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番外編7 ステラの冒険5

 番外編7


 夜。


 わらのおふとんでねてると、アランおじいさんがお家から出ていっちゃって、目が覚めた。

 待ってみたけど、戻ってこないの。


「なあ……」


 ステラは暗くてもちゃんと見えるけど、アランおじいさんはだいじょうぶかな?

 転んじゃってるのかも。

 痛くて立てないのかも。

 そうだったら、たいへん。


 今日はたくさんお昼寝したから眠くないし、見に行ってもいいよね?

 ステラ、悪い子だから行ってもいいよね?

 夜は一人でお外行っちゃダメだけど、いいよね?


 そうっとお家を出る。

 とっても静かで、色んな虫が色んな音を出してた。でも、お耳をすますとちゃんと誰のどんな音なのかわかるから、だいじょうぶ。

 アランおじいさん、大きなお池に行ってるみたい。




「ん」

「ぬおおおっ!?」


 ぼうっとしてたアランおじいさんの背中に飛びつく。

 アランおじいさんはあわてて後ろをみて、目が合った。


「……ああ、ステラか」

「なあ」

「驚かせるでない」


 ほっと息を吐いてた。

 びっくりさせちゃったみたい。ごめんなしゃい。


「ステラと違い儂らは鈍い。理由なく気配を消すな」

「ん。でも、隠れないと見つかっちゃうの」

「見つかる? 誰にだ」

「とうちゃとかあちゃとねえちゃたち」

「そんな人間がどこに……いや、やはり、しかし、まさか……」


 アランおじいさん、お悩み中?

 しばらく、ぶつぶつ言ってたけど、座り込んじゃった。疲れちゃったのかな?

 背中から降りて、おひざの上に乗っかるの。


「ふむ。これはぬくいな。……すまん。心配させたか」

「ん」


 なでてくれたからいいよ。

 アランおじいさん、なでるの、本当にお上手。


「なぁ」


 お池、きれい……。

 えっとね、お空のお星さまがキラキラしててね。お池にもお星さまがあってね。どっちもキラキラで、つながってるみたいで、お星さまが川みたいに浮かんでるの。

 ステラ、知ってる。


「あれ、ステラ!」


 お星さまを指差して、アランおじいさんに教えてあげる。


「? どれがステラなのだ?」

「お星さま! ずっと遠いところで、ステラって言うんだって! とうちゃが言ってた!」

「古語か、どこかの種族独特の言葉か? 聞いた事がないが」


 お星さまみたいにキラキラってきれいに、明るい子だって言ってた。


「そうか。しかし、こんな遅い時間に子供が一人で外に出るものじゃない。確かにステラは悪い子だ」

「なあ。ごめんなしゃい」

「ここで素直に謝れるのだからな」


 アランおじいさんは小さく笑ってる。

 なにがおもしろいんだろう? 悪い事したらごめんなさいするのっておかしい?


「いや、極めて正しい。おかしい事など何もない。だが、大人にもなるとそれが素直にできん者もおるのだ。昼のデベラゼル然り、儂然り、な」

「デブさん? アランおじいさん?」

「デブ!? ふっ。さすがにそれは酷いな。的を射てはいるが」


 でも、あの太っちょの人のお名前難しいの。


「そうか。ちゃんと言えるようになるまでは声に出さないようにしなさい」

「ん」

「それで……そう。謝れない事だったか。間違っているとわかっていても、最早引き返せる道もなく、謝罪すればこれまで踏み躙ったものさえ冒涜するようでな。結局、儂は『すまなかった』の一言が言えなかった。彼にも。そして、友にも」


 アランおじいさんはお池を見てる。

 でも、きっと本当に見ているのはずっと向こう。

 たぶん、そのあやまりたい人。


「儂には友がいたのだ」


 なつかしそうにつぶやく。


「家の関係で知り合い、幼少期を共に過ごし、やがて親友となった。しかし、儂は友の臣下で、友は主だった。やがて、友ではなく臣下として仕える事になったが、それは構わなかった。互いの気持ちなどは儂と友だけが知っていればいいからな。臣下としてではなく、友として支えているのだと」


 ゆっくりとステラの背中をなでながら、アランおじいさんは昔のことをお話してくれる。


「だが、段々と儂らは心が離れてしまったのだ。何せ友は優しい人間でな。儂のやり方は見るに堪えんかったのだろう。しかし、友の仕事は甘いものではなく、その重責に耐えるには友は優しすぎた。ならば、儂が友の重荷を背負うしかあるまい。元より儂の家はそのために千年以上続いたのだから。為すべきを為す事に迷いはなかった。奸臣どもから友を守るため戦い続けた。非道と呼ばれようとも、多くの者を巻き込もうとも、恨みを買おうとも。たとえ、主にさえ疎まれようとも、嫌悪されようとも。これは友のためになるのだと信じて」


 怖いお顔だけど怖くない。

 でも、今はすごい、つらそう。


「だがな。儂の尽力など意味がなかったのだ。あの日、彼が全てを薙ぎ払った日。儂は己の無力さを痛感したよ。儂が半生を掛けても叶わなかった事をほんの一時で成し遂げてしまったのだ。奸臣は失せ、敵国は去り、多くの問題が瞬く間に解決された」


 大きく溜息をつくアランおじいさん。ステラの頭を熱いのがなでていった。


「その時、悟ったのだ。最早、儂がこれ以上友の傍にいるのは害悪でしかない、と。これからは彼のような若者たちの時代なのだ、と。その上、彼は儂の指示のせいで何度も辛い思いをしたのだ。直接ではないが、彼が師を失った遠因は儂にもある。儂の顔など見たくもあるまいよ。ならば、疾く早く老害は去らねばならない。何より、友のために」


 そして、儂は家を捨て、ただの釣り人となったのだ。

 最後につぶやいて、お空を見上げた。


 ステラ、難しいのはわかんない。

 でも、アランおじいさん、苦しいのはわかるの。

 えっと、しっぽさわってもいいよ?

 アランおじいさんのお手手にしっぽをまいて、くいくいってやってみる。あんまりしっぽはさわっちゃダメだけど、特別だよ。


「大丈夫だ。心配いらん。とうに割り切っておるし、諦めてもおる。すまん。愚痴を聞かせてしまった」


 アランおじいさん、笑ってる。

 でも、泣いてるの。

 笑ってるけど、がまんしてるの。

 ステラ、わかるよ。


「ダメ。あやまる」

「ダメと言われてもな。言ったであろう。儂にはその資格がないのだ」

「シカクってわかんないけど、ダメ!」


 しっぽといっしょに手をにぎる。

 じっと見上げると、アランおじいさんは笑うのをやめた。


「ちゃんとしよ?」

「だが……」

「ん!」


 ぎゅってにぎる。

 ぎゅうって、気持ちが伝わるように、にぎりしめる。


「……確かに儂は未練に思っている。こうして他国の調査に協力するのも政に未練があるためであろう。ブランが豊かになれば、スレイアの負担は減る。直接ではなくても、友の力になれるのではないかと、な」

「なら、あやまる! あやまって、いっしょにいるの! 仲良しはいっしょがいいの!」


 そう。

 いっしょがいいの。

 みんな、いっしょがいいの。

 遠くに行っちゃ、やなの。

 悲しいの。さびしいの。つらいの。


 わかってほしいの。


「……そうだな。せめて、謝罪はせねば筋が通らんか。許される資格はないが、罵倒される義務はある。よし。この仕事が終わったらスレイアに戻ろう」


 あ、アランおじいさんが笑った。

 今までと違って、本当に嬉しそうに笑っている。

 ん。いいお顔。ぜんぜん怖くないよ。


「ステラは優しいな。いい子だ」


 なでなでされると気持ちよくて、いい子でいいって思っちゃうけど、でも、ダメ。本当はダメ。

 ステラは悪い子。


「ん。でも、悪い子なの。ステラだけ、みんなといっしょじゃないの。みんなをこまらせちゃった。だから、とうちゃも、ステラ、いらないみたい」


 迎えに来てくれないとうちゃ。

 泣きそうになって、鳴きそうになって、がまんしてたら、アランおじいさんが優しくなでてくれた。


「ふむ。こんなにも優しいステラをいらぬとは、やはり、けしからん父親だ。ステラの父親が見つかったら儂が一喝してやらねば」

「なあ。とうちゃ、悪くない! 悪いの、ステラ!」

「いや、娘の家出に一日過ぎても現れんなど許せん」


 あ、アランおじいさんが元気になった。

 でも、とうちゃを怒っちゃダメ。

 えっと、他のこと、他のこと、ええっと……あ!


「ししょー! ししょーのこと、教えて!」

「師匠? 師匠とは……?」

「お昼! 言ってた! 始祖様! ししょー!」

「もしや、第八始祖の師――第七始祖か? 構わんが……」


 アランおじいさんのおひざの上で正座して見上げて、ちゃんと聞く準備できたよ。


「さて、第七始祖といえば合成魔法の始祖にして、唯一の人族以外の始祖だ。かつては樹妖精レグルスという名か、或いは『青の絶望』や『虐殺樹海』……いや、物騒なふたつ名はまだ早いか。ともかく、そのように呼ばれていた」

「ん」


 アランおじいさんのお話は難しいけど、ステラがんばって聞くからね!




 ちょっとうとうとしちゃった。

 でも、ちゃんと最後まで聞いた。

 とうちゃのししょーのこと。

 昔、どんなことがあったか。


 難しくて、わかんないのもたくさんだったけど、わかった。


「まだステラには早かったかもしれんな」

「ん。でも、教えてくれて、ありがとうございます!」


 お礼はちゃんとするんだよ。

 ちゃんとできたから頭をなでてくれた。きもちいい。


「そうか。ならば、そろそろ帰って寝なさい。子供が夜更かしするものではない」

「ん。アランおじいさんは?」

「儂はもう少しだけここで考え事をしたい。先に戻りなさい。一人で戻れるか?」

「ん」


 お星さまがキラキラだし、お耳も聞こえるからだいじょうぶ。

 アランおじいさんに手を振って、ステラはおうちに戻って、おふとんに入る。

 いっぱい考えたから眠くて、すぐに丸くなっちゃった。


 明日になったら、またお魚を釣ろう。

 アランおじいさんといっしょに食べよう。

 そして……


「なあ!?」


 飛び起きた。


 お池の周り!

 たくさん人がいて、アランおじいさんが叩かれてる!


「アランおじいさん!」

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