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「……疲れたわ」
机に顔を突っ伏したキリエがつぶやいた。
その隣には、同じように突っ伏したあんなの姿もあった。
『そりゃ、あんなに走り回ればね……』
何処か呆れたようなリオの声が響き、キリエは顔だけを猫に向けた。
「…………反省してるわ」
キリエの顔には疲労困憊の色が滲んでいた。
対して、その隣のあんなはすやすやと安らかな寝息を立てていた。
「で、でも、キリエさん、やっぱりすごいですよねっ。あんなに長い時間異能なしで追いかけ続けられるんですからっ」
ナナが、一生懸命な様子でキリエを励ました。
だが、キリエは逆に苦々しい顔になってしまった。
「私は異能の才がないから。異能が力不足な分、肉体的な向上を目指すしかなかったのよ」
「あ……、えっと……、その……」
ナナは自分の言葉が逆効果だったと気がつき、おろおろとするしかなかった。
『んー、それなんだけど……』
リオが何かを考えながら言い始めた。
ナナに視線を移していたキリエは、再び猫に視線を戻した。
「お、やってるようだな」
だが、その言葉の続きは、突然教室を訪れたマリアの声によって遮られた。
それぞれが挨拶をすると、マリアは片手だけを上げてそれに応えた。
「どうだい、調子は?」
マリアがキリエの様子を見てにやにやとしながら尋ねた。
キリエはイラッとしながらも、最早抵抗する元気はないようで、顔を机から起こすことなく答えた。
「見たらわかるでしょ、絶望的よ」
「くっくっくっ、そうかそうか。まあ、最後まで諦めずにがんばってくれたまえ。ほれ、そんながんばっている君たちに、これをやるから」
そう言うと、マリアは指をパチンと鳴らした。
すると、突然目の前に大きな袋が幾つも出現し、机の上へと静かに降りた。
ナナは、その一つを手に取り中身を確認すると、感嘆の声を漏らした。
「すごいっ、こんなにたくさんっ」
ナナの様子にようやく身体を起こしたキリエは、ナナが開く袋の中を覗き込んだ。
そこには大量の飲み物に、近所にある有名店舗のケーキにと、勉学に励む若者が喜びそうなものが詰め込まれていた。
他の袋にも同様に、様々な種類の飲み物やおやつが入っていた。
「え、どうしたのマリア、何の策略……?」
そして、驚いたようにマリアを見た。
流石のマリアも、その反応には苦笑いを浮かべるしかなかった。
「おいおい、これでも私は君たちの担当講師だぞ? がんばっている学生たちを応援するのも、仕事の一つだよ」
「さすが姉さんですぅ、こういうときは奮発してくれますねぇ」
いつの間にか起きていたあんなも、袋の中を覗いて大喜びしていた。
「あんた……、こういうときだけ……」
キリエは呆れた様子であんなを見ていたが、せっかくマリアが差し入れを持ってきてくれたのだし水は差すまいと、それ以上は言わないことにした。
「んじゃ、がんばってくれよ。諦めなければ、きっと……、いや、たぶん……、んー、もしかしたら、できないことはないかもしれないしな」
「どんどん自信がなくなってるじゃない……」
「まあ、とにかくがんばるんだぞ。じゃあな」
マリアは誤魔化すように言うと、そそくさと教室を後にした。
五人はマリアを礼を言いながら見送ると、複数の机をくっつけて即席のテーブルを作り、差し入れを広げた。
「これ、かなり高いやつよね? こっちは確か、数量限定のだし……」
マジマジと、差し入れられた物を見渡して、キリエは感嘆するように漏らした。
「姉さんは、こういうときだけは全力なんですぅ」
あんなは、まるで自分の自慢話のように、どこか得意げに言った。
ナナは目を輝かせて、どれから食べるか迷っているようだった。
無言のジンでさえ、どこか楽しげだった。
『とりあえず、休憩ってことで、頂いちゃおうか』
リオの言葉に、全員が首肯する。
そして、わいわいと騒ぎながら、おやつタイムがスタートした。




