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(いつまで待ってりゃいいのよ……)
少女はいらいらしながら、目を閉じてパイプ椅子に腰かけていた。
厳しい試験を突破し、名門と言われるここに入れたのはいいものの、初日である入学式から予定通りに始まらないという杜撰な運営に、うんざりとしていた。
(ここって、名ばかり有名で、本当は大したところじゃないのかしら? 式の開始は遅れるは、事情説明も大してないは、それに……)
少女は片目だけ開き、前方を見やった。
全員が期待と緊張と不安でざわめくのを無視して、最前列の中央の空間に意識を向けた。
(なんで猫が入り込んでるのに、学生はおろか、教員まで何の反応も示さないのよっ)
新入生がずらっと並んでパイプ椅子に腰かける中、その椅子にだけは猫が鎮座していた。
ちょこん、という形容が相応しい、可愛らしい様子で一等席を陣取っていた。
──ガガ、ピーッ。
まだ始まらないみたいだし、近くにいる教員に声でもかけようかと思った瞬間、マイクのスイッチが入った。
『大変長らくお待たせいたしました。準備が整いましたので、ただいまより入学式を執り行います。一同、起立!』
続けて発せられた指令に少女は慌てて立ち上がった。
そのまま、声をかけるタイミングを完全に逸してしまった。
猫は、未だ静かに、椅子から壇上を眺めていた。




