4−12
「名無?」
「ひどい名前」
「W組の躍進もここまでみたいだな」
審判の召集の声に、会場内がにわかに騒がしくなった。
そのほとんどが、ナナの名前に対する嘲笑だったが、ナナは微塵も気にしていない様子で、意気揚々とステージ中央に足を運んだ。
対する、奏と呼ばれた学生も中央へと歩み出る。
両者が中央で対峙すると、会場内の喧噪が収まった。
ナナがキョロキョロと会場を見回す。
そして、ある一点で顔を止めると、満面の笑みを浮かべ、大きく手を振った。
その先には、理事長の姿があった。
理事長は軽く手を振り返し、ナナに応えていた。
「お父さんが見てる。アレを使っても大丈夫。きっといける!」
ナナが独り言を漏らす。
「舐めてんのか?」
すると、今まで黙っていた奏が言葉を発した。
「あ、ご、ごめんなさい!」
ナナは慌てて頭を下げた。
奏は舌打ちだけして、拳を構えた。
対するナナは、地面に手を置いた。
その姿に、再び場内に嘲笑が漏れた。
「名無くん、準備を」
手をついたまま動かないナナに審判が促す。
「あ、これで準備できてます!」
「わかりました。……それでは、はじめ!」
審判の合図が会場内に響いた。
決戦の火蓋が、切って落とされた。
その瞬間、地に置かれたナナの手が地面にめり込む。
そして、ゆっくりと引き抜かれた手には、小柄なナナには似合わない物が握られていた。
ナナの背丈の倍以上はあろうかという、大太刀が姿を現した。
「なんだよ、それ……」
奏が漏らす。
もちろん、その大きさにも驚きはしたが、それ以上に大太刀から発せられる尋常じゃない異能の力に、驚き戸惑っていたのだ。
「じゃあ、いきますね!」
ナナが遊びにでも行くかのように元気よく宣言する。
すると、ナナは瞬時に奏の眼前に移動し、大太刀を振りかぶった。
「なっ」
放心していた奏は慌てて両手を防御に回す。
次の瞬間に、ナナの大太刀は物凄い速度で振り下ろされた。
「ぐっ」
何とか堪えたが、奏は思わず声を漏らした。
奏は腕で受けたはずなのに全身に衝撃が走ったような錯覚を覚えていた。
その衝撃は、足元にも現れていた。
先ほどまで何もなかった足元には、くっきりとヒビが入っていた。
「もういっちょ!」
再びナナの声が聞こえる。
奏は慌てて籠手のハマった右手を横に構えた。
刹那、横に薙がれたナナの大太刀が襲う。
奏は何とか受け止めこそしたが、そのまま横に吹き飛ばされてしまった。
「がっ」
飛ばされた奏が息を漏らす。
「そこまで! 勝者、W組名無!」
その瞬間、勝負の決着が告げられた。
奏の右手に嵌められた籠手のアクアマリンは、大きくひび割れていた。
会場が静まりかえる。
たった二撃で決着がついたことに、誰もがついていくとができないようだった。
少しして、ナナが思い出したかのように言った。
「あ、ありがとうございました!」
瞬間、歓声が沸き起こった。
「すごいぞー、W組ー!」
「大番狂わせだー!」
「最高だー!」
W組を称える声が場内に響き渡る。
ナナは訳がわからずキョロキョロと辺りを見回していた。
「ナナ!」
突然名前を呼ばれ、ナナは振り返る。
すると、キリエが飛びついてきた。
ナナはまたもや混乱し、どうしたらいいのかわからなくなってしまった。
「よくやったわ、ナナ!」
キリエがナナに言う。
後ろから来ていた他メンバーも笑顔を浮かべていた。
「あ、はい! やりました!」
ようやく我に返ったナナは元気よく言った。
W組全員が勝利に沸いていた。
「きゃーっ!」
だが、突然聞こえた悲鳴がそれを劈いた。
歓声に満ちていた場内が一瞬にして、静まりかえり、一所へと視線が集まった。
「げ、げ、幻魔生物だーっ」
誰かの叫び声が聞こえる。
次の瞬間、場内は大混乱に陥り、阿鼻叫喚と言った様を呈した。




