無人島生活4日目〜娘を泣かせる奴は…
よろしくお願いします。
ジャングルに入ってからおよそ30分が経ち、俺はもう体力の限界だった。
「ねーパパーおんぶしてー」
どうやらアンも走り疲れてくたくたらしい。9歳児の体力がそこまでだとすると、まだまだ若くて活力のある高校生『広瀬樹人』はいったいどんな体力を持っているのだろうか。俺はそう自問自答する。
「お、おう...ちょっと待ってろ」
だがやはり、ここでアンにかっこ悪いところを見せられない俺は曲げていた腰を一度正し、背伸びをした。(その時点でもはやかっこよくも無い)そして、一度曲げたら二度と伸ばせないような状態になっている足をたたみ、おんぶの恰好をした。
「よ、よしアン、準備出来たぞ。ほら乗れ」
「わーい」
「うっ」
勢いよく飛び乗ってきたアンの衝撃に足と胸が悲鳴を上げた。思わず声が出てしまったじゃないか。
「大丈夫?パパ」
「あ?ああ、大丈夫だよ」
俺は痛みの余韻を我慢してまで心配をかけまいとアンに微笑んだのが、当の本人は少しやりすぎたかな?みたいな顔していたので確信犯だった。ちょっと心に闇が宿った。
「さ、さあ行こーれっつごーだよ、ぱーぱ♥」
その最後のハートはよろしくないぞ、我が娘よ。だが、それがいい。
「つめが甘いところは直した方がいいぞ...まあ許すけど」
アンはえへへと微妙な笑みを浮かべ、少し反省する素振りを見せてすぐに元の調子に戻った。
「よし、じゃあ改めて行こうか」
「いこー」
俺は筋肉痛に確実に変わった足の痛みに耐え、重い腰をゆっくりと上げた。そして、険しくなりつつあるジャングルのうっそうとした道をさらに奥へと進んで行ったのだ。
そうして歩いて15分ほどたったところである事件が起きた。
「ア、アン?ちょ、ちょっと降りてくれるかな?」
「パパどうしたの?」
「来てる...いや、待ち伏せか」
万が一と思って発動しておいた『索敵』、なにかのラノベの忍者が使っていた半径百メートル以内に侵入した敵を探知する魔法がアラームを鳴らした。敵は正面に一、いやその後ろに十、百の反応が出ている。
「てき?てきなの?」
「ああ、数こそ少ないがこれは厄介だ」
アンは俺の背中からぴょんっと飛び降りる。
「やっかいって?」
「つまりだな、あれだけ今まで襲ってきていたというのに今さら待ち伏せを始めた。これは指揮を執っている何者かが実はいたという証拠だ。そして、その何者かが今俺たちの目の前にいる」
『索敵』に引っかかった一番前の奴がたぶんそうだろう。統率の技量がいかがなものか知らんが、昨日一昨日みたいにはいかないに違いない。
「アン達死なないよね?」
すると、アンが今にも泣きそうな顔でこっちを見てきた。
「死ぬわけないだろう俺がいる」
俺はまっすぐにアンの瞳を見つめた。
「アンには指一本触れさせやしない、心配するな」
「分かった、アン応援してるね」
「まかせて」
アンはまだやや不安そうな顔をしていたが、俺を信じてくれているのがその瞳から伝わってきた。
世界の敵。それは娘を不安にさせる奴のことだと誰かが言った。
アンは俺の子供ではないが、子を持つ親の気持ちというものがだんだん分かってきた気がする。
「娘を泣かせる奴は全員ぶっ殺す」
読んでくれてありがとうございます。