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番外編6 ステラの冒険4

 番外編6


 やな感じな人たちが怒ってる。

 色んな人。男の人、女の人。ソレイユねえちゃぐらいの人、とうちゃぐらいの人、じいちゃぐらいの人、セズじいちゃぐらいの人。えっと、ひとつ、ふたつ、みっつ……二十人ぐらいいる。


 怒鳴ってる声が大きいからお耳を伏せて近づくと、アランおじいさんが『来るな』って呟いたのが聞こえた。

 だから、村のおじさんといっしょに待つ。

 やな感じの人たちは怒ってて、ステラたちには気づかないみたい。

 村のおじさんも難しいお顔をして、溜息を吐いてた。


「あれ、なあに?」

「ああ。たぶん、始祖崇拝者だね、あれは。村に居座って困っているんだよ。まったく、今日の件もどこから聞きつけてくるのか」


 始祖? とうちゃ? とうちゃ、いないよ?

 とうちゃ、来てくれない……。

 やっぱり、ステラが悪い子になっちゃったから?

 家出するステラなんていらないの?


「なぁ……」


 とうちゃを思い出して泣きそうになる。


「え? どうしたんだい、お嬢ちゃん? いきなり泣き出さないでよ。あの人たちが怖いのかい? それともどっか痛いのかい? 疲れちゃった?」

「ん。へーき。ステラ、悪い子だから、泣かない」

「いや、どんな理屈なのかな、それ……」


 いいの! 泣かないの! 悪い子なの!

 でも、おじさんが困ってるから、悲しいのはがまんして、お話の続きを教えてもらう。


「すーはいしゃって、なあに?」

「あー、あの人たちの事? そうだなあ。始祖様ってわかる?」

「ん」


 とうちゃとか、昔の人たちのことだよね。

 ししょーさんはそうだけど、そうじゃないってよくわからないし、あまり教えてくれないけど、偉い人!


「この世界を救ってくれたお方たちだからね。尊敬……すごいって思ってる人がいっぱいいてね。えっと、そう、褒めたい人がいるんだよ」


 とうちゃ、ほめられてるの? でも、アランおじいさん、怒られてるよ?

 どうして?


「お嬢ちゃんにはまだわからないかもなあ。気持ちがいき過ぎると、ああなっちゃう事があるんだよ」


 ほめたいのに、怒るの?

 ステラ、わからない。


「じゃあ、ちょっと例えてみようか。お嬢ちゃんはお魚が好きだよね」

「ん。おいしい」

「でも、お魚が嫌いな人もいるんだ。そんな人から『魚はダメだ』って言われたら、どう?」

「……悲しい」


 お魚、おいしいのに。


「うん。お嬢ちゃんは知らないかもしれないけど、中にはお魚を見るのも嫌だって人がいるんだ。その人がお魚を捨てたら、どう?」

「すごく、悲しい」

「お嬢ちゃんはいい子だなあ」


 おじさんがなでてくれた。

 ん。もっとなでてもいいよ? 耳のあたりとか、おすすめ。


 おじさんはステラをなでながら、あっちを見ている。


「お嬢ちゃんみたいに悲しいで終わらせられる人もいるけど、中にはああやって怒ってしまう人もいるんだよ」

「ステラ、よくわからない」


 自分がやだなって思うことは、他の人にしちゃダメってとうちゃ言ってた。

 ステラ、怒鳴られたらお耳がふせってしちゃうし、しっぽがきゅってなるから、そんなことしないよ?


「お嬢ちゃんはわからないままでいいのかもね。少し話はずれたけど、あの人たちが怒ってるのはそういう事なんだよ」

「どうして?」

「この湖が大切な場所だから、かな」


 湖……おっきなお池! 

 大切? とうちゃ、関係ないよ?


「知らなかったかい? この湖はシズ湖と言ってね。かつて第八始祖シズ様と竜王ルインの戦いで生まれた場所なんだよ」


 しっぽがボンってなった。

 この大きなお池、とうちゃがつくったの!? すごい!

 お名前、シズ湖! すごい!


「そんな場所だから、ここは聖域だって言い出す人がいてね。ほら、一番前にいる恰幅のいい男の人。わかる?」


 せーいき? かっぷく? えっと、男の人はわかるよ。なんかね、すごいやな感じ。

 他の人はレイアねえちゃとか、シンにいちゃみたいに日焼けしてるけど、その人は白っぽい感じなの。

 あと、ふっくら。お肉、いっぱい。おひげ、おもしろい。


「あの人が中心になって、周りを盛り上げているんだ。スレイア国の商人みたいなんだけど、うちの国の連中は単純だからなあ。あっ!」


 おじさんが大きい声を出してびっくりした。でも、それよりもっとびっくりしてお耳としっぽがぴんとなった。

 アランおじいさん、転んでる! あの人に押されたんだ!


「なあ!」


 気づいてたら走ってた。

 おじさんが止めようとしたけど、捕まる前に行ってしまう。

 やな感じの人たちの間をスルスルって抜けて、転んじゃったアランおじいさんを揺する。


「アランおじいさん! だいじょうぶ? 痛い? なめる?」

「来てしまったか。大丈夫だ。痛くない。なめるという選択肢は今後相手を選びなさい」


 よかった。ケガしてないみたい。


 ステラ、怒ったよ!

 怒っても痛いことしたらダメなんだから!

 周りで色々言ってる人たちに両手を挙げて、しっぽをぴくぴく動かして、怒る。


「ふかー! ふかー! ふかー!」

「落ち着きなさい。言葉になっていないぞ」


 あ、アランおじいさんに持ち上げられちゃった。

 肩の上に置かれてしまって、しっかりつかまれてて動けない。

 ざんねん。やな感じの人たち、あわててたのに。


「まったく。大げさに転んで同情でも引くつもりですか?」


 一番やな感じの人が、やな感じに笑いながら、やな感じに言ってきた。

 怒りたいけど、アランおじいさんが背中をポンポンして、なでてくれたからがまんしてあげる。


「デベラゼル。君のような体格の者に、儂のような老体が押されればどうなるか、想像もつかんのかね? そのような想像力では商売などうまくいかんだろう」

「ぼくの商売は関係ないだろ!」


 や! 急に大きい声、ダメ!


 太っちょの人――デベラべぇりゅ? デベラ、デベりゃゼ……デブさんはお顔を真っ赤にしている。

 デブさんはフーフー言ってたけど、すぐにまたやな感じに笑った。


「とにかく! ここにはぼくたちが神殿を建てる計画なんだ。勝手に村を作るなんて以ての外だし、聖なるシズ湖で釣りなんてとんでもない。そうだろ、みんな!」


 ちょっと大人しくしてた人たちがまたさわぎだした。

 だから、うるさいの、ダメ! お耳が痛くなるの!


「ふかー!」


 しっぽがたしーんってなった。

 あ、かあちゃみたい。


「ん?」


 あれ、静かになったよ。

 さわいでた人たち、こっちを見てひそひそしてるの。どうしたんだろ? でも、うるさくないのはうれしい。


 アランおじいさんも、デブさんも、驚いている。


「どうしたんです? 不埒者の不義を糾弾しなくては!」

「いや、デベラゼルさんよ。そりゃ、ダメだ。見ろよ」


 近くにいた立派な体のお兄さんがステラの事を指差してきた。

 なあに?


「聖槍リエナ様と同じ猫妖精の亜人の子だよ」

「ん」


 そうだよ。

 手を振ったら、嬉しそうに振り返してくれた。ん。ちょっとやな感じだったけど、そんなに悪くなくなったかも。


「……それが?」


 デブさんが割り込んできたから終わり。

 手を振るのはやめて、アランおじいさんにしがみつくと、がっかりした感じの溜息がたくさんした。


「だからよ。シズ様が愛している猫妖精は大事にしねえといけねえよ」

「ああ。猫耳としっぽを疎かにするなど、ばちが当たる」

「それにリエナ様と同じ黒髪よ」

「拝んでおけ。ご利益があるかもしれん」

「かわええなあ……」


 やな感じじゃなくなったけど……変な感じ?

 ちょっと、気持ち悪い。

 だから、アランおじいさんの背中に隠れちゃうの。


「馬鹿な。ただの猫妖精の亜人に……」

「ただの? デベラゼル。どうも君の信仰は薄いような気がするが……」

「何を言うかと思えば。ぼくは始祖様にお会いした事もあるのですよ? あの人ほど強く、気高く、神々しい方はいらっしゃいません。お会いした事もない人とは違うのです」


 デブさん、自慢してる。

 お鼻がぴくぴくしてた。周りに人はうらやましそう。

 変なの。村の人、とうちゃに会ってもそんなこと言わないのに。


 アランおじいさんが遠くを見ながらつぶやいた。


「そうだろうか。昔、儂も彼と会った事はあるがな。確かに強いだろう。しかし、気高いとも神々しいとも思わなかった。あの時の彼はまだ少年であったが、亡き師匠の復讐を果たそうと、そして、悲劇を再び起こさぬよう必死で戦っているだけに見えたがな」


 アランおじいさん、とうちゃ知ってるの?

 ししょーさんのお話も知ってるの?


 ししょーさんのお話、とうちゃもかあちゃもあまりしないの。でも、すごい大切な気持ちだってわかるの。

 とうちゃのししょーさんがいなくなっちゃった時、どうしたんだろう? こんなに悲しい気持ちなのに、とうちゃはどうしたんだろう?


 アランおじいさんは悲しそうな顔をしてる。

 苦そうな感じで、思い出してるみたい。


「し、知ったような口を!」

「どちらがかな?」


 デブさんが叫んでも、静かに聞き返すアランおじいさん。

 段々、気持ち悪い人たちもデブさんを変な目で見始めた。

 それに気づいたみたいで、デブさんはこまってるみたい。


「いいでしょう! 今日はここまでです! その魚は我々が管理を……!」

「なぁ……」


 ステラのお魚、もってちゃうの?

 悲しくて、つらくて、泣きそうになっちゃう。

 そしたら、気持ち悪い人たちがデブさんをじっと見つめだした。


「ぐっ、今日のところは! 今日のところは見逃しますが、次はありませんよ! 行きましょう、皆さん! 今日は特別に第八始祖様がテナートで戦った際のお話を教えてあげますよ!」


 デブさんが早足で歩き出すと、他の人もついていっちゃった。

 ステラに手を振ってきたから、ちょっと気持ち悪かったけど、しっぽを振ってあげたら喜んでた。


 デブさんたちが見えなくなったら、アランおじいさんが座り込んじゃった。

 背中から下りて、お顔を見上げる。やっぱり怖い顔。


「アランおじいさん?」

「大丈夫。少し疲れただけだ。心配いらん。それより、面倒に巻き込んでしまったか。すまんな」

「んーん。いい。ステラも来ちゃダメだったのに、来ちゃってごめんなしゃい」

「まあ、それは結果的に助かったがな。やはり、周りの連中は問題ないようだ」

「?」


 ぶつぶつ言ってたけど、気にするなって言われたから気にしないの。

 村のおじさんが一人で台車を引っ張って来てくれた。あ、お手伝い途中にしちゃってごめんなさい。


「お嬢ちゃん、お爺さん、大丈夫ですか?」

「ああ。君か。そうだったな。台車を持ってきてくれたか。ご苦労だったな」


 アランおじいさんがなでてくれた。

 なぁ、なでるのお上手。


「よし。記録も終わっている。今日は戻ろう。魚は村の者にも振る舞ってやってくれ」

「はい。けど、あの人たちもいますが」

「騒ぐのはデベラゼルだけだろう。それも周囲の賛同がないならば害にもならん。気にせず食べてくれ。どの道、このままでは捨てるしかなくなる」

「お魚を捨てちゃダメ!」

「……だそうだ」

「わかりました。では、遠慮なく」


 やっとごはんだよ!

 ステラ、お腹すいた!




 焼いて食べたヌシはとってもおいしかったです!

 お腹がいっぱいでうごけなくなっちゃったから、ステラはアランおじいさんのおうちの屋根の上でお昼寝します!

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