5−9
「あの野郎……、言うだけ言ってまた逃げやがった……」
マリアがぼやいた。
先ほどまでアポカリプスの前に立っていた理事長──アルスの姿は、忽然と消えていた。
「まあ、こうなったら仕方がない。良いかお前ら、今から特別講義をしてやる。目の穴かっぽじってよく見ておけ!」
目の穴をかっぽじったら何も見えないなどと野暮なことを言う者はいなかった。
それよりも、怒濤の展開についていけず、言葉を失っている者たちばかりだった。
だが、そんな学生たちを気にすることなく、マリアがアポカリプスの元へと走った。
そして、駆けながら剣を創出し、まっすぐにアポカリプスの前足に向けて突き進んだ。
「これが、近接の戦い方だ!」
マリアがアポカリプスの左足に向けて斬撃を放つ。
アポカリプスが悲痛な叫びを上げ、若干姿勢を崩した。
マリアはそれを見届けることもなく、次は右足へと向かう。
小さな身体をものともせず剣を振るい、右足も薙ぎ払った。
再びの悲痛な叫び声が響き、アポカリプスの態勢が前のめりに傾く。
マリアは大きく跳びあがり、その背へと着地した。
剣を逆手に構え、アポカリプスの背中へと突き立てる。
また再びのアポカリプスの悲鳴が響き渡った。
だが、アポカリプスは反撃に出た。
マリアを振り落とさんと、大きく尻尾を振った。
尻尾がマリアへと向かう。
だが、マリアは動くこともなく、右拳を構えた。
「せいっ」
尻尾がマリアに直撃せんとする瞬間に、マリアは拳を突き出した。
刹那、尻尾が大きく弾かれ、アポカリプスの叫び声が響いた。
マリアは息つく間もなく、次の行動へ移る。
背を駆け頭に向かって一直線に走る。
頭蓋に脚をかけたと思いきや、マリアは軽く飛び上がり、身体を前に回転させる。
そして、回転の勢いを使い、頭蓋に踵を振り落とした。
衝撃で、アポカリプスは地に伏せる。
マリアは一度頭蓋に着地したあと、大きく飛んで学生たちの近くへと着地した。
「これが、近接戦闘だ」
息を切らした様子もないマリアが告げた。
学生たちはマリアのあまりの華麗な動きに見蕩れていた。
「さて、続いて遠隔の戦い方を見せてやろう」
マリアが今度は右手をアポカリプスに向ける。
すると、眼前に火の玉が浮かんだ。
マリアが更に前に手を突き出すと、火の玉は凄まじい速度で倒れ伏すアポカリプスへと向かった。
同時にマリアはアポカリプスの脇へと走り込んだ。
走り込みながら、右手と左手、両の手の先に炎を出現させる。
そして、最初の火の玉がアポカリプスと接触しはじけると同時に投げるような仕草で同じところへと放った。
二撃、三撃目が命中する。
アポカリプスは何度目わからない悲鳴を上げた。
しかし、マリアは止まらない。
そのまま背面まで駆け抜けようとする。
だが、再びの尻尾がマリアを襲ってきた。
背面には行かせまいと、巨大な尻尾が行く手を阻んだ。
対して、マリアは片手を上げて火の障壁を眼前に作り出すだけで、それを防いだ。
弾かれた尾が上方に逸れ、隙間が生まれる。
その隙間を縫って、マリアは背面に到着した。
到着するなり、今までのより一回りも二回りも大きい火の玉を五つ同時に創出する。
「これが、遠隔の戦い方だ!」
そして、拳を突き出すような動作を行う。
すると、五つの火の玉は、一直線にアポカリプスの背後、先ほどマリアが突き立てた剣に向かって突進した。
五つの玉が剣に触れた瞬間、アポカリプスが身体をよじる。
剣を伝い、炎が体内にまでダメージを与えているようだった。
「これが、遠隔戦闘だ」
巨大なアポカリプスを飛び越えてマリアが再び戻ってきた。
マリアが学生たちに向き直る。
そして、両手を腰に当てて、不敵な笑みを浮かべながら言った。
「さあ、次は君らの番だ。君らの全力を見せてくれたまえ」
だが、言い終えるなり、マリアの身体は前のめりになり、そのまま地に倒れ込んだ。




