6−17
「……えっ?」
キリエは状況が飲み込めず、呆けてしまう。
「お、お、お、お……!」
マリアを串刺したポロニアスは、言葉にならない声を上げていた。
「キリエくん、油断したな。だが、間に合って良かった」
串刺しにされたマリアが言う。
言いながら、ごふっと血を吐いた。
「マリアっ」
キリエが駆け寄ろうとするのを、マリアが視線で制した。
キリエは目の前の現実を直視できず、言葉を失っていた。
「大丈夫、私は大丈夫だ。だから、此奴にトドメを刺してやってくれ」
マリアは胸から生える手を自身の手で押さえつけていた。
ポロニアスは呻き声を上げながら、手を引き抜かんともがいていた。
「大丈夫。あとは雷撃を一発叩き込んでやるだけで終わる。きっとそれで、こいつに引導を渡してやれる。こいつはもう、他の幻魔生物同様、自分を失っている。だから、ここで終わらせてやってくれ。頼む」
マリアが懇願するように言った。
キリエは逡巡した。
このまま放てば、マリアも無事ではすまないからだ。
「何度でも言う。私は大丈夫だ。さあ、やれ!」
「ああああああああああ!」
キリエは叫び声を上げながら雷撃を放った。
雷撃はマリアとポロニアスを覆い、両者に致命的なダメージを与えた。
「マリア! ……マリア!」
キリエがマリアの元へと歩み寄る。
マリアは横たわり、胸から血を垂れ流していた。
胸を貫いた手は焼け焦げ、黒ずんでいた。
キリエはまずポロニアスの手を引っこ抜く。
そして、マリアを抱えて、ポロニアスと距離を取った。
マリアを横たえたキリエは、手を翳して、治癒を試みんとした。
「確かこうして……、ああ、違う! ……これも違う! もう、なんでうまくいかないのよ!」
だが、慣れない治癒異能にキリエは苦戦した。
元々異能に頼らず戦うことしか学んできていなかったキリエに、いきなりの治癒異能は難易度が高かった。
「誰か……、誰か……」
キリエが泣きそうになりながら呟く。
ふと、その肩に、手が置かれた。
「大丈夫、キリエちゃん、僕がやる」
手の主はリオだった。
「リオ、生きて……!」
キリエが歓喜の声を上げると、リオはにっこりとキリエに微笑みかけた。
「うん、何とかね。負傷がひどかったから治癒に時間がかかったけど。ほら、彼らも無事だよ」
リオが指差す方に視線を送ると、赤林にジン、あんながこちらに歩み寄る姿が見えた。
「みんな……!」
キリエは全員が無事だったことに喜びを禁じ得なかった。
「とにかくマリアを治癒しないと」
だが、事は一刻を争う状態なのに変わりはなかった。
リオがキリエと場所を変わって治癒異能をかけ始めるが、未だにマリアの血は止まらず流れていた。
「お、お、お、お……」
そのさなか、また再びの不穏な呻き声が聞こえる。
音の出所に目を遣ると、ポロニアスが再び動かんと身をよじっていた。
「こいつ……、まだ……!」
キリエが立ち上がって身構える。
だが、ポロニアスは身をよじるだけで、立ち上がることすらできないようだった。
キリエはポロニアスへと歩み寄り、見下ろした。
ポロニアスは苦悶の声を出しながら、身をよじり続けていた。
「いい加減眠りなさい、永遠に……!」
キリエが短剣を突き立て、雷撃を放つ。
ポロニアスは一瞬跳ねるような動きを見せたが、内部から身体を焼かれ、身体が黒ずみ始める。
そして、そのまま身体は灰となり、塵となって消えていった。




