5−3
「くそが……、なんだってこんな数が……」
長髪の男──学園生会会長は、言いながらも激しく動き回っていた。
次から次へと襲ってくる幻魔生物を、その拳で打ち砕いていた。
「おい、救援要請は出したのか?」
男は振り返らずに背後に声をかける。
「は、はい! もうまもなく到着するかと……」
背後で戦闘を繰り広げていた副会長が、槍を振り回しながら答えた。
その周囲には、他にも数人、学生と思しき者たちが武器を手に取り戦っていた。
「やあやあやあ、お待たせしてすまないね」
突然、場にそぐわない口調の声が聞こえてきた。
会長は舌打ちをすると、周囲の幻魔生物を一掃し、高く飛び上がって声の出所に移動した。
「よりによって、お前が来るとはな」
そして、声の主に声をかけた。
「はっはっはっ、予想外だろう? しかし、残念なことに、私はただの引率だ」
声をかけられたマリアは、緊張感のない口調で答えた。
その態度に、会長は再度舌打ちをした。
「ちょっと、マリア! 待ちなさいよ! いい加減説明……を……」
まもなく、キリエたちが息を切らしながらその場に到着した。
だが、キリエたちはマリアの横に立つ会長を視界に収め、立ち竦んでしまった。
「えっと……、どういう状況……?」
キリエが、会長とマリアを交互に見ながら、状況の説明を求める。
マリアはからからと笑ってから、それに応えた。
「さっきも言っただろう? 今から学園生会と共闘して幻魔生物を殲滅する、簡単なお仕事をしてもらうだけだ」
「……は?」
あっけらかんと言うマリアに、キリエから素っ頓狂な声が漏れた。
他の五人も呆気に取られて言葉が出ない様子だった。
「ち、ちょっと待ってください、いきなり幻魔生物と戦えと言われても……」
一番に冷静さを取り戻した赤林が言った。
対して、マリアは説明もせずに話題を変えた。
「ああ、私に対してそんな上っ面の気遣いはいらないよ、赤林。リオにしていたようにざっくばらんに話してくれたまえ」
赤林の身体がビクッと震えた。
そして、はあと一息吐くと、髪をかき上げながら言った。
「聞こえてたのかよ、あの会話。声は絞ったつもりだったんだがな」
「はは、大丈夫、他の連中には聞こえちゃいないさ。私の耳が良いだけだ」
マリアが呵々大笑した。
赤林は舌打ちをすると、話を戻した。
「ちっ……。まあ良い。とりあえず、いきなり幻魔生物と戦えと言われても、訳がわからねえ。もっとちゃんと──」
赤林の言葉の途中で、幻魔生物が彼らの元に飛び込んできた。
ギリギリで察知した六人は、大きく飛び退いてそれを回避した。
会長がその幻魔生物と戦いを始める。
会長がチラとマリアを見遣ると、マリアは軽く頷き、学生たちに向き直った。
「この通り、君らには最早、選択の余地がない。やらなければ死ぬだけだぞ?」
マリアが事もなげに言う。
その言葉に、全員の背筋に寒気が走った。
「ちっ、わかったよやりゃあ良いんだろ、やりゃあ」
赤林は言い終えるなり剣を創出して構えた。
『残念だけど、本当に選択の余地はないみたいだしね』
リオも杖を創出して構える。
他の学生たちも、各々自身の武器を創出し、戦闘態勢を取った。
だが、ただ一人、キリエだけはギリと歯をかみしめていた。
「私は……戦えない……」
言いながら、右手へと視線を落とす。
視線の先には、アクアマリンの失われた籠手が装着されていた。
「心配するな」
いつの間にか真横にいたマリアが声をかける。
「これを貸してやる」
言うなり、キリエの籠手に手をかざした。
次の瞬間には、籠手にアクアマリンが填まっていた。
キリエは驚いてマリアを見遣った。
「これで戦えるだろう?」
マリアがニヤリと笑う。
その右手には、アクアマリンの失われた籠手が装着されていた。
「でも、それじゃあんたが!」
「大丈夫、私にはこれがある」
左手には、別の籠手がつけられていた。
だが、填まっている宝石は、アクアマリンではなかった。
填まっていたのは、ラピスラズリだった。
「でも……!」
尚もキリエは食い下がる。
だが、マリアは首を横に振って、それを制止した。
「確かに、ラピスラズリは通常、異能をの力を引き出すことには使われない。だが、決して引き出せないわけではない。いや、むしろ、アクアマリンよりも引き出せると言って良いだろう。扱いが難しいというだけで。なに、心配しなくとも、私なら何とか扱える。だから気にする必要はない」
キリエはまだ逡巡しているようだった。
少しの間、俯いて迷った表情を浮かべていたが、ようやく顔を起こすと、マリアに力強い視線を送った。
「話はまとまったか?」
幻魔生物を屠った会長が大きく飛んで横に降りてくる。
「ああ、待たせてすまないな」
マリアは軽く詫びを入れて、未だ数の減らない幻魔生物たちを睨んだ。
キリエはグッと拳を握り締めてから、幻魔生物を強く睨んだ。
「さあ、行ってこい。お前らの実践デビューだ」
マリアの言葉を合図に、六人は幻魔生物の群れの渦中へと走り去った。




