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【書籍化・コミカライズ】偽・聖剣物語 ~幼なじみの聖女を売ったら道連れにされた~  作者: 溝上 良
第四章 アリスターの婚活編

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第104話 戦斧

 










 さて、俺のマーラに対する評価は、『言動はアホっぽいけど他の貴族よりははるかにマシ』というものである。

 性格も良さそうだし、頭も別にパッパラパーというわけではない。笑い方で損をしている。


 ということで、割とマーラのことは見直していた。

 賊の討伐に付き合わされるのも……彼女から求めてきたわけではなく、俺に寄生している魔剣が強制してきたことだしな。


 ……俺が寄生したいのであって、寄生されるのはおかしいと思うんですけど。

 まあ、そういうわけで、俺はマーラの頭に関しては評価していたということである。


 だが……。


「おいおい。お前ら二人で、いったい何の用だ? 自分から殺されに……とっ捕まりにきたのか!?」

「そんなわけありませんわ! わたくしたちで、あなた方を懲らしめに来たんですわ!」


 ヘラヘラと笑う厳つく汚らしい男たち。

 あちらからすれば、カモが『二人』のこのことやってきたと思っているんだろうなぁ。俺も同意である。


 ここは、バルディーニ領のとある山。あの村を襲って壊滅させた、賊たちが拠点としている場所。

 そんな彼らの正面から堂々と押し入ったのが、俺とマーラである。


 ……山賊討伐のためのイカれたメンバーを紹介するぜ!

 戦いたくない俺! 戦えるかわからないマーラ! 以上だ!


 ……馬鹿なの? 自分から死にに来たの?

 いや、マーラは見た目もいいし領主だから殺されるまではいかないだろうけど、俺間違いなく殺されるよね?


 ねえ、何でこんな作戦したの?

 いや、分かるよ? 確かに、平野ではない山だから、大規模な部隊や兵員を動かすには適さないってことは分かる。


 だけどさ、二人ってことはないんじゃない?

 たった二人で、少なくとも数十人はいる山賊をどうにかできると思う? 普通、できないよね。


 それでさ、よりにもよってその二人が領主と俺ってどういうこと?

 お前、後ろの方で指揮しないといけない人じゃん。何で最前線にウッキウキで出張ってきてんの?


 それに、何で俺をつけたの? 魔剣のことだから、お前を守りながら戦うじゃん。俺の危険増すじゃん。

 まあ、自慢じゃないけど、色々な奴と戦ったからさ、賊程度に俺が……というより魔剣がやられることはないよ?


 でもさ、ダメージは受けるんだよね。そんでさ、俺って苦痛に対する耐性おっそろしくないわけよ。筋肉痛でももだえ苦しんで泣き叫ぶ程度には。

 魔剣はさ、お前を守りながら戦うだろうよ。


 ……じゃあ、確実にダメージ受けるよね? 苦痛を味わうよね?

 いやいやいやいや、おかしいじゃん。山だから大規模な部隊を動かすことができないという理由は分かる。


 連携取れないかもしれないからね。分かる分かる。

 でもさ、少数で動かすにしても二人はないんじゃない?


 それにさ、二人ってもはや舞台とも言えないレベルの人数なんだったら、暗殺者とかそういうスキルを身に着けている方がいいんじゃないかな?

 なのに、何故俺とマーラ? 馬鹿にしているの?


「くっくっくっ。まさか、女が自分からここに来るとは思わなかったぜ。俺らに捕まった女の末路を知らねえのか? 俺たちがまず楽しませてもらって、その後に奴隷商に売り飛ばすんだぜ? まあ、今更逃げようったって逃がさねえけどな」


 俺たちの前に立ってとんでもない犯罪宣言をしてくれる山賊の男。

 こいつが賊たちのリーダーだろうか? どうでもいいけど。


「逃げるつもりなんて毛頭もありませんわ! わたくしと、このアリスターさんで、あなたたちを誅しますわ!」


 いや、俺は後ろの方で大人しくさせていただくつもりだったんですけど……。

 マーラの私兵たちが戦っているのを、後ろからぼけーっとしながら見ているつもりだったんですけど……。


「くくくっ、威勢のいいことだな、領主様よ? まさか、領主自らこんな所に来るとは思わなかったぜ。あんたにはこの領地の賊が世話になったらしいからな。俺たちでお返しさせてもらうぜ。それに、元領主の貴族だ。奴隷として売れば、かなりの額になるだろうなぁ……楽しみだぜ」


 マジ?

 だったら、もう名前忘れたけど、シルクの時やマルタの時にいた貴族とっ捕まえて売り飛ばせばよかった。


『いや、あれ見た目も悪い男だったから無理でしょ』


 無理なのか……。

 男の方が労働力にはなるだろうし、あいつらに恨みがあった奴が結構出してくれるんじゃないか?


『発想が嫌!』


 奴隷に何言ってんだ、こいつ?

 ……と。魔剣のことやもう二度と会うことがない貴族のことなんてどうでもよかった。


 ここは、マーラの評価を稼ぐチャンス!


「いや、それは俺がさせないさ。マーラさんほどの美女で性格も良ければ、お前たちにはふさわしくない。お前たちは、不相応だ」

「あ、アリスターさん!?」


 俺がふっと不敵に笑いながら全身がかゆくなるようなことを言う。

 隣でマーラも驚いたようにこちらを見ていた。やはり、恥ずかしいのだろう、頬が紅潮していた。


 まあ、これは事実だしな。マーラは見た目も良いし、性格も一般的に善人と言われるようなものだろう。

 他のクソみたいな貴族を知っているから、余計にそう感じる。


「おいおいおいおい……色男さん、言ってくれるじゃねえか。お前、そんなこと言って楽に死なせてもらえるなんて甘いこと、考えてねえだろうなぁ? おい! テメエら、全員出て来い!!」


 あからさまに怒りの様子を見せる男。

 ひぇ……殺されるのも嫌だが、苦しめられるのも嫌です……。


 まあ、こんな弱い奴しか狙わないような連中に凄まれたところで、ビビるのは少しくらいだ。


『ビビるのはビビるんだね……』


 こちとら、グレーギルドとか人魚とか天使とかと戦わせられてんだ。賊がなんだ。

 ……ちょっと冷静に考えると、普通の農民が何でこんな連中と戦ったんだろう?


 この世の不思議に気づいてしまったぜ。

 なんてことを考えていると、洞穴からぞろぞろと男と似たような厳つくて汚らしい男たちが出てきた。ゴキブリかな?


「なんだよ、頭ぁ。たった二人だぜ? 俺たち全員で相手するまでもねえだろ?」

「そこの男が生意気なことを言いやがった。生きてきたことを後悔するような苦痛を与えてやりたいんだよ。そいつを一番痛めつけられた奴に、あの女を最初に抱かせてやるよ」

「おお! 結構年増だが、良さそうじゃねえか!」

「行き遅れのババアか……俺はいいかな」

「まあ! 酷いこと言いますのね!」


 むっと頬を膨らませるマーラ。

 いや、本当にババアって年齢じゃないだろ。二十代だし。


 しかし、ぞろぞろと出てきたなぁ。魔剣なかったら絶対にリンチされて殺されていたな。

 ……魔剣がなかったら、そもそもこんな奴らとは関わらないんだけどね。


 さて、また賊がマーラを貶めるようなことを言ってくれたので、これは俺の評価を上げるチャンスだ。

 まったく……アシストばかりさせて申し訳ない。


「何度も言うようだが……マーラさんは年増でも行き遅れでもない。魅力的な、美しい女性だ。お前たち程度には、その素晴らしさがわからないようだがな。まあ、害虫に月の美しさを理解しろというのが無茶か」


 …………あれ? ちょっと自分に酔って言いすぎたかな?

 殺意と敵意が物凄くぶつけられるし、マーラが呆けたようにこちらを見てくる。


 ああああ……月に例えるのはキザ過ぎたぁ……。


「害虫ねぇ。お前、ホント口だけは達者だな?」


 ギクリ。

 睨みつけてくる山賊の男の言葉に、俺は心臓を跳ねさせる。


 確かに、俺は口だけだからな。本性を見透かされたかと思って、驚いたわ。

 まあ、俺の演技力を見破ることができる者なんてこの世に存在しないがな。


「あ、アリスターさん!? は、恥ずかしいですわ! で、でも……ありがとうございます」


 顔を真っ赤にしてそんなことを言ってくるマーラ。生娘かな?


「俺たちの前でイチャつくとは余裕だなぁ、おい!? 男は当然殺すが、女も多少痛めつけた方がいいみたいだなぁ!」


 イチャついてないです。

 賊たちはそれぞれの武器を持って、睨みつけながら距離を詰めてくる。


 いやはや、怖い。あと、臭いから近寄らないでくれます?


「マーラさん、少し下がっていてもらっていいですか?」


 本来であれば、マーラを盾にしたり、はたまた囮にしてスタコラと逃げ出すのだが、魔剣がそんな蛮行を許すはずもない。

 だったら、格好いいところを見せて評価を上げておこう。


 なに、大した力も持っていなさそうな賊相手なら、魔剣がどうとでもしてくれる。


『人任せだ……』


 魔剣の声を無視していると、何故か俺の前に出てくるマーラ。

 後ろに引っ込んでろって言っただろ。


「あら。わたくしを何もできないか弱い女とは思わないでほしいですわ。アリスターさんが、わ、わたくしのために、その……啖呵を切ってくださったんですもの。わたくしも、頑張りますわ」

「テメエみてえな温室育ちのババアに、何ができるってんだぁっ!?」


 少し頬を染めながらも、不敵に微笑むマーラ。

 そんな彼女に対して、賊たちが嘲笑う。


 まあ、貴族が戦えるとは到底思えないしなぁ……。


「わたくしでも、あなた方程度を倒すくらいのことはできますわ。失礼しちゃいますわね」


 しかし、そんな心配や嘲笑は彼女にとって不要なものであった。

 マーラがぷんぷんと擬音がつきそうな可愛らしい怒り方をしつつ、手にとったのは身の丈を越すような大きな戦斧だった。


 …………え?




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