嫌い
好き…嫌い…好き…嫌い…好き…嫌い…
女の声だろうか。小さいが、確かに声が聴こえる。
女は片手に綺麗な花を持ち、もう片方の手で花弁を千切っていた。俗に言う花占いである。誰を占っているのだろうか。
好き…嫌い…好き…嫌い…
連続するリズム、それは恋の詩。そして遂に最後の花びらが宙を舞った…
「嫌い!…そう、大嫌いよ!」
「あ゛あ゛!!誰の事が嫌いなんだって!言ってみろよ!」
そう叫んだ女の声を、突然後ろから男がさらに大きい声で掻き消した。
「そう、そういうところよ!貴方と居ても楽しい事なんてない!もう沢山よ!」
女が居たのは男の家だった。別れを告げる為にやって来ていたのだ。
「なんだと!この女!俺が可愛がってやってたのに、なんて態度だ!」
男は自分の態度を棚上げし、女に対して憤慨した。
「今だったら許してやるぞ。どうだ?」
男は女が自分に靡くと確信している様子である。それを見て女は嫌悪感が止まらない。
「ちょっとは態度が治るかと思ってたのに…もう、知らない!」
女は玄関へ向けて歩き始めた。男が何を言おうと耳も貸さずに。
だからこそ気付かなかった。かっとした男が拳を振りかぶっていた事に。
ゴキッ!
鳴ってはいけない音が鳴ってしまっていた。
女の最期の記憶は…自分の血で作られた血溜まりと、狂った様に笑い続ける男の声だった…
殺害END