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「大遅刻ですよ? 何時だと思ってるんですか?」
女教員が、一人の新入生であろう小柄な学生と対峙しながら腕組みをしていた。
「あ、あの……、ごめんなさい……」
背の低い学生は頭を垂れ、反省の色を示していた。
教員はため息を一つ吐いてぼやいた。
「はあ……。先生と言い、新入生と言い、ここは本当に癖のある人しか集まらないわね……」
教員は諦めたような顔になり、軽く学生の肩を叩いた。
「まあ、いいわ。これからは気をつけるのよ? 中に入りなさい」
教員は肩から手を離すと、式が進行している講堂の扉をそっと開いた。
学生は何度も頭を下げて、物音を立てないように中に入った。
誰かしらが挨拶をしている最中らしい。
男の声が講堂には響いていた。
学生は忍び足で進みながら、最後尾の空いている席を目指した。
すると、突然、挨拶の声が途切れた。
学生が驚いて壇上を向くと、リーゼントスタイルの男が、こちらに視線を寄越している気がした。
邪魔をしてしまったかと思い、学生は慌て、おろおろとしながら周囲を見渡した。
しかし、他の人は誰もこちらを気にする様子がなかった。
男も、軽く咳払いをすると、何事もなかったかのように話を再開した。
気のせいだったのかと学生は胸をなで下ろし、再び席に向かって移動し始めた。
ようやく席にたどり着くと、思わずふうと一息を吐いてしまった。
思ったより大きく息を吐いてしまったためか、隣に座る少女が怪訝そうにこちらを睨んでくる。
苦笑いしながら軽く会釈し、壇上へと顔を向けた。
だが、すぐに、最前列中央の空席が目に留まり、壇上から意識が逸れてしまった。
こちらに背を向けて座る猫の姿がそこにはあった。
学生は不思議に思いながら首を傾げ、なんで猫なんだろうとつぶやいてしまった。
それに応じて、隣の少女が咳払いをして再び警告を発する。
我に返った学生は、再び少女に頭を下げて今度こそ壇上に集中した。
挨拶をしている男は、こちらなど見向きもせずに、話を続けていた。




