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職員室の異能者共  作者: むらさき
6/10

千里眼 後

カクヨムにて同タイトル連載中

 とある中学校の校庭。


 体育の授業に勤しむ生徒たちの声が聞こえてくる中、ヤマウチはそんな様子には目もくれず、ただ地面だけを凝視しながら歩いていた。


 別に小銭を探しているわけではない。


 むしろ小銭ならばよかった。まだ目に留まりやすい。


 だがヤマウチが探しているのは、『コンタクトレンズ』だ。


 千里眼の異能者である教頭曰く、


「いやー、私は極度の遠視でね、コンタクトレンズがないと遠くが全く見えないんだよ。だから今の私は千里眼じゃなくて、0,01尺(約3cm)眼だよ。はっはっは」


 全く理解はできなかったが、もともと異能というものがよくわからないものだ。


 そういうものなのだろうと無理やり自分を納得させて、ヤマウチは教頭のコンタクトレンズを探すために職員室を出ることにした。


 教頭からコンタクトレンズを無くしたときの状況を詳しく聞くと、どうやらグラウンドの端で草むしりをした後に校舎へと戻る途中だったらしい。


 強い風が吹いてきて、コンタクトが外れて飛ばされてしまったと言っていた。


 なぜ教頭が草むしりなど……と思うかもしれないが、これも教頭の仕事の一つであるらしい。


 以前、ヤマウチは煙草を吸って戻る途中に草むしりをしている教頭を見つけ、なんとなくそれを手伝っているときに、それとなく、なんでこんなことをしているのか聞いてみたことがある。


 校長の補佐や、所属職員の監督など、学校というものがうまく周るようになんやかんや頑張るのが教頭の仕事らしいが、生徒たちの教育環境を整えることも仕事なのだと教頭は語った。


 その一環としての草むしりらしい。


 まだ若く、教頭という職に対して関心がないヤマウチはピンとこなかったが、教頭がそういうのならそうなのだろう。


 別に教頭が草むしりをしていて問題が起こったことなどないし、草むしりを他の職員に強要することもないので、それをとやかく言う人間もいない。


 ただ最後に教頭が言った


「生徒と関わる機会がほとんどなくなったから、少しでも生徒とのつながりを持っていたいんだよね」


 という言葉だけは理解できた気がした。


 


「ウッチー、あったー?」


 少し離れた場所から、言霊遣い―オオカワチ―がヤマウチに声をかける。


 教頭から詳細を聞いたヤマウチは、1人だと骨が折れると判断し、職員室で眠たそうにしていたオオカワチを引っ張り出したのだ。


 人形遣いも同様に眠たそうに、いや、眠っていたのだが、同時に骨格標本がせっせと働いていたために放置しておくことにした。


「いや、ないですねー」


 腰を後ろにそらせながらヤマウチは答えた。


 腰痛持ちのヤマウチにとって、ずっと地面を見ている姿勢は正直辛かった。


「どうしよっかー」


 オオカワチがヤマウチの元へとやってくる。慎重に地面を確認しながら、ゆっくりと。


「薄々思ってたんですけど……無理じゃないですかね」


「だよねー……」


 教頭から大体の場所は伝えられていたが、それでも透明で小さいコンタクトレンズを探すのは困難だ。


 ましてや落としてすぐではなく時間が経っているのだ。


 風に飛ばされたり、砂に埋もれたりしている可能性もある。


 しかし教頭は


『多分君たちならすぐ見つけられると思うよ』


 と言っていた。


 あの言葉の真意をしっかりと聞いておくべきだったと今更ながらヤマウチは後悔したが、もう現場に来てしまっているのだ。


「後でスガ先生に頼んでみます? 物探しの魔法とかあるんじゃないですか?」


「そだねー、スガちゃんなら何とかしてくれそうだよね」


 オオカワチの『言霊』のような限定的な異能と違い、スガの『魔法』という異能は非常に便利で応用が利く。


 職員室に戻ったらこっそりと『困った時のスガ頼み』という標語を職員室の壁に貼っておいてもいいのではないだろうかとヤマウチは思ったが、絶対にスガに自分がやったとバレて怒られるだろうと考え直した。


 とりあえず一度職員室へと戻ることをヤマウチが提案しようとしたとき、オオカワチが


「あれ?」


 と何かを見上げながら声をだした。


 ヤマウチもつられてオオカワチの視線の先を見る。


 そこには一本の木が生えていた。


 いや、生えて『いるところ』だった。そう、現在進行形で。


 木、違う、あれは巨大なツルだとヤマウチは気づいた。


 さながらジャックと豆の木のように、どんどんとそのツルは絡み合いながら上へ上へと伸びていく。


 その巨大な植物が生えている場所は、位置的には学級菜園だ。


「ウッチーのところの主任、またやらかしてるよ……」


 オオカワチが呆れたような声で言う。


 ヤマウチが所属する2学年の学年主任は、そういうことができる異能力者であり、そしてこういうことの常習犯であった。


「あー、そうみたいですね。これはまた校長に呼び出されますね……」


 校長室に呼び出される学年主任の切ない後ろ姿を想像して、ヤマウチもため息をつく。


 そして、気づく。オオカワチも気づいたようだ。


「それでさ、ウッチー……まさかとは思うけどさ、あのツル? の途中に引っかかってる人の顔の大きさぐらいある半円状の透明なガラス的なものって……」


「いや、まさか……」 


 2人は顔を見合わせて笑いあった。


『多分君たちならすぐ見つけられると思うよ』


 そういうことか……


 まさかコンタクトレンズが、教頭の顔を覆う布に描かれた巨大な1つ目用であるとはだれが想像できようか。


「ウ、ウッチー、早く取らないと!」


「マジかよ!」





 結局コンタクトレンズがひっかかったツルはその後もどんどんと伸び続けたため、手に負えなくなったヤマウチとオオカワチは授業中のスガを呼びだし、魔法で『とりあえず』コンタクトレンズだけ取ってもらうことにした。


 その巨大なツルを生み出した張本人である学年主任は、パソコン室でのんきに植物の成長記録を作っていたところを発見され、今現在は校長室で厳重な注意を受けているころだろう。


「いやー、助かったよ、本当にありがとうね」


 ヤマウチが『両手』で持ったコンタクトレンズを教頭に渡すと、教頭はあろうことか、頭にかぶった布の『内側』へとそれを滑り込ませた。


「教頭先生の布の中の顔って……どうなってるんですか?」


「ふふふ……それはね……」


 5限目終了を告げるチャイムが校舎内に鳴り響く。


「おっと、私は次の時間会議があるんだった。じゃあ、ウッチー、本当にありがとうね」


 そういうと教頭は手元にあったファイルを持ち、確かな足取りで職員室から出て行った。


「え、ちょっと! ……まあ……良いか」


 興味はすごくあるが、深追いをすることない。


 チャイムが鳴らなくてもきっと教頭ははぐらかしたに違いない。


 それにしてもあのコンタクトレンズ……ソフトだったな……


 そんなことを考えながらヤマウチが自分の席に戻ると、ちょうどスガも授業から帰ってきたところだった。


「あ、ウッチー、さっきの魔法は貸しだからねー。後でコンビニスイーツね」


 とかのたもう魔法使いの言葉に、ヤマウチは言霊遣いもみちづれだとオオカワチの姿を探すが、ちょうど職員室を出ようとしているところだった。


 オオカワチは扉を閉める時にヤマウチが見ていることに気が付いたようで、手を軽く振る。


 そしてそのまま去っていった。


 仕方ない、スガと自分の分だけ買って、後から料金をオオカワチに請求しよう。


 そう考えながらヤマウチは消えない満腹感の事を思う。


 まあ、甘いものは別腹だろう。多分。

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