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ナナの言葉に反応するかのように、一人の男が姿を現す。
何の音もなく、何の前触れもなく、突如として学生たちの前に顕現する。
「理事長、お前、何処に隠れてやがった……!」
マリアが怒りを滲ませながら叫ぶ。
「いえいえ、ちょっとやることがありましてね」
だが、理事長は意に介した様子もなく、にこにこと笑っていた。
「で、そのやることってのはなんだ?」
諦めた様子の会長が疑問を投げかけた。
理事長は口元に手を当て、何かを考えているような仕草をした。
「んー、そうですね……」
理事長らしばらく考え込むような様子を見せる。
そして、おもむろに口を開いた。
「強いて言うなら、皆さんのレベルアップでしょうか?」
理事長の言葉に、その場にいる全員が頭に疑問符を浮かべる。
だが、やはり理事長は意に介する様子なく、言葉を続けた。
「つまりはですね、皆さんに幻魔生物と戦ってもらって、実戦経験を積み、成長してもらいたかったのですよ」
「ちょっと待ってそれってつまり……」
キリエが驚き戸惑いながら声を発する。
それに答えるように、理事長は事もなげに言った。
「はい、この騒ぎの元凶……、幻魔生物を大量発生させたのは、私ですよ」
「ふ……」
キリエが声を発する。
「ふ?」
理事長がそれに反応する。
「ふざけんじゃないわよっ。こっちは死ぬような思いしたのよっ」
キリエが叫んだ。
だが、理事長はそれを一笑に付した。
「あはは。いえいえ、それぐらいでないと困ります。何せ今からさらなる死地に赴いてもらうんですから」
その言葉に、全員に緊張が走る。
次の瞬間、また再びの地が割れんばかりの振動が全員を襲った。
同時に、大きな影が差し、日の光を奪った。
全員が顔を上げ、そして、声を失った。
理事長を除く、その場にいた全員が、あまりのことに硬直した。
「さあ、ここからが……、いえ、ここからこそが本番です! 全員の力を合わせて、彼を倒してくださいませ!」
理事長は大きく手を広げた。
その背後には、巨大な龍型の生命体が佇んでいた。




