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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第四章 アリスターの婚活編

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第119話 間違えたか?

小説2巻出ます!

活動報告に詳細が書いてありますので、ぜひご覧ください!

 










「な、なんだ、それは……!?」


 変貌したマーラの姿を見て、ジャンは目を見開く。

 彼女の姿は人間のそれとは異なり、魔の色が前面に押し出されていた。


 角、鱗、尻尾……どれもこれも、普通の人間ならば決して身体にないものである。

 そして、それはただの魔族のものではない。


 マーラ曰く、竜。竜とは、世界最強の魔族だ。

 当然、ジャンもそのことを理解している。


「あら? あなたはわたくしの秘密を知っていたのでは……。ああ、半魔ということだけでしたのね。その魔が何なのかまでは知らなかったのですわね」


 その通りだと、思わずうなずいてしまう。


「おとぎ話で聞いたことがありませんこと? うら若き乙女が、魔に連れ去られてつがいとさせられること。よくあるお話しですけれど、わたくしの母もそれにちょうど該当するのですわ」


 そういった類のおとぎ話は、ジャンだって知っている。

 とくに、子供の女の子が好むような話だと、魔王に連れ攫われる姫が勇者や王子といったヒーローに救いだされるという、ありがちだが王道のものである。


 しかし、それが現実にあったとは……。


「そして、わたくしの母を連れ去ってわたくしを身ごもらせた魔とは、竜。世界最強の名を冠する最悪の魔族ですわ」

「りゅ、竜!?」


 竜は最強の種族だ。

 その巨大な体躯はただ歩くだけでも人にとって大きな脅威になる。


 鋭い爪や牙は言うまでもなく、また口から吐き出される炎は街を簡単に焼け野原にしてしまうことができるだろう。

 人の手では決して及ぶことのない大空を悠然と飛ぶその姿は、まさに空の王と呼ぶにふさわしい。


 だが、それほど一体一体の個人能力が高い竜は、その数が非常に少ない。

 それこそ、人間のように簡単に増えることができるのであれば、おそらくこの国や大陸を支配していたのは竜だろう。


 しかし、数が少ないのは事実であり、だからこそ人間たちはそう簡単に討伐することはできなくともこの大陸を支配しているのである。

 そんな希少性の高い魔族の血を引く女が、ここに……。


 しかも、巨大な竜の形ではなく、人間の形に留まっているのである。

 捕らえやすさで言えば、間違いなく後者だ。


 まさに、マーラはジャンにとって喉から手が出るほど手に入れたい商品であった。


「ふっ、ふふ……ふははははははははははは!! そうか、竜か! 何とも素晴らしい!!」


 高らかに笑い始めるジャンを見つめるマーラ。


「ただでさえ価値の高い女だが、それに竜という希少な魔族の要素まで入っていれば、さらに価値は跳ね上がることだろう。最初は半魔であることを隠して売り飛ばそうと思っていたが……それはなしだ! 高らかに宣言して売り飛ばそう! マーラ・バルディーニは竜の血を引く半魔であると!!」


 ジャンの頭の中に浮かぶのは、売り飛ばされるマーラとその引き換えに懐に飛び込んでくる多額の金である。

 それこそ、小山ができてしまうほどの金貨が積み上げられることだろう。


 商人にとって、金は全てだ。とくに、お天道様に顔向けができないようなことをしてまで財を築きあげてきたアルヒポフ商会の会長ともなれば、なおさらである。


「世界最強の竜という名を聞いてなお利益のことを考えられるのは、流石長年闇組織として財を蓄えてきた商会の会長と言うべきでしょうか……」


 呆れたように、感心したように息を吐くマーラ。

 もちろん、称賛の色は微塵もないが。


「さあ、捕まえろ! あの男で金貨10枚! マーラだと金貨50枚! 二人揃って生け捕りにすることができれば、ボーナスで金貨100枚だ!!」

「――――――!」


 むっつり黙り込んで一切の感情を感じさせなかった彼の用心棒も、雰囲気が少し揺らいだ。

 グレーギルドの構成員でアルヒポフ商会と似たような組織に属している彼もまた、金というものに弱かった。


 金には魔力が秘められている。人を簡単に酔わせて狂わせてしまうような魔力が。

 彼らもまた、それに溺れてしまっていたのだろう。


「まったく……人の命や存在そのものを、お金というもので取引しようとするのは間違っていますわ。やはり、ここで悪を駆逐しなければなりませんわね」

「はははははははっ!! 威勢のいいことを言うがな、お前はこいつの居場所すらつかめていないではないか! 余計な抵抗は止めてもらおうか。大切な商品に傷がついたら価値が下がってしまうからな!」


 ジャンが心配するのはマーラの商品としての価値である。

 決して彼女自身のことをどうこう思っていることはなかった。


 まあ、ジャンに気遣われたとしてもマーラは気味悪がることしかできないだろうが。


「そうですわね。わたくしの目では、どこにいるのかさっぱりわかりませんわ。今目の前にいる彼も、おそらく幻覚でしょうし」


 やれやれと首を横に振るマーラ。

 確かに、幻覚魔法は強力だ。見えているはずの場所にはおらず、死角から一方的に攻撃され続ける。


 大きな会戦で活躍するかと言われれば首を傾げざるを得ないが、暗殺や一対一の戦いでは非常に強大で有用な力だろう。


「そうだろう! ならば、痛めつけられる前にさっさと……!!」

「じゃあ、この辺り全体を破壊しましょう」

「…………は?」


 ポカンと口を開けるジャン。

 とんでもないことを言った気がする。


 ニッコリと笑うマーラの持つ戦斧に、バチバチと雷があらぶり始める。


「(ちょっ!? 俺も巻き込まれるのではなくて!?)」

『何で急にマーラみたいな口調になったの?』


 スッと誰にもばれないようにマーラの真後ろに移動するアリスター。


「いきますわよー」

「ちょ、ちょっと待っ――――――!!」


 気の抜けるような柔らかい掛け声と共に、戦斧を振り上げるマーラ。

 そんな彼女の纏う雷の音が凄まじいことになっていたので慌てて止めようとするが、すでに遅かった。


「『雷轟』」


 神の怒りとも称される天災が炸裂したのであった。











 ◆



「さあ、奴隷の人々を解放してから帰りましょうか、アリスターさん。一緒にいてくださいまし。ずっと、ずっと……」

「…………はい」


 プスプスと人が出してはいけないような音を出して真っ黒こげになって地面に倒れ伏す二つの人間を見て、アリスターは『間違えたか?』と深く後悔するのであった。












 ◆



【勇者の優しさと愛は、どのような深い闇でも明るく照らす。王国の影に長年巣食い続けてきた奴隷商のアルヒポフ商会をマーラ・バルディーニと共に討伐することになった勇者。彼の優しき正義感は、奴隷などという非合法的な存在に心を痛めるには十分だった。しかし、そこで明らかになったのは、貴族であるはずのマーラが半魔という衝撃の事実であった。魔を混じらせた者。迫害されて当然であり、それを隠して貴族として領地を治めていたことから、処刑されたって不思議ではない。だが、アリスターはそれを問題だとは一切思わず、優しくその事実と共にマーラを抱きしめたのだ。その懐の深さは海のそれをもしのぐ。たとえ、半分魔の血が混じっていようとも、マーラはマーラであるとして抱き留める彼の偉大さは誰もが理解するところだろう。同じ状況において、同じことができる者がどれほどいるだろうか? その後、アルヒポフ商会も壊滅させた二人は、さらに接近することになる。そんな二人を揺るがす大きな出来事も、すぐ後に起きようとしていたのであった】


『聖剣伝説』第十一章より抜粋。



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