0−3
「──この場での生活が実り多いものであり、また、一生の宝物となるよう、精一杯過ごしたいと思います。以上で、新入生代表……の挨拶とさせていただきます」
少年は一礼し、壇をおりた。
(なんで俺がこんな辱めを受けなきゃならないんだ)
チラと視線を新入生の一団に向ける。
最前列中央、猫が居座る席に視線を向けて、少年は舌打ちをした。
(主席ができないから次席のお前が挨拶をしろ? ふざけるな。俺より成績が良かった奴がいるのも不服だが、更にそれを全学生に見せつけるなんて、辱め以外の何でもないっ)
少年は苛立ちを募らせながら、完全に壇上から捌けた。
「おう、おつかれ」
その瞬間に頭上から声が聞こえた。
少年は苛立ちのせいもあったのだろうが、相手の存在に全く気づけず、大いに驚いた。
声のする方に視線を向けると、更に緊張が走った。
体格のいい、今どき見かけることもまれな、リーゼントで髪を固め、サングラスをかけた大男がこちらを見下ろしていた。
学校になんでこんな奴がいるんだよと思いながらも、何をされるのかと少年は身構えた。
「中々の挨拶だったぜ。良い学園生活を送れよ」
だが、男は何をするでもなく、頭をポンと叩いて言うと、そのまま壇上に向かって歩いていった。
『続きまして、在校生を代表しまして、学園生会会長からの挨拶です』
放送の声を受けて、壇に上がった男が話を始めた。
少年は膝が震えて、その場で動けなくなってしまっていた。
(なんだよあれ……、あんなの人間じゃねえだろ……)
少年は男の見た目に怯んだわけではなかった。
もちろん、見た目に驚きもしたし、存在に気づけなかったことにも驚き戸惑ったが、それよりも何よりも、頭に手を置かれた瞬間に伝わってきた男の力が、常軌を逸していたことに驚愕したのだ。
(あれが、会長なのかよ……。覚悟はしていたが、ここにはマジで化け物がいる。今の一瞬で確信した)
少年は未だ震えの止まらない膝を無理矢理に動かし、自分の座席に向かった。
だが、身体の反応とは裏腹に、少年の瞳には怪しげな光が宿っていた。
(おもしろい……、おもしろい……! 代理の挨拶を任されたときは何故こんな辱めをと思ったが、あんな奴がいることを知れただけでも、十分に儲けもんだ。あいつは絶対に、狩る)
少年は、標的をとらえ喜ぶ狩人のように、口端を持ち上げた。




