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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第四章 アリスターの婚活編

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第127話 じゃあな

 










「(っていうか、これお前が操れないの?)」

『それができないんだよ……。どういうわけか、僕の力が及ばなくて……。いったい何なのこれ、アリスター?』

「(いや、俺に聞かれても……)」

『君の身体のことだぞ』


 内心で会話をするアリスターと聖剣。

 しかし、困ったと悩む。


 無駄に意識が浮上して身体をコントロールすることができるので、戦闘も彼自身が行わなければならなくなった。

 今までは全部聖剣任せにしていたのだが、彼の力で悪魔と戦わなければならないのである。


 ちょっとグレた子供と正面衝突したらブッ飛ばされそうなアリスターは、到底自分が悪魔にかなうなんて思っていなかった。


「(俺戦い方なんてろくにわからねえぞ。どうするんだよ)」

『うーん……でも、今の君の状態って、多分そもそもの力がずば抜けているんだよね。だから、技能とかそういうのがろくになくても、力押しでいけると思うんだけど……』

「(ほんとぉ?)」


 聖剣の見立てに懐疑的な視線を送るアリスター。


「隙だ、隙を見せている。今がチャンス? 好機? 殺さないと……」


 そんな彼に、再び触手を伸ばして襲い掛かる悪魔。

 しかも、今度は一閃で斬りおとされないようにと、全身から触手を生み出した。


 その数も膨大で、おそらく数百本となるだろう。


「(ぎょええええええええええええええ!? 力押しもクソもないわ! 何もできないで一方的にボコられるじゃねえか!!)」


 悲鳴を上げるアリスター。

 彼はとっさに避けることすらできず、ただ触手が迫るのを見ることしかできず……。


「ぎゃああああああああああああ!?」


 悲鳴が響き渡った。

 しかし、その悲鳴は絶望的な状況にあったアリスターのものではなく、攻撃を仕掛けていた悪魔のものだった。


 耳をつんざくような悲鳴に、思わずこの場にいるほとんどの者が耳を塞いでしまう。

 一方、アリスターは目の前の現象に唖然としていた。


 自分に迫ってきて、まさに身体に触れようとした触手が、身体から発せられている瘴気に触れた瞬間ボロボロと崩れ落ちたのである。


「(え、なにこれは……)」

「なに、なんだ、なぜ、これは……!?」

「(いや、俺に聞かれてもですね……)」


 悪魔の詰問に対しても、アリスターは答えない。答えることができないだけだが。

 自分の身体に接触した瞬間に果物が腐り落ちるようにボドボドと崩壊したのである。何が起きたのか分かるはずもない。


「(ま、まあ、今悪魔も動いていないし、チャンスっぽいな。よし、今のうちに俺の寄生先を回収しよう)」


 想定外の出来事に硬直してしまっている悪魔を見て、アリスターはそう決断する。

 少し膝をかがめて脚に力を溜め、全力で駆け出そうと地面を強く蹴りだし……。


 ズドン!!


「おひっ!?」


 爆弾がさく裂したような音が鳴り響いた。

 教会に大きな地割れが起き、ぐらぐらと建物自体が激しく揺れる。


 それは、アリスターが強く地面を蹴りだしたことによるものだった。

 誰よりも驚いていたのが、そのアリスターだったが。


 黒化した自分の身体能力が普段よりも爆上げされていることに気づかなかった……というよりコントロールできていないようである。

 まるで、ドラゴンにはねられたかのように猛烈な勢いで飛んでいくアリスターは黒く染まって見えない表情を恐怖に歪めたままみるみるうちに悪魔に接近し……。


「きゃっ……!?」


 ふわりとマーラの身体に浮遊感が襲った。

 唐突にキツイ拘束が解かれて、目を丸くする。


 このままだと背中から無防備に地面に叩き付けられてしまうと、慌てて受け身をとろうとした瞬間、彼女の身体は安心する温かさに包まれた。

 それと同時に浮遊感が消え、ただただ心の底から安心感が広がっていった。


「大丈夫ですか? 約束通り、助けに来ました」

「アリスターさん……!!」


 おそるおそる目を開ければ、こちらを見下ろす真っ黒の顔に真っ赤な目。

 誰もが恐怖するような容貌なのに、自分を抱く優しい手つきや人に安心感を与えるような優しい声は、彼のままだった。


 それゆえ、マーラは一切警戒することなく、身体を預けることができたのであった。

 感極まり、彼の胸に顔を押し付けハラハラと涙を流す。


「助けてくれたことは、感謝しますわ。でも、もう二度とこんな無茶はしないでくださいまし……!」

「じゃあ、これからもマーラさんを側にいて守らせてください。そうしたら、こんな無茶をする必要もないですから」


 何と美しい光景だろうか。

 崩れ落ちる教会の中で、まさにヒーローがヒロインを救い出したのである。


 美しいステンドガラスが割れて落ちてくる。

 キラキラと光を反射させて降り注ぐそれは、マーラが救いだされたことを祝福しているかのようだった。


 ヒーローを思い涙を流すヒロイン。そんなヒロインを助けるために異質な力に身体を染めたヒーロー。

 まさに、物語のクライマックスシーンであった。


「それは!!」


 そんな美しい光景に水を差すのは、悪魔である。

 だが、彼もそんなあっさりとマーラを失うことを認めるわけにはいかなかった。


「それは、私の母胎だぞ!! 私がどれほどの苦労をしたと思っている!?」


 触手を伸ばして辺り一帯に叩き付けまくる悪魔。

 本能のままに邪悪な行動をする彼が、今まさに激しい烈火のような怒りを燃やしていた。


 それは、悪魔を成長させたと言うことができるかもしれない。

 しかし、そうなるのも当然だろう。


 マーラという竜の半魔に目をつけた悪魔は、彼女を母胎にするべく必死に行動し続けたのだ。

 ゲーアハルトという貴族に憑りつき、演技し、合法的に彼女をものにする一歩手前までいった。


 手中には収まっていたのだ。それなのに……。


「私の母胎を返せ! 母胎を、母胎を母胎を母胎を母胎を母胎をおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

「(ひぇ……)」


 触手を振り回し、めちゃくちゃに暴れはじめる悪魔。

 頑丈な造りの教会だが、ズガガガガ! と壁や地面を削られて激しく揺れる。


 いつ崩落してもおかしくはない。

 同じ言葉を何度もつぶやいて発狂する悪魔に内心縮み上がるアリスターであったが、だからこそ彼は聖剣に暴力的な魔力を集める。


 危険なものは処分する。自分絶対主義のアリスターは、それを徹底する。


「マーラさんは渡さない。この人をただの子を産ませるためだけの存在だと……母胎でしかないと見ているお前には、絶対に」

「アリスターさん……!」


 彼の胸に頬を寄せているマーラの顔は、もう蕩けている。

 もはや、妄信レベルにまでアリスターの評価が上がっているだろう。


 それに満足したアリスターは、聖剣を振り上げ……。


「かああああええええええええええええせええええええええええええええええええええ!!!!」

「くたばれ、悪魔。俺はお前が大嫌いだよ」


 絶叫しながら迫ってくる悪魔に、アリスターは短く冷たくそう呟いた。

 マーラからすれば、自分のことを慮っての言葉だと思ってまた目をハートマークにしていたが、実際は自分を痛めつけてくれたことに対する怒りの方がはるかに強かった。


 今まではマーラが捕らえられて盾にされていたからこそ使えなかった魔力の斬撃。

 その射線上に悪魔しかいない以上、使えない理由なんてなかった。


「じゃあな」


 アリスターのそんな冷たい言葉と共に、聖剣が振り下ろされた。

 そして、世界から光と音が消えた。


 夜よりも暗く邪悪な闇に飲まれて、悪魔はその存在を世界に一片たりとも残すことなく完全に消滅させられたのであった。











 ◆



【マーラに迫っていた魔手とは、悪魔のそれであった。自分の欲望を満たすことしか考えず、動物的本能を醜くもむき出しにしたそれは、マーラを母胎として求める。しかも、狡猾な悪魔は大貴族に憑りつき、彼女が断れない状況に追い込んだのである。悪魔の卓越した醜悪な擬態によって、マーラを手中に収めんとあと一歩のところまで迫る。そんなところで立ちはだかったのが、我らが勇者アリスターである。彼は、たとえ国中を敵に回してでもマーラを助けようとした。それは、まさに物語の英雄と姫であった。とはいえ、のちにはアリスターは■■■と添い遂げることになるのだから、そういう淡い気持ちはなかったのだろう。ただ、純粋な優しさだけで、悪魔と国を敵に回そうとしたのである。本性を現した悪魔と戦闘を行うアリスター。マーラを盾にとって大暴れする悪魔に、アリスターは為すすべなく身体を傷つけられていく。だが、それでも決してマーラを救い出すことを諦めない。ついに、アリスターはその膨大な力を駆使して悪魔を打ち払うことに成功する。救い出されたマーラも含め、まさに大団円。ハッピーエンドに終わる……と思われていた。だが、彼にとって……彼らにとって、最大の試練はもうすぐ目の前に迫っていたのである】


『聖剣伝説』第12章より抜粋。




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