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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
最終章 アリスター消失編

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第142話 お元気でー

 










「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


 燃え盛る建物から、俺の身体がぶっ飛ぶ。


「ごひぇっ!?」


 背中から地面に落ちた時は、息がマジで止まった。

 しかし、それだけでは勢いは収まらず、ゴロゴロと転がり続けてようやく止まった。


 石ころなどに皮膚が裂かれてすっごい痛い……。

 あと、プスプスと火に当てられてちょっと焦げてる気がするんですけど。熱いんですけど。


「きゅう……」


 そんな俺の腕の中には、クリスタの姿があった。

 クリスタなんて目をぐるぐると回して気絶してしまっている。


 しかし、気絶はしているものの怪我はしていないようで、彼女の全身をパッと見ただけだが問題はなさそうだった。

 もちろん、彼女を救い出すことができたのは魔剣のおかげである。エンジェルを救い出したことは評価してやる。


『アリスター! 見てよ!』

「なっ……」


 魔剣の声に導かれて、俺は先ほどまでいた家屋を見て唖然とする。


「お、俺の家があああああああああああああああああああ!?」


 轟々と燃え盛る俺の家。

 俺が一から創り直し、快適に住めるようにした家。


 それが、今まさに燃え盛り、とてもじゃないが人が住めるような状況ではなくなっていた。


「燃えてる……燃えてる!? 何でどうして!? 俺が時間をかけて少しずつリフォームした夢のマイホームがああ!?」


 手で頭を抱えてのた打ち回る。

 俺がどれだけ時間と手間をかけたと思っている!? ふざけるなあああああああ!!


『攻撃だ。魔力を感じたからね』


 おのれ、攻撃だと!? 誰だが知らんが絶対に許さん! 人の努力を無にするなんてひどすぎる!

 この俺が地獄の責め苦を与えてやろう……!


 今なら魔王でも倒せそうな気がする。

 ……それは無理か。うん、普通の弱そうな奴がいいな。


 そんなことを考えていた時、ふと俺の脳裏に浮かんだのは儚い笑顔を浮かべたマガリだった。


「…………あれ? そう言えば、マガリは?」

『…………あ』


 魔剣もハッとしたように声を漏らす。

 明らかに忘れていた様子で……。


 俺はもう一度チラリと先ほどまでマガリもいた家を見る。

 ……うん、火の勢いが増してますね。轟々と凄まじい音だ。


 俺の脳裏に浮かんでいたイメージ上のマガリの頭部に、輝く輪っかが乗せられていた。

 …………流石にまずいだろ!!


 俺は慌てて水を被り、燃え盛る家の中に突っ込もうとして……。


「アリスター!!」


 上空から聞こえてくる声に、ピタリと身体を止めた。

 そこには、何者かに身体を抱えられて宙を浮いているマガリの姿があった。


「(テメエ! 逃げ出せてたんだったら言えや! あとちょっとで大火事の中に突っ込むところだっただろうが!!)」

「(え、なに? 心配してくれたの?)」

「(はああああああああああああああああ!? 微塵もしてないけど!?)」

「(照れないでよ。ふふっ、私がそんなに大切ぅ?)」

「(全然。微塵も。まったく)」


 アイコンタクトでここまで会話できるのって、自分のことながら気持ち悪いな。

 あと、ニマニマ笑っているマガリの笑顔も気持ち悪い。顔の皮剥ぐぞ。


『……やっぱり、君たちって嫌い合っていないよね。普通の恋人以上の親密さだよね』


 んなわけねえだろばぁか。


「(ふふっ、じゃあ、もう一つ言わせて)」


 何やら嬉しげに笑みを浮かべるマガリは、そうアイコンタクトを飛ばしてきた。

 そして、スッと息を吸い込んで……。


「助けて」

「嫌どす」


 マガリの言葉にした助けの懇願を、俺は反射的に拒絶していた。

 ハッ!? 何も考えていなかったけど、ついとっさに……。


 まあ、間違った答えではないからよしとしよう。

 マガリが凄い顔をしているけど、知らんぷりだ。めっちゃブサイクになっているぞ、今の顔。


「直接的には初めましてだな、勇者。俺の名はフロール。人々の記憶からお前の存在を消し、お前に成り代わった者だ」

「そう……」


 そんな時、マガリを小脇に抱えている男が自己紹介をしてきた。

 俺の返答は無関心極まりないものだった。


 いや、だって……マジで興味ないし……。


「お前からすれば、俺は腹立たしくて仕方ないだろうな。当然だ。記憶を改ざんしてお前が本来いるべき場所に居座っていたのだからな。他の者たちからの冷たい目、辛かっただろう?」

「いえ、別に……」


 やれやれと首を横に振っている男……フロール? は俺の言葉が聞こえていないようだった。

 全然腹立たしくも恨んでもないんだけど。感謝をしているほどである。


 こいつが何かをしてくれたおかげで、俺はスローライフを謳歌することができているのだから。


「別に、俺はお前に恨みがあるわけではない。だが……俺には、どうしても手に入れなければならないものがある。それが、彼女だ」

「っ!?」

「ほほう?」


 熱烈なプロポーズに、先ほどまでまったく聞く気すらなかったのだが、俄然興味がわいてきた。

 マガリはモテモテだなぁ。羨ましいなぁ。


 地位の高い騎士、王子ときて、ついには何だかよくわからないミステリアスな男か。

 逆ハーの姫ですな。


「正確に言うのであれば、彼女の持つ聖女の無効化能力だがな」


 なんだ……とあからさまにがっかりする俺とほっとするマガリ。

 そんなこと言わず、マガリごと持って行って、どうぞ。


「この力があれば、さらに俺は強くなることができる。そして、強くなれば……」


 グッと拳を握りしめる。


「俺が世界の頂点に君臨し、俺が平和を作り出すことができる……!!」

「ちょっと飛躍していますねぇ……」


 善人なのか悪人なのかわからねえな。

 まあ、俺の記憶を人々の頭から消し去って自分がそこに成り代わったということを考えると、本当に純真無垢な正義というわけではないのか?


 正義だけど過程で悪いことをすることも辞さないのか?

 ……どうでもいいか。フロールが善人でも悪人でも、所詮他人だし。


「(っていうか、何でそこのガキは助けるのに私のことは助けなかったのよ!!)」


 ギロリとアイコンタクトを向けてくるマガリ。

 お前……エンジェルをガキ呼ばわりとか最低かよ……。


「(いや、正直俺のこととクリスタのことだけでいっぱいいっぱいで……。しかも、俺あの攻撃何も気づいていないから、魔剣がしたことだぞ。魔剣に言え)」

「(魔剣んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!)」

『いくら僕でも流石に無理だよ!』


 いつも通りのコントをしていると、フロールが言葉をかけてくる。


「さて、聖女はもらっていくぞ」

「あ、アリスター!!」


 必死にこっちに手を伸ばしてくるマガリ。

 流石にフロールに持って行かれることは嫌なようだった。


 そんな彼女に対して、俺は薄く笑みを浮かべる。

 慈愛に満ち満ちたそれを見て、マガリは希望の笑顔を浮かべる。


 俺はそれに応えるべく、大きく息を吸い込んで……。


「マガリぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」


 大絶叫した。

 膝から崩れ落ち、無力感から叫び声を上げる悲しい男の絵。


 その絶望は、どれほどのものだろうか?

 そう見えるように、バッチリ演技をしている。


 ちなみに、声を上げるだけで動こうとは一切しない。さあ、早くマガリを連れて行け。


「ちょっ……!」

「マああああああああああああガあああああああああああああリいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

「叫んでるだけじゃなくて動けよ!!!!」


 俺の思惑を察したマガリが怒鳴るが、俺の声量の方が大きい。撃ち消してくれるわ。

 この無力感に打ちひしがれる男の絵面、どうよ? 完璧じゃね?


「ふっ……俺も鬼じゃない。聖女をいただいていく代わりに、返しておこう」


 ほら、フロールも凄く満足そう。

 ……返すって、何を? 別に何もいらないからさっさとそいつ持って帰ってください。


「まあ、どうしても助けに来ると言うのであれば……古都ヴィトリーに来い。そこで、俺の優秀な部下も待ち構えている。それこそ、魔王の四天王に匹敵するレベルだが……それでも来るというのであれば、歓迎しよう」


 いや、行かないっす。

 なにこいつ。俺が行くとでも思っているの?


 俺はこのまま無力感に打ちひしがれ、絶対に勝てないとウジウジ悩み続けて結局は何もしないで人生を送っていくんだよ。


「ちょっと! あいつ来ないわよ! マジで来ないわよ!!」

「いや、そんなわけないだろう。聖女が攫われて勇者が黙っているはずがないからな」

「普通の勇者はそうかもしれないけれど、あいつは違うのよおおおおおおおおおおおお!!」


 必死に俺を指さしてアピールしているが、フロールは聞く耳を持たない。いいぞぉ。


「では、さらばだ、勇者! 待っているぞ!!」

「うわあああああああああああああああ!! 絶対にあいつ来ないわよ! だって私だったら行かないもの! 絶対に助けに来なさいよアリスタあああああああああああああああああああああああ!!!!」


 もう泣き叫んでるな、マガリ。ちゃんと演技しないとダメだぞ。

 そんな恥も外聞もかなぐり捨てて助けに来いなんていうヒロインはいないぞ。


 助けたいと思う主人公もいないぞ。

 ま、そういうわけだ。お元気でー。


「やっぱりあいつ来ないわよ! のんきな顔して手を振っているもの! ちょっと待ちなさい! あいつも連れて――――――」


 マガリは最後にそんな言葉を残して、フロールに連れ攫われたのであった。

 ……よし、じゃあスローライフを再開するか!




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