3−5
「うむ、眼福眼福」
池の畔で、デッキチェア寝そべり、リラックスしていたマリアが満足げに呟いた。
視線の先では、四人の学生と一匹の猫が水辺で水をかけ合い、はしゃいでいた。
「ってぇ、補習はどうなったのよっ!」
しばらくはしゃいでいたが、急にキリエが叫んだ。
全員がその声にハッとなり、マリアに視線を送った。
「キリエくん、休憩も大事なことだよ」
マリアは見下したような顔で告げた。
その腹立たしい顔に、案の定、キリエはイラッとしているようだった。
「そうね、休憩は大事ね……。でも、既に二時間ぐらい経ってるわよ!」
そう、一対一の訓練が始まってからしばらくして、マリアがそれぞれの班を訪れ、指導をしていた。
だが、両班の指導を終えると、マリアは休憩だと告げ、全員をこの場に誘導した。
しばらくはめいめいゆったりとしていたのだが、いつまで経っても補習は再開されなかった。
痺れを切らしたあんなが水浴みを始めたのを皮切りに、全員参加の水遊びが始まっていたのだった。
「キリエくん」
先ほどまでのどこかはふざけた様子を引っ込めたマリアが、真剣な表情になってキリエを見つめた。
「な、なによ……」
あまりの真剣さにキリエは気圧され、一歩引いた。
「最初に言っただろう? 異能とは、命を使う技術だ。過剰に行使すれば、命を縮める」
キリエの背中に寒気が走った。
他の四人も、息を呑んでいる様子だった。
「君たちの実力では、まだあの時間が限界だ。ましてや、その前に私との戦いで全力を出してもらっているのだからね。とはいえ、確かに水遊びはそろそろ飽きただろう。仕方がないから、特別講義をしてやる。よく見ておきな」
そう言うと、マリアはデッキチェアを離れ、五人の前に歩み出た。
「これが、異能の戦いというものだよ」
そして、視線を横に向けると、凄まじい闘気を放った。
「なによ……、あれ……」
キリエが呟いた。
その視線の先には、おぞましい姿をした怪物が数体佇んでいた。
「アレが幻魔生物だ」
マリアは事もなげに告げた。
五人は戦慄し、突然現れた怪物を凝視した。
「アレが……? でも、なんで? ここは学園内でしょ? どうしてあんなのがここにいるのよ……?」
キリエが恐れ戦きながら言った。
「さあ、ここで講義だ。幻魔生物には発生源があることは知ってるよな?」
全員が首肯する。
マリアは五人を見ることなはなかったが、同意と判断して話を続けた。
「その発生源は、公にはされていない。その数も、その場所も。だが、この学園に通う、君たちには教えてあげよう。いずれは知ることになるのだから。まず、幻魔生物の発生源は、世界に数十カ所ある」
「まさか……」
キリエが呟いた。
マリアはにやりと笑って、話を続けた。
「そう、世界各地にあるこの学園。そここそが幻魔生物の発生源なのだよ」
全員が言葉を失った。
あまりの衝撃に、言葉を発することができなかった。
「発生源に学園を置くことで、確実に幻魔生物を処理する。この学園は、そのためにも設置されているのだよ。まあ、普段は我々講師と、学園生会が中心となってこれらの討伐に当たってるんだがな。しかし、今は……」
『テスト……、休み……』
「そう、今はテスト休み。学園生会の連中はもちろん、講師もほとんどはこの学園にいない。だが、先も言ったように、この学園は幻魔生物の発生源そのものだ。たとえ休みであっても、そんなものを無人で放置するわけにはいかない。そのため、休みの間は、我々講師陣が当番で管理と討伐に当たっているのだよ」
マリアは言い終えると、両手を幻魔生物に向けた。
「そして、今日の当番は、私だ」
言い終えるや否や、マリアの手の先から、幾つもの火の玉が飛び出した。
火の玉は瞬く間に幻魔生物向かって飛び、全ての個体に命中した。
刹那、凄まじい雄叫びが辺りにこだました。
「さあ、次なる特別講義だ。全員、決して目を離さずに、最後まで見届けろよっ」
そして、マリアは物凄い速度で幻魔生物との距離を詰めた。
次の瞬間、再びの雄叫びと共に、一体の幻魔生物が消滅した。




