6−5
「う……、ん……」
『良かった。目を覚ましたんだね、キリエちゃん』
リオの優しげな声が響く。
キリエはゆっくりと目を開け、身体を起こした。
「私……は……、そうだ、ポロニアス……!」
そう言うと、キリエは慌てて周囲を見渡した。
そして、異様な光景を目撃することになる。
何故か、赤林たちとナナが対峙していた。
仲間であるはずの彼らが、向き合って睨み合っていた。
「えっ、どういうこと? どうなってるの……?」
キリエが疑問を呟く。
何がどうしたらこうなるのか、皆目見当もつかなかった。
『わからない。ただ、たぶんだけど、ナナくんの身体が乗っ取られたんだと思う。さっき、ポロニアスの身体から、蒸気のようなものが噴出したんだ。それに包まれたナナくんが、急に敵に回った。距離があるから会話は聞こえないけど、おそらくは間違いない』
リオの張り詰めた声が聞こえる。
キリエは状況を理解はしたが、どうしたら良いのかわからなかった。
『動かずに聞け、お前ら』
すると突然、マリアの声が脳内に響いた。
キリエたちは一瞬身体を強張らせたが、すぐに落ち着きを取り戻し、声に意識を傾けた。
『向こうまで思念を飛ばすとポロニアスに気づかれる。だから、お前たちにだけ伝える』
マリアは言葉を続ける。
『今は、ナナの身体にポロニアスの奴が入り込んでいる。赤林たちはそれに気を取られてナナと対峙しているが、本体は少年の身体の方だ。あちらに攻撃を加えれば、ポロニアスだけにダメージが通る』
マリアは更に続けた。
『だが、あいつらに直接このことを伝える術がない。だから、キリエくん、君にこれを授ける。これを使って、あいつの本体を叩け』
マリアの言葉の直後に、キリエの左手を何かが覆う。
チラと左手を見遣ると、そこにはラピスラズリの填まった籠手が装着されていた。
瞬間に、身体の底から何かの力が渦巻いてくるのを感じた。
『やっぱり、先生は気づいていたんですね』
リオの声が響く。
『まあな。キリエくんは異能の才がないと嘆いていたが、決して才がないわけではない。才がなければ、この学園にいることなんてできないのだから。キリエくんは異能の才がないのではなく、命の力が大きすぎるんだ。だから、アクアマリンでは表面をなぞることしかできず、うまく引き出しきれなかった。だが、ラピスラズリの力を使えば、そのキリエくんの力もきっと引き出せる。アクアマリンだけでは引き出しきれなかったその力を、ラピスラズリなら引き出してくれるはずだ。ラピスラズリで力を引き出し、アクアマリンでコントロールする。それができれば、人並み以上に、異能を扱えるはずだよ。まあ、もう少し鍛錬を積ませてやってから渡したかったのが本音だがな』
マリアが答えた。
『とにかく、それを使えば、キリエくんも異能が使えるはずだ。自分でもそんな気がしているだろう?』
思念を飛ばせないキリエは首肯する。
マリアはフフと笑うと、
『なら大丈夫だ。さあ、行ってこい』
と言った。
そこで、マリアの言葉は聞こえなくなった。
キリエは目標物を見据え、気合いを入れた。
『キリエちゃん、ぼくが風で音を遮断し、気配を消す。それに乗じて本体に近づいて、本体に全力の一撃を叩き込んで』
キリエが頷くと、リオがその肩に乗ってきた。
同時に、キリエの周囲に風が舞った。
『さあ、行くよ』




