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「し、失礼しますっ」
眼鏡をかけ、左右の髪をお団子にまとめた女学生が、学園生会室と札の下げられた部屋の扉を叩いて言った。
「……入れ」
少しして、中からドスの利いた男の声が聞こえてきた。
女学生は緊張した面もちで、学園生会室の戸を開いた。
女学生が足を踏み入れた部屋は、こじんまりとはしているものの、綺麗に片づけられた、応接間のような空間だった。
その奥にあった小さめのデスクに、窓の外を眺める男が腰かけていた。
男の髪は非常に長く、女性であっても不思議はないほどだったが、その体格の良さが女性であることを否定していた。
入ってきた女学生は、男の威圧感に一瞬息を呑んだものの、何とかデスクの前まで歩み寄り、抱えていた書類を机の上に置いた。
「た、頼まれていたもの、持ってきました」
男を恐れているのか、女学生の声は若干裏返っていた。
男はゆっくりと振り返り、鋭い視線で女学生を睨んだ。
女学生は叱られるのを怖がるかのように、ギュッと目をつむった。
そんな女学生を男はしばらく無言で睨んでいたが、少ししておもむろに書類を手に取った。
女学生は自分から男の視線が外れてホッとしたのか、一息吐いた。
「そ、それでは、し、失礼します」
そして、そそくさと学園生会室を出て行った。
男は女学生が逃げるように去った扉をチラと見ると、ため息を吐いた。
「まったく、君は本当に不器用ですねえ」
突如として、男の斜め後ろから声が聞こえた。
「……いつから見てやがった」
男が振り返ることなく尋ねると、いつの間にか背後に出現していた青年が、クツクツと笑いながら返答した。
「そうですね、副会長が書類を持ってきてくれたので礼を言おうと彼女を見つめていたら、まるで叱られる前の子どものように怯えてしまい、どうしたらいいのかわからなくなって、結局礼を告げることもなく書類に目を落としたところはしっかりと見ていましたね」
男はチッと舌打ちをした。
「ついでに言うと、副会長が来るまでに五分毎ぐらいのペースで深呼吸して、今度こそはきちんと礼を言うと心に決めて準備している姿も、しっかりと見ていました」
「全部見てやがんじゃねえか、このクソ理事長が」
男が苛立った声で言うと、理事長は腹を抱えながら楽しげに身体を奮わせた。
青年の反応に男はさらなる苛立ちを感じたが、相手にするだけ無駄だと悟り、書類のチェックに戻った。
「まあ、今年の入試は私が指揮を執りましたからね、有望な人材がいますよ。会長のお眼鏡に適う新入生がいましたら、是非とも、学園生会に入れてあげてくださいませ。たとえば、そう、君が恐れをなした、あの子とかね。きっと、学園生会も更なる発展を遂げることができると思いますよ……」
そう言うと、理事長の姿が薄れ始め、跡形もなく消え去った。
男は背もたれに身を預け、目元を抑えながらぼやいた。
「ふざけんじゃねえぞ……、あんな化け物ども、抱えられるか……」




