番外編9 ステラの冒険7
番外編9
なんか、みんな静かになっちゃった。
レイアねーちゃとシンにーちゃが怖いみたい。
んー。二人とも怖くないよ? 優しいよ? いっしょに遊んでくれるし、おかしくれるし、かくれんぼもしてくれるよ! いつもステラ、見つけてくれないけど。
それにね、今は二人とも怒ってるんじゃないよ。
怖がってるの。
わかりづらいけど、ステラはわかる。
なにが怖いのかな?
「さあ、てめえら四の五の言わねえでとっとと諦めろ!」
「そうだ。結果は既に決まりきっている。後はどれだけ酷い事になるかの度合いが問題なだけだからな」
「ちんたらするな! 早くしねえと許さねえぞ!」
「今なら命だけは保障しよう。だから、急げ」
二人が早口でガリガリさんたちに言う。
チラチラと周りを見てるけど、何かいるの?
近くにいるのは……虫とか動物とか、お魚さんだけだよ。うるさくしてたから離れちゃったけど。
後は……お馬さんに乗った男の人たちがいっぱい来てるけど、それだけ。
あ、後は赤いお星さま……。
「なあ!」
近く来てる!
大きくなってるの!
すっごく、すっごく、怖い感じがするの。
みんな、ぽかーんってなっちゃったままで気づいていないのかな。
「ん! ん!」
ガリガリさんのすねを蹴って、気づいてもらおうとしたんだけど、
「いてえっ!」
ガリガリさんはハッてなって、レイアねーちゃたちをにらんじゃった。
そっちじゃないのに……。
「ぶ、武王がどうしてこんな所に二人だけで来るんだ!?」
「んなの、ステラがここにいるって聞いたからに決まってるだろうが!」
レイアねーちゃが怒鳴り返す。
グルグル巻きだから、しっぽを振ってあげる。
「ステラ、怪我はねえな? かすり傷ひとつねえな? すぐに縄もほどいてやるからな? 頼むから大人しくしてくれよ?」
「ん」
ころころ転がるしかできないから、いいよ。
でも、お星さま……。
「武王を動かすガキ? なんなんだよ、こいつは……」
ガリガリさんが青い顔でつぶやいてる。
「ステラはステラだよ!」
「名前なんか聞いてねえ!」
違ったみたい。
シンにーちゃが代わりに答えてくれた。
「その子はステラ。第八始祖シズの三女だ」
「――っ、嘘を吐くなら……」
「オレたちの先生が誰かぐらいは知ってんだろ?」
レイアねーちゃとシンにーちゃはとーちゃの生徒なの。
デブさんたちが真っ青になっちゃった。
でも、ガリガリさんだけはやな感じに笑い出した。
「……だから、どうした! 第八始祖なんて持ち上げてるがなあ。あの無能のミシェルに振り回されたって話じゃねえか! おい、てめえら! ビビってんじゃねえ! これはむしろ最高のチャンスだろ! このガキを人質に使って始祖をやりゃあ、裏の世界の英雄になれるぜ! あいつのせいで妖精族を狩れなくなった恨みも晴らせるってもんじゃねえか!」
とーちゃの悪口? ステラ、怒るよ!
「お前ら、ガキを人質に――」
「させるかよ」
やな感じの人たちがステラをつかもうとしたら、それより早くシンにーちゃがドンって地面を踏んだ。
あ、下からくるよ。
何か見えないのが走ってきて、やな感じの人たちの下に来て、どーんってぶつかる。
地面といっしょに五人がパッカーンってなっちゃった。ひゅーんってお池に飛んでっちゃった。
「このっ!」
ガリガリさんがステラを捕まえようとしてくる。
あ、ナイフ、危ない!
かむよ! やな感じするから、ステラ、かむよ!
「ぬおおおおおっ!」
でも、先にアランおじいさんが、ガリガリさんに頭からぶつかっていった。
二人が上になったり下になったりゴロゴロしたけど、
「じ、じいいいいいいっ!」
「ぐっ!」
アランおじいさんが斬られちゃった!
お腹! お腹から血!
なめる! ステラがなめるよ!
あう。でも、動けないの……。アランおじいさん、痛そうなのに……。
「なあ! なあああ! なあああああああ!」
「泣くな、ステラ!」
レイアねーちゃがすっごい速くやってきてくれた。
ナイフを振ろうとしていたガリガリさんとアランおじいさんの間に入る。
ガリガリさんを叩いて、蹴って、ナイフが飛んでって、叩いて、叩いて、叩いて、ガリガリさんが浮いて、蹴って、蹴って、蹴って、もっと浮いて、かかとで蹴って、地面にぶつかったガリガリさんが返ってきたところを、最後におもいっきり蹴っ飛ばしちゃった。
ガリガリさん、お池にぽちゃん。
「ふう。子供に見せられるように手加減するのも面倒なのによ。手間かけさせんな」
レイアねーちゃ、強い!
あ、それよりアランおじいさん!
アランおじいさんの所にシンにーちゃが行ってて、魔法をかけてくれるみたい。
「アラン殿、怪我を見せてくれ。……深い傷ではないな。今、回復の魔法を」
「いえ、武王陛下のお手を煩わせるわけには……」
「今は何よりあの子を安心させる事を考えてくれ! 皆のために!」
だいじょうぶ?
だいじょうぶ?
痛い? ステラ、なめるよ?
「……感謝いたします」
「いや。我が国の事情に関らせた結果、危険に巻き込みすまなかった」
「それこそ、スレイアが原因であった事です。この謝罪は、後日必ずや」
だいじょうぶみたい。
良かった。
でも、レイアねーちゃはお池の方を見ていて、怖いお顔のまま。
「なあ?」
「……まずいぞ」
赤いお星さま。
すごい大きくなってる。
もうそこまで来てるよ。
あ、ガリガリさんがお池をよろよろ泳いでる。
向こう側に行くのかな?
「ガリガリさん、あっち!」
「あ? ああ、気絶しとけば良かったのによ」
レイアねーちゃは溜め息して、ガリガリさんじゃなくて赤いお星さまを見てる。
これ……お星さまじゃない!
怖いのがいっぱいでわからなかったけど、よーく知ってる感じ!
「伏せろ!」
「ここに! 『封絶界――積鎧陣』!」
レイアねーちゃに押し倒されちゃった。
シンにーちゃがアランおじいさんを下にして、ステラたちといっしょに魔法の壁を作ってくれる。
それでね、お池に赤い星が落ちたの。
「なああああああああああああああああああああああああああああああ!」
お池のお水がドッパーーーーーーーンってなって、お水がぜーんぶお空に上がって、雨みたいに降ってきちゃった。
雨の向こうだけど、ステラわかるよ。
お池のお水がなくなっちゃったの。
あ、ガリガリさんたちもいっしょに吹き飛んじゃったみたい。
あ、一人で逃げようとしてたデブさんもゴロゴロ転がってる。
ああ! お魚! お魚が落ちてる!
「ああ! くそうっ! 間に合わなかったじゃねえか! どうすんだよ、シン! オレ、ステラ連れて帰っていい?」
「レイア、ステラを連れている限り無駄だ。そして、ステラがここにいる以上、俺たちの国に無関係とはいかない」
「だよなあ! ちくしょう!」
二人、ケンカしてるの?
ダメ。仲良くするのって、言おうとしたら、来た。
すっごく、すっごく、すっごく怖いの。
ステラが知っているけど、知らないぐらい怖いの。
お水のなくなったお池の底から、跳んできた。
まっかに光っていて、
赤くて大きな剣を持っていて、
金色の光がたくさん浮いていて、
龍さんと、鳥さんと、亀さんと、虎さんを連れていて、
ちょっとどこを見てるかわからない感じの目をしたとうちゃ。
「すううううううううううううううううううううううううううううううううううううううてえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええらあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
ほえた!
とうちゃがほえた!
まわりがビリビリってして、空気がパーンってして、デブさんとガリガリさんたちがあっちこっちに飛んで行って、ぶつかった。
怖い!
怖い!怖い!怖い!
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ!!
「第八始祖、様……なのか?」
「ん。とうちゃ、だけど、怖いの!」
足の間に来ちゃうしっぽをにぎって、ガタガタふるえちゃう。
おこってる! とうちゃがおこってる!
「マジで理性、飛んでるじゃねえか!」
「リゼルの言った通りだ。ステラがいなくなってから飲まず食わずで庭先に立ち続けている間におかしくなったらしいが」
レイアねーちゃとシンにーちゃが真剣な目でとーちゃを見てる。
「止めるぞ、シンっ!」
「俺が先に行く。レイアは隙を見つけて一撃入れてくれ」
「……わかった。必ずしとめるからな!」
「任せた。俺の命、無駄にしてくれるなよ?」
「シン、愛してるぜ」
「俺もだ」
二人とも赤く光り出した。
左からシンにーちゃが飛び出して、右からレイアねーちゃが回り込んでいく。
シンにーちゃが走るたびに、さっきのと同じのが地面を伝ってとうちゃに向かっていった。いっしょに色んな魔法も使っていて、土がどんどんなくなっていっちゃう。
「嫁の尻の恨みいいいっ!」
「もらったあああっ!」
シンにーちゃがとーちゃに斬りかかって、反対からレイアねーちゃが上と下をいっしょに狙ったの。
けど、ダメ。
なんか、ひゅってして、ドゴンって鳴って、二人とも飛んでちゃった。
赤く光ったまま、頭から地面に刺さっちゃって動かない。なんか、ぴくぴくしてる。
あ、とーちゃと目が合った。
またたきしたら、来てた。
赤い壁の目の前に。
静かにステラを見てる。
「があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
壁が引き裂かれちゃった!
ラスボス=シズ、フルバーストver
ステラのピンチに反応して空間転移したけど、理性が吹っ飛んでいたせいでお空の上に出ちゃったみたいですね。