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始まる物語

「ただいまー……」

 おやつ時。

 和子は自宅にヘトヘトの状態で帰ってきた。自宅は一軒家で、周りには森が広がっていてとても静かなところに建てられている。

『ば、バイトっていわれても……無理ぃ……』

 それは先ほどあの喫茶店でスカウトされたことが理由でもある。

 確かに彼女の通っている高校は、バイトは許されてはいるもののそれはそれだ。自分の性格をよく知っている和子にとっては無理ゲーと豪語している。

『もうやだ……なんで私……?』

 何故隣にいたはずの風香をスカウトしなかったのかがわからなかった。彼女なら一発即採用でバリバリ働けるはずなのにあの店主は話をふらなかった。

 自分よりよほど才能があるではないかと何度も目で訴えたはずだがそれは残念ながら届いてはいなかった。

 むしろ風香自身も和子のバイトに賛成していたことにも疑問を感じずにはいられなかった。

『疲れたよぉ……』

「あ、ねーちゃん。おやつできてるよー」

 トボトボと廊下を歩いていたら前から四歳下の弟である和城(わたち)がやってきて、おやつの有りを姉に伝える。母親の趣味が料理で、たまにお菓子も作ることもある。

 しかし和子は今は食欲がなく、そのまま自分の部屋がある二階へと足を伸ばそうとしていた。

「いい……いらない」

「ふーん。今日はねーちゃんの好きな粒餡の大福なんだけどなー」

 うっ、と一言漏らしてしまうものの、しかし自分でも何故かはわからないがよくわからない意地が生まれ、そっぽを向く。

「後で食べる!」

「後っていつだよ」

 弟に飽きられるものの、今の自分を止めることができない和子は急ぎ足で自分な部屋へとむかった。

『…………ふぅ』

 部屋に入り、ようやく一息つくことができた和子。そして冷静に自分の部屋の一部に貼られてあるポスターを見てにこやかな表情を浮かべる。

「やっぱり可愛い……」

 それは所謂二次元の女の子が半裸で寝転んでいるポスターで、自分の中で嫁として扱っているキャラクターである。それを見ることが毎日の日課であり、義務行為になりつつもある。

「はぁ……リーゼちゃん可愛い……」

 元は黒髪でツインテールのはずだが、その絵では髪を下ろしており、若干乱れた姿として映っている。

 ちなみにこのポスターは家族には知られてしまったが、風香には一度も見せたことがない。

「…………はぁ」

 しかし、現実逃避も一瞬のもので、再びあの出来事を思い出してしまった。

「どうしよう……」

 一晩考えてきてほしい、とはあの店員に言われたものの、やはりいつ考えても自分がバイトをしている映像が見えない。

 確かに何度かは高校生になる前妄想したことがある。自分がテキパキと働いて色々な人に褒められることを。

 でも現実は違うことが当たり前だった。実を言うと面倒臭い気持ちが上回っている。

「…………はぁ」

 今日何度目かのため息をつく和子。一日に何度もため息をつくことに定評がある和子だが、今日は段違いだった。

 しかし、あることに気付いてしまった。

「…………リーゼちゃんみたいに喫茶店で働ける……?」

 原作ではリーゼは喫茶店で働いている存在で、その姿は凛々しくもあり可愛くもある。

 いつもリーゼと喫茶店で働いている妄想をしたりしている和子にとっては、確かに一理あることにも見えてきた。

 途端にあそこでバイトをすることに抵抗がなくなってきた。

「やっても……いいかな……?」

 他人から思えば如何に単純な理由であれども、バイトをすることに理由があるのかと思えてくる。

 そうとなればあとは実行するのみで、その前にまず親に話すことから始まるものだった。

「…………面倒臭い……」

 初めから挫けそうにする和子の姿はあまりに弱々しいものだった。



「か、川和和子です……よ、よろしくお願いします……」

「あぁ、よろしく。ワタシは空音時雨(そらねしぐれ)。なんと呼んでも構わないから」

「あ、えと……空音、さん……」

 翌日。

 半日授業の学校を終え、あの喫茶店に一人で和子は赴きバイトの申し込みをしていた。

 あの後、和子は親と相談をしたところ一発で承諾を得た。

 更に言えば母親は泣きながら自分の娘の成長を目の当たりにして、その嬉しさのあまり泣き止むことに一時間弱要した。

 一応父親にも言ったが、彼もまた喜びに満ちた顔で和子を抱きしめて嬉しさを表していた。そして夕飯は当初予定していたものよりもとても豪華なものへと変わっていた。

『そんなに私、あれだったのかな……』

 若干自分の存在意義を疑い始めたものの、言ってしまったからにはやるしかないと薄い腹を括ったのだ。

「あと一人バイトの子がいるから、仲良くしてやってくれ」

「ヴぇ!?」

 自分と同じ子がいることを全く考えていなかった和子は素直に驚いた。この店主と二人で喫茶店を営んでいくことをしていたため、その存在はイレギュラーそのものだった。

 その子は実は女の子で、和子の一つ年上で同じ高校とのことだが、今の和子の耳には全く入っていなかった。

『どどどどうしよう…………』

 再先が不安の中、和子はちゃんと無事にこのバイト生活を送れるのかわからなかった。





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