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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
最終章 アリスター消失編

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第135話 とりあえず行ってみましょうか

 










「さて、どうしようかしら……」


 アリスター捜索を決意した私だったが、まずは自室に戻ってきてベッドの上に座り込んでいた。

 やっぱり、フカフカで気持ちがいい。どうだ、羨ましいかアリスター。


 別に、彼を探す気がなくなったというわけではなく、まずは冷静に整理してみようと思った次第である。

 彼を逃がすわけがないでしょう。多少のことを犠牲にしてでも、絶対に見つけ出してみせるわ。


 さて、整理というか、まあだいたいアリスターが今どこにいるかということを予測しようということである。

 この国は広い。あてずっぽうに適当に探していたら、きりがない。


 聖女としての特権で人手を王から借りて探すのであればそれもよかったかもしれないが、その探し人が忘れられているし、成り代わられている状況である。

 つまり、彼らも使えないし、信用できない。


 ということは、私がやるしかないのだけれど……。


「アリスターはどこにいるのかしら……」


 それが、さっぱりわからない。

 基本的にいつも一緒にいたからこそ、彼が一人で逃げ込むような場所がわからないのである。


 フロールは彼を追い落して彼の場所に成り代わっているが、じゃあ彼をどうにか……それこそ、殺してしまったことがあり得るかと言われれば、私はそれを否定する。

 おそらく、それはないだろう。


 いや、フロールがそういうことをしないと信頼しているわけではない。

 むしろ、彼に対する信頼なんて微塵もないし、彼ならそういうことをすることだって考えられる。


 だが、それは普通の相手が、という前提がある。

 今回、成り代わられて放逐されたのは『あの』アリスターである。あの、だ。あの。


 自分絶対至上主義者であり、自分さえよければ他人なんてどうなってもいいと考えているクズ中のクズ。

 そんな彼が、自分が殺されるような状況になって大人しく首を差し出すだろうか?


 いや、ありえない。絶対にない。最悪、今まで積み上げてきた猫かぶりのイメージを全てかなぐり捨てでも、土下座して命乞いくらいは平然とやってのけるし、足の裏すら余裕で舐める。

 それに加えて、彼には魔剣という暴力装置も付いている。


 フロールが物理的な方法で彼を排除しようとしても、流石に魔剣が抵抗するだろう。

 そして、あの魔剣は非常に強力だ。魔剣自体の力もそうだが、今までの何百年もの間積み重ねられた戦闘経験も保有している。


 そんな魔剣に操られたアリスターが、私に一切感づかせることなく敗北して命を落とすとは考えにくい。

 ならば、やはり彼は生きていると考えるのが妥当である。


 っていうか、絶対に生きている。あいつがあっさりと素直に殺されるような人間だろうか?

 本当にどうしようもなくなったら、ありとあらゆるものを道連れにして死にそうだし。


 真っ先に道連れにされそうな私が無事ということは、彼も無事ということだ。

 だが、無事と言っても命の危険はないということではないだろう。


 おそらく、フロールと彼は接触していただろうし、何かしらの攻撃は受けているはずだ。

 だから、死にはしていないものの、致命傷……もしくはそれに相当するほどの大きなダメージを受けて、どこぞに逃れることしかできなかった……と考えることもできる。


 ……うん、一番それがしっくりくる。

 そうだったとしたら、魔剣がアリスターを無理やりこの場に引っ立ててこないことも理解できる。


「じゃあ、アリスターがどこに逃れたかと言うことだけれど……」


 …………まったく想像ができない。

 本当にいつも一緒にいたから、彼が一人でいるような場所がわからない。


「……やっぱり、故郷のあの寒村かしら」


 一番に私の頭の中に浮かび上がってきた候補が、そこである。

 私とアリスターの生まれ育った場所である、寒村。


 私が聖女として王都に連れ込まれるまで、アリスターもまたその寒村から出ることはなかった。

 ということは、彼にとって知っている場所は、この王都と寒村しかないのである。


 だから、この王都から逃れる場合もっとも行きやすい場所は寒村なのだが……。


「フロールは世界がそうなっていると言っていたから、故郷の村人もアリスターのことを忘れているわよね」


 彼がそういうことを気にするほど弱い人間ではないことを知っている。

 それこそ、他人を思いやるような人間ならば、その人々に忘れられるというのは非常に大きなショックを受けることになるだろうが、他人を踏み台にして楽に生きようとしている人間である。


 他人から忘れられたくらいで、何だと言うのだろうか。

 それゆえ、彼が村人たちに忘れられているのが怖くて行かない、ということはないだろう。


 だが、彼の目的は豪商や貴族など裕福な子女に取り入って養ってもらおうという反吐が出るようなものである。

 そんな候補が誰一人としていない寒村に、今更戻るだろうか?


「……まったくないというわけではないけれど、可能性は低いと思うのよね。でも、他に行く場所があるかとなると……」


 ない、はずだ。

 やはり、アリスターが逃げ込んだ先は、故郷の寒村……もしくは、その付近だと考えた方がいいだろう。


 少なくとも、森の中などで一人で生活していることはないだろう。

 寒村の農作業すらサボっていた男だ。自分だけで自給自足生活なんてできるはずもない。


 そのため、共同体というか、ある程度の文明社会が築かれている場所に潜伏しているはずだが……。


「あー……! 考えれば考えるほど頭が痛くなるわね」


 思わず手入れして綺麗にしている髪をかきむしってしまう。

 そもそも、どうしてアリスターのことで頭を悩まさなければならないのか。


 あんな奴のこと、一秒でも脳内に留めておきたくないのに……。


「でも、私だけの頭じゃあ、限界はあるわね」


 思い浮かんだ場所と言えば、誰でも思いつきそうな故郷の寒村である。

 それ以外は、さっぱりわからない。


 やはり、こういうアイディアを募らなければいけないようなことは、私一人ではなく複数人の知恵を借りる必要があるだろう。

 そう、それも、アリスターのことをよく知っているような、親密な関係にある人が……。


 ……まあ、彼は本性を私以外にさらしたことはないから、一番親密なのは私になるんだけど。


「……とりあえず、行ってみましょうか」


 ここで一人うんうんと悩んでいても、事態は好転しない。

 私は一念発起して、自室を飛び出すのであった。




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