えに、魔剣は言い返すことができないのか、しばらく沈黙する。


 そして……。


『それでも助けに行くんだあああああああああああ!!』

「ぐわああああああああああああああああああああああ!?」


 凄まじい頭部の激痛が襲った。またか!

 何だか久しぶりな気がするぜ! いつも畑にぶっ刺して野ざらし状態だったから、そもそも会話すらしていなかったしな。


 いつもなら、これで俺が折れて魔剣の意のままに動く操り人形へと成り下がる。

 だが、俺は……!


「こと、わる……!」

『ッ!?』


 歯を食いしばり、食いしばりすぎて唇から血を流すほど力を込めて、俺は魔剣の脅迫を打ち払った。

 悪には屈しないのである。


『ば、馬鹿な!? 頭が割れるほどの激痛を与えているというのに……!!』


 お前本当に聖剣? そんな痛み与えていいの?

 聖剣と主張するのはいいけど、言動が一致していないぞ……。


 とにかく、俺は絶対に行かない……絶対にだ!!


『この意思の強さ……先代たちを思い出すよ。彼らは誰かを助けようと、仲間を守ろうとした時にその強い意思を示したけどね』


 じゃあ、俺とそいつらはあまり変わらないな。

 そいつらにとって一番大切なものが仲間とか他人だったんだろ。


 俺にとって一番大切なものは俺だ。俺を守るためならば、この身を投げだしても構わん……!


『クソ……! わけのわからない方向に突っ切ってやがる……!!』


 魔剣には決して負けない。

 このまま俺はのんびりスローライフを謳歌させてもらうぜ……!


 そう考えていた時……。


「勇者!!」

「は?」


 俺以外の人の声がすることに、驚いて振り向いてしまった。

 っていうか、もう勇者って止めてくれない? フロールにやってもらおう。


 こちらに走ってきているのは、マガリに惚れた見る目のない馬鹿男たち、エリアとヘルゲだった。

 ……ヘルゲはともかく、エリアはこんな所に来るなよ。お前、一応王子だろ。


 というか、記憶を改ざんされていたとはいえ、この俺に不敬極まりない対応をしたからお前ら嫌い。こっちくんな。


「よかった……無事だったか……」

「……いや、無事とは言い難いです」


 今も頭部の激痛に悩まされているからなあああああああああ!!

 この魔剣どうにかしてくれない? 溶鉱炉に捨てよう。


「ああ、分かっている。聖女様が……攫われたようだな」


 そうじゃない。

 いや、確かにマガリは攫われたけど、そうじゃない。


「立て。聖女を助けに行くぞ。俺たちだけでは、力が足りん。貴様の勇者としての力も、存分に利用させてもらう」


 冷たく俺を見据えながら言い放つエリア。

 何言ってんだこいつ。行くわけねえだろ。何様だテメエ。


 てかお前謝罪まだだな。ブッ飛ばすぞ。

 しかし、そうか……記憶戻ってるのかよ。


 フロールがどっかに消える前に言っていたことは、このことか。マジで最悪。戻さなくていいって。

 魔剣渡すから勝手にやってくれないかな?


 ……まあ、そんなことを言っていても仕方ないか。

 俺にできることは……と考えて、思い至った行動を起こす。


 顔を悲痛なものに変え、力なく膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込んで、腹の奥から絞り出すような声を出す。


「くっ……! できない……!!」

「勇者!?」


 俺の言葉に、驚愕するヘルゲ。

 まさか、他人を慈しみ他人を助ける俺が否定の言葉を発するとは思ってもいなかったのだろう。


「俺には……マガリを助け出すことはできない……! 力が……力が圧倒的に足りない! フロールは、とても強い。俺程度では、足元にも及ばないんだ……!!」

『助けるつもりないだけだよね』


 魔剣の冷たい声が届くが、届いているのは俺だけだから問題ない。

 地面に拳を叩きつけ、とても悔しそうに顔を歪める。


「な、何を……!? 聖女様を見捨てるのか!?」

「お前はフロールを直接見なかったから、そう言えるんだ!!」

「っ!?」

『逆切れ……』


 ヘルゲが詰め寄ってくるが、それよりも先にそれこそ殺意すらこもった強い目を向けて怒鳴ってやれば、あちらも気圧されたように身体を止めた。

 涙すらうっすらと浮かべて睨みあげてくる俺の迫力はかなりのものだろう。


 それほど力を入れて演技をしているからな。

 今度は、強大な敵に怯えるように、愕然とした様子で思い返すように手のひらを見る。


「俺は見た。奴の力を……。いや、それも力の一端にすぎないだろう。それだけでも、俺を遥かに超えていたんだ……。たとえ、奇跡が起きても、俺がフロールに勝つことはできないだろう……!」

「ば、馬鹿な……そこまで……」


 まさか、聖剣の適合者である勇者がここまではっきりと断言するほどの相手だとは思っていなかったのだろう、ヘルゲも唖然とした顔を浮かべていた。

 ……っていうか、人の記憶を改ざんすることができるんだから、めちゃくちゃ強大じゃん。想像できるだろ。


 ぶっちゃけ、俺は他人を見て正確な強さなんてわからないんだけどな。

 チンピラを見て強そうとか思うくらいだ。戦闘種族でもないんだから、分かるわけねえだろ。こちとらイケメンな農民でしかないんだぞ。


「……情けないだろう。みじめだろう。だが、これが現実だ。マガリは……彼女は、自らフロールの元へと向かった」

『えぇっ!?』


 悔やむように声を搾り出す俺。魔剣が驚愕の声を漏らす。

 どうかしたのかな?


「それは、俺を……いや、俺たちを助けるためだ。自分を犠牲にして、俺たちを助けようとしてくれたんだ。その想いを、無駄にすると言うのか!?」

「そ、そんな……聖女様……」

『いや、めちゃくちゃ抵抗していたよね! 助けてって言ってたよね!?』


 憶えていませんなぁ……。

 あれ? 『私のことは忘れて、幸せに生きなさい。私の犠牲であなたが自堕落なスローライフを送ることができるのなら、本望だわ』とか言ってくれていなかったっけ?


『言う訳ないじゃん!』


 しかし、今の口説き文句はなかなかのものではなかっただろうか?

 さっきまで助けに行く気満々で俺を引きずってでも持って行こうとしていたヘルゲが、あからさまに落ち込んで戦意を失っている。やりましたよ、フロール様!


 よっしゃあ! いける、これはいけるでぇっ!

 このまま押し込んでしまえ!


「……あなたたちが助けに行くことは、俺は否定しません。むしろ、助け出してくれたらとてつもない感謝をするでしょう。だが、俺は行かない。なぜなら、それはマガリの想いを無為にし、無駄にすることだからだ」


 立ち上がり、スッと彼らに背を向ける俺。

 彼らに見えない位置で、俺は口が裂けんばかりに吊り上って笑みを浮かべていた。


 完璧だ……ぐうの音も出ないほどの完璧な論理。

 これで、俺がエリアやヘルゲのことを邪魔したとすると、また話は変わってくる。


 だが、俺は彼らがマガリを助けに行くことを否定していない。

 つまり、俺は放っておけと言っただけだ。


 そして、その理由も自分が怖気づいたとかではなく、マガリの意思を尊重した結果ということにしてある。

 誰も、否定することはできない。完璧だ……。


『くっ……このクズ、自分のためとなれば頭の回転が速い……!』


 負け犬の遠吠えですねぇ……。

 はーっはっはっはっはっはっ!! 俺の勝ちだ!


 さらば、マガリ! 俺を苦しめた不倶戴天の天敵よ!

 何だかわけのわからない奴のパートナーとして、これから頑張って生きていけ!


 俺はここでスローライフをしながら、適当に寄生できそうな女を探すとするぜ!

 はーっはっはっはっはっはっはっは!!


 内心で大笑いしていた、その時だった。

 ポンと肩に手を乗せられたのである。


 なんだぁ、テメェ……?

 俺が振り返ると……。


「馬鹿者がぁっ!!!!」

「ぶぎゃっ!?」


 頬に硬い拳が突き刺さり、地面を不様に転がるのであった。

 俺を殴り飛ばしたのは、エリアだった。




コミカライズ第4話が、ニコニコ静画様で公開されました。

下記の「【コミカライズ版】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~」をクリックすれば、移動できます。

よろしくお願いします!

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