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「どうでしたか、今年の新入生は?」
暗がりから声がかけられ、男は立ち止まった。
「……別に、いつもと変わらねえよ」
そう答えながら、男はサングラスの位置を整えた。
背中に冷や汗が滲んでいるのを自覚していた。
「我が学園始まって以来の秀才と呼ばれる、現会長が怯えるほどの逸材がいましたか。それは楽しみですね」
クツクツと笑う声が聞こえる。
男は嘲笑とも取れるその声に、舌打ちをした。
「用は済んだか? もう行くぞ」
男は一歩踏み出そうとした。
「ああ、それともう一つ……」
暗がりに姿を紛らせていた青年は、ようやく視認できる位置まで移動してきた。
そして、顎に手を当てながら、真剣な眼差しで男を見つめ、尋ねかけた。
「君は何故、人前に出るときだけはそんな格好をするのですか?」
男は質問に答えることなく、黙ってその場を後にした。
その後ろ姿を眺める青年は、再びクツクツと笑っていた。
『以上を持ちまして、本年度の入学式を終了します。一同、誘導に従って退場してください』
「……あれ、私の挨拶は、なしですか?」
ひとしきり笑った青年が壇上に向かおうとしたところで、式の終了が告げられた。
青年は、その場に立ち尽くすしかなかった。




