番外編8 ステラの冒険6
お待たせしました。
ようやく一段落? まだまだやる事はありますが、忘れられないうちに更新を。
番外編8
アランおじいさんのおうちから飛び出した。
あ、これも持ってっとこ。
それとね。
そっと、そーっと、近づくの。
こういう時は隠れなさいって、かあちゃが言ってたから。
でも、急ぐの。
音がしないように、気づかれないように、まわりといっしょになって、アランおじいさんとやな感じの人がいる所に近づく。
音が聞こえた。
やな感じの人が大きい声で怒鳴ってて、いっしょにアランおじいさんを棒で叩いてる。ふかー!
たくさん叩いてる。五人、替わりばんこになって叩いてる。ふかー!
近くにデブさんとすごいやな感じの人がいる。ふしゃー!
草といっしょになって隠れて、お池のまわりに来たら見えた。
笑ってる。
頭を抱えてうずくまってるアランおじいさんを、七人のやな感じの人が笑ってる。
「なああああああああああ!」
アランおじいさんいじめちゃダメ!
ステラ、怒ったよ!
すごい怒ったよ!
声を上げたらやな感じな人たちがこっちを見た。
だけど、見つからないもん。
隠れるのおじょうずだもん!
ほら。やな感じの人たちがきょろきょろしてる。
すぐそばにいるステラに気付いてない。
だから、持って来た釣り竿でメッてする。
釣りの時みたいにヒュンってさせて、手と足をぺしん、ぺしんって。
「っつう!? おい、俺を殴るんじゃねえよ! 誰だ!」
「いてえ! イチャモンつけんな、俺じゃねえよ!」
「おい。じじいに説教するだけで何を遊んで……あぐ! なんだ!? いきなり叩かれたぞ、今! ここに何がいるんだ!?」
「さっきから何を言ってんだよ、お前ら。何もねえのに騒ぎやがって……ったあ!? は? 誰もいなかったぞ! 誰だ! ふざけてんじゃねえよ!」
「いてえ! いてえ! 見えねえのに! 音もしねえのに! なんかが俺を、いてえっ!」
怒ったよ! 怒ったよ! 怒ったよ! 怒ったよ! 怒ったよ!
ぺしん! ぺしん! ぺしん! ぺしん! ぺしん!
アランおじいさんを叩くのをやめるまで、隠れて何度も釣り竿で叩く。
棒を振り回してあぶないけど、よけちゃうからへいき。
あ、他の人にぶつかっちゃって、ケンカし始めちゃった。
なあ!
ケンカもダメ!
ぺしん! ぺしん!
「騒ぐんじゃねえ!」
なあ!
大きくて怖い声!
デブさんといっしょの一番やな感じの人が怒ってる。
なんかね。背が高いけど、細っぽくて、ガリガリ。
お名前知らないから、ガリガリさん。
ガリガリさんがにらんだら、ケンカし始めた人たちも静かになった。
あ、今ならアランおじいさん、助けられるかも!
そっとアランおじいさんの所に行こうとしたけど、その前にガリガリさんが行っちゃった。アランおじいさんのお洋服を乱暴につかんで、むりやり起こしちゃった。
「おい、デベラゼル! 猫妖精の亜人がいるっつうたな」
「ふぁ、ひゃい! といっても小さい女の子でしたが……」
「動物系の妖精なら気配の種族特性持ちだな。隠れてるんだろ、ガキ! 出てきやがれ!」
なあ。ばれちゃった。
でも、隠れてるからへいき。
すぐ前にいるけど、気づいてない。
てい!
「ぐっ!?」
ぺしんってしたら、釣り竿が折れちゃった。
アランおじいさん、ごめんなしゃい。
折れちゃった竿を地面に置いて、ぺこりとする。
「その竿は……まさか」
「マジで見えねえな……。出てこねえと、このじじいを殺すぞ!」
「ステラ! いるなら構わん! そのまま村に逃げろ! そして……」
「黙れ!」
「ぬぐうっ!」
アランおじいさん、ぶたれた!
ぐったりして、息が苦しそう……。
大変。大変。大変なの!
「早くしろ! 出てこねえなら、すぐに……」
「ん!」
「うおおおお!?」
隠れるのやめたら、驚いてる。
言う通りにしたのに……。
「め、目の前に、いたのか? お、驚かせやがって! おい! こいつも縛っておけ。ガキだが上玉だ。高く売れるぞ」
「……やめぬか。貴様らが用のあるのは儂であろう」
「はん。知るかよ。デベラゼルが儲け話があると言うからブランまで来てやったつうのに、寄付金集めなんぞやらせやがって」
なあ……。
ヒモでグルグル巻きにされちゃった。動けない。でも、隠れられるよ?
「っと、おい! どこ行きやがった!? 消えるな! 消えたらじじいを殺すぞ!」
「なあ……」
「ひっ!? ……動いてもいねえ、だと? ……信じられねえ。こんな亜人、見たことねえぞ」
隠れるのもダメみたい。
ガリガリさんがすごいやな感じに笑い始めた。
「これ程ならマジで高く売れるな。スレイアの馬鹿貴族の間で妖精族の価値が跳ね上がってるからな」
「おお、おい。そんなのぼくは知らないからな! 奴隷売買なんて、そんな危ない橋を渡れるか!」
「はん。はなから頼んでもねえよ。副業だ、副業。まあ、元々は生業だったんだがな。ここ数年、監視が厳しくて仕事にならなかったんだ。こいつを売ればしばらく遊んで暮らせるぞ、てめえら!」
うるさい。
あと、すっごいやな感じ。
こんな人たち、見たくないからお空を見るの。
お星さまがキラキラしてて……あれ? あんな赤いお星さま、あったっけ?
遠くのお星さまが気になったけど、なんだろ? なんか、すごい、怖い?
「それより、ぼくの仕事はどうするんだ!」
「まあ、小銭稼ぎにはなるしな。それぐらい付き合ってやる」
あ、アランおじいさんを蹴っちゃダメ!
コロコロ転がって、アランおじいさんの前に入る。
「ふかー!」
「うるせえ。躾んぞ、ガキ!」
お顔の前が蹴られる。
そんなの怖くないもん!
あ、砂。砂が目に入っちゃった。
「なあー! なあー!」
「おい、お前。押さえておけ! 大事な商品だ、傷はつけんなよ!」
「うっす」
「残りはじじいをしめろ。おい、いい勉強になったな、じじい? 余計な事に首つっこむと、こういう目に遭うんだよ?」
「……デベラゼル」
アランおじいさんが怖い顔してる。
じいっとデブさんを見てて、デブさんは怖がってた。
「じじい、無視してんじゃねえよ!」
ガリガリさんが怒鳴るけど、アランおじいさんはデブさんだけ見てる。
真剣な目で、ガリガリさんは黙っちゃった。
「デベラゼル、悪行も小悪党で済む内に捕まえればと思ったが、既に引き返せんぞ?」
「な、何を。ぼくはただ始祖様の偉業を讃える人たちをまとめただけで」
「それを始祖様は望んでおらん。第一、その許可は取ってあるのか? ブラン王国に無断で働けば、ただでは済まんぞ」
「無論です。ここに許可証もある!」
なんか、綺麗な字の紙を出してる。
アランおじいさんはそれを見て、溜息を吐いた。
「偽造するならば、せめて筆跡の研究ぐらいせぬか。今の武王たちとは字の癖が違いすぎておる」
「い、言いがかりを! ここに! ここに書いてあるだろ! 『武王 レイア・ブラン・ガルズ』と!」
レイアねえちゃ?
違うよ? それ、レイアねえちゃの感じしないもん。
アランおじいさんはまた溜め息をしてる。
「武王が署名するならば、今は二人の武王が連名で書く。今代の武王は双武王。二人いるのだぞ? 武王の対等を崩すような真似はせんよ。そもそも、このような開発関連の証明書における署名ならば精々が文官の長まで。武王の許可は署名ではなく、押印程度であろう。勉強が足りんな」
「い、いい加減な事を言うな! たかが隠居爺がそんな事を知っているわけないだろ!」
「……儂に家名を名乗らせれば、いよいよ終わりだぞ?」
あ、デブさんがまっさお。
すごいふるえてて、お肉がぶるぶるしてる。
変なおひげもしょぼんってなった。
「き、貴族、さま?」
「既に当主は引退したが、貴様らの首を飛ばすなんぞわけはない。今すぐにその子を解放し、罪を償うというならば死罪だけは免れるよう取り図ろう」
「嘘だ。はったりを……」
「愚か者め。先代ガンドール家当主、アラン・ガンドール。スレイア王国の生まれの商人であるならば、この顔を一度は見た事があるのではないか?」
デブさんが黙っちゃった。
「大方、スレイアで事業に失敗し、己を知らぬ場所で再起の資金稼ぎを図ろうとしたというところか。ブランならばまだ発展の途上。スレイアでは使い古された詐欺もばれぬとふんだのだろうがな。ブランを甘く見過ぎだ。儂に湖の開発調査の傍ら、不自然な集団の調査を依頼しておる。既に貴様らの行いはヴェル殿に伝達を送った。直に兵が来るだろう」
アランおじいさん、かっこいい。
強くないけど、強いの。
「おい。デベラゼル、どういう事だ?」
ガリガリさんが怖い顔でデブさんをにらんでる。
「知らない! ぼくは知らない! こんな所に貴族様がいるはずが!」
「貴族が絡んでるなんぞ、聞いてねえ。どう、落とし前つけるんだ?」
「知らないって言っているだろ!? そうだ、アラン様を殴ったのはお前らだ! ぼくは脅されていただけなんだ!」
「てめえぇ……!」
デブさんとガリガリさんがケンカしちゃってる。
うるさいの、や。
ステラ、お星さまの方が気になるの。
あのね。赤いの、おっきくなってるよ? 不思議。
「ぎぃあああああああっ!」
デブさんが叫んだ。
転んじゃったのかなって思ったけど、違うみたい。
肩を斬られてて、そこを押さえてちょっとずつ下がってる。
ガリガリさんがナイフで斬ったんだ!
「痛い痛い、痛いいいい!?」
「仕方ねえな? こうなりゃあ、デベラゼル。てめえに全部持ってってもらうしかねえだろ?」
「ひいっ!? ぼくは、ぼくは雇い主だぞ!」
「知るかよ。じじいは殺して、てめえも殺す。ガキはすぐに売って、とんずらだ。このくそでけえ湖に沈めりゃあ見つかるまで時間もかかるだろ。その間に隠れちまえば、こっちのもんだ」
アランおじいさんがガリガリさんを静かに見てる。
「正気か?」
「こうなりゃあ、いけるところまでいくだけだ。どうせ貴族の口約束なんぞ信じられねえんだよ!」
すごいすごい、やな感じ。
でも、たぶん、だいじょうぶ。
だって、知ってる感じのが近づいてくるから。
遠くから、すごい速く。こっちに向かってやってくるの。
「なああああああああああああああん!」
だから、呼ぶの。
ほら、来たよ!
遠く、村の方から、お馬さんがやってきた。
お馬さんの上の人、知ってる。
なつかしくて、明るい感じ。
お馬さんから飛び降りて、ざーって、地面を滑って、ビシッて指差してくる。
「手前らか、俺の国で好き放題しやがったのは! 覚悟しやがれ!」
ちょっと長くなった銀髪の女王様。
「武王、レイア・ブラン・ガルズが来たぜ!」
「俺たち、だろ。レイア」
もう一人。普通に馬を走らせてやってきた人も知っている。
濃い灰色の髪の王様は逃げようとしてた人たちの前で、馬から降りて剣を抜いた。
辺りをさっと見て、ため息をついてる。どうしたの? 元気ない?
「……武王、シン・ブラン・ガルズだ。貴様ら、すぐに投降しろ。お互いのためにもな」
双武王
武王戦の決勝で半日戦い続け、勝負がつかずに引き分けた結果。
シンが観衆の前で告白し、レイアがそれを承諾した事で、異例ながらも史上初の二人の武王が誕生した。
ちなみに、シンは入り婿。武王だけどちょっと肩身が狭い。