番外編5 ステラの冒険3
番外編5
「アランおじいさん、手伝う!」
ステラは悪い子だけどお手伝いするよ。
昨日はアランおじいさんが借りてるってお家でご飯を食べて、久しぶりにお布団で寝たの。家出してからずっと木の上とかだったから、おふとん気持ち良かった。
それに朝ごはんもくれたの。
「お礼! 手伝う!」
「家出娘が……」
アランおじいさんは溜息を吐いてる。
「しかし、村には親もいないとはな。近くは首都しかないはずだが、村と言っていたのはこの子の勘違いか? 他の村など歩きでは数日かかるはずだが」
アランおじいさん、一人でぶつぶつ言ってる。
昨日、ステラがご飯食べてる時に村の人とお話してからずっと。どうしたんだろう?
「以前より減ったとはいえ魔物もいる。この小さな娘が一人で来れるはずが……家出というのは違うのか? 旅の家族が何者かに襲われ、この子を逃がすために親が方便を使ったという可能性は? いや、それにしてはこの娘に悲壮感がなさすぎるか」
「アランおじいさん?」
「ああ。こっちの話だ。それで、儂を手伝うと?」
「ん!」
お洋服の袖を引っ張るとやっと気づいてくれた。
「それはこれの事か?」
「なあ」
持っていた釣り竿を見てるからうなずく。
アランおじいさんが昨日の大きなお池に行くっていうから、ついていくの。
「まあ。何かわかるまではしばらくは儂が保護せねばな。首都で調べるのも時間が掛かるだろう。……ふむ。では、手伝ってもらうか」
「なあ!」
やった。お魚、たくさん捕まえるよ!
昨日のお魚もおいしかった。
「じゃあ、儂の予備の竿を使ってみるか」
「知ってる! これ棒とヒモ! お魚、とれる!」
アランおじいさんが持って来た棒をつかんで、ばんざいする。
そしたら、ヒモが取れて顔にかかっちゃった。いやって暴れるとどんどん絡まって、そしたらしっぽがチクッてして、誰かがひっぱりだしたの。
「なあ! 痛い! 痛い痛い痛い! だれ!? ステラのしっぽ、だれ!?」
グルグル回るけど、誰もいなくて、しっぽは痛くて、泣きそうになっちゃう。
「こら。暴れるな。しっぽに針が刺さったのか」
アランおじいさんがステラのしっぽを捕まえたら、すぐに痛いのなくなっちゃった。
ほっとしてたら、アランおじいさんがいつもより怖い顔してて、お耳としっぽがしゅーんとした。
「ごめん、なしゃい」
「……まったく。いいか? 釣り竿に限らず、どんな場所にも子供にとっては危険な物はある。よく知らない物を勝手に触るな。痛いのは嫌だろう」
「ん」
「よし。では、ひとつずつ教えていこう。しっかり覚えなさい」
「ん!」
反省。とうちゃにも言われてたのに。
アランおじいさんはいっぱい教えてくれたから、もうだいじょうぶだよ。
「では、今日はこの辺りにするか。ステラ、準備はしてあるから使いなさい。先程の注意は覚えているか?」
「ん」
昨日、アランおじいさんと会った場所まで来た。村からすごい歩いた場所。
大きなお池は静かで、だあれもいない。
色々とついた棒――釣り竿って言うんだって――をもらって、今度はちゃんと持ってるからへいき。
習ったとおりに竿から出た糸を下のかごに置いていって、できたら糸のさきっちょを竿の先に通して、重りをつけて、針をつけて……できた!
いつでもだいじょうぶだよ。
アランおじいさんはステラができるまで待っててくれて、できてるってうなずいてくれた。
「ステラ、魚はとても臆病だ。儂らに気付くと逃げてしまう」
「ん」
「隠れてしまうと当然、釣れない。だから、気づかれないようにせねばならない」
「ん。隠れる?」
ステラ、隠れるのうまいよ?
まわりのね、いろんなのに、そっとあわせるの。でも、ちょっとずつ変わるから、ばれちゃうんだけど、変わったらまたそれに合わせればいいんだよ?
「……? ん? 何か今、ステラが見えなくなったような気がしたが……儂も耄碌したか? やはり、あれ以上迷惑をかける前に引退して正解だったか」
アランおじいさんが目をこすってる。
あ、アランおじいさんも見えなくなっちゃったみたい。反省。でも、ちゃんと隠れててないと、かあちゃに見つかっちゃうから、少し隠れたままなの。
「まあ、隠れるまではしなくてもいい。だが、できるだけ静かに、魚から見つからない位置にいるように。つまり、水辺に近すぎないこの辺りから釣り針を投げ込む必要がある」
「ん」
「だが、魚がいるのは湖の深い場所だ。つまり、かなり遠くまで投げねば、釣り針は魚に気付いてもらえない。少し離れていなさい」
アランおじいさんが竿を持って、横向きのばんざいってして、右手を押しながら左手を引っ張ると、竿がぐってなって、ひゅーんって重りが飛んでっちゃった。
お池にちゃぽんって音がして、小さく水が揺れてる。
「つまり、こうだ? わかるか? 昨日の棒で少し練習をしてから」
「ん」
アランおじいさんのまねー。
えっとね、だいじなのは押し方と引き方のタイミングだと思うの。
ステラの重りがひゅーーーんって飛んでいって、ちゃぽんって音がした。
「儂よりも飛ばすとは……」
ダメだった?
アランおじいさん、しょんぼり?
「なあ?」
「いや、気にするな。才ある若者が多い事は喜ばしい限りだ。老害が出しゃばらんでよいからな」
なんか、難しい顔になっちゃった。
やなことあったの? 悲しそう? つらい? 背中、なでる?
「ん」
「ああ。そうだったな。まだまだ覚えねばならない事は多い。次は……」
元に戻った。
いいのかな? だいじょうぶかな? しんぱい。
でも、アランおじいさんは教えてくれるから、ちゃんと覚えないと。お魚、とれない。
「なー!」
アランおじいさんといっしょにお魚釣り。
最初はダメだったけど、がんばったらお魚とれたよ!
おっきいのも、小さいのも、いっぱい!
「しかし、反則じゃないか、この子は?」
アランおじいさん、どうしたの? いっぱいだよ! お魚! 食べる! ステラ、食べるよ! お魚だよ!
しっぽがピーンってなっちゃう!
「まさか、魚の居場所が本当にわかるとは。それならいくらでも魚も釣れよう」
「ん! お池、お魚いっぱい!」
「そうだな。この湖は出来てから年月は経っておらんが、近くの山から川が流れ込むようになってから魚が住みついている。とある理由でまだ開発も進んでいないため、外敵が少ない環境で増えているだろう」
難しいのはわかんない。
けど、お魚が多いのはしあわせ。
「これ! 食べる!」
「ううむ」
一番、おおっきなお魚の回りをグルグルとおどる。
えっとね、ステラより大きいお魚!
アランおじいさんと同じぐらい。
これってね、ヌシっていうんだって。ステラがとったの!
糸がぐーって引っ張られて、ずるずるーってお池に入っちゃいそうになったけど、アランおじいさんが手伝ってくれたからとれたよ!
大変だったけど、がんばったよ!
『なあー!』
『ぬう! 儂とて若くは騎士の一員として鍛えたのだ! 魚如きに負けるなどあってなるものかあ!!』
って、がんばったの!
最後はね、アランおじいさんが池の外まで引っ張ったんだよ。力持ちだよね!
「この樹妖精の里から取り寄せた竹で作った竿が折れるとは。特注の糸が切れなかっただけ良かったとみるべきか」
あ、ステラの釣り竿、折れちゃった。
「……ごめんなしゃい」
「いや、構わん。これだけの大物を釣る代償として見合っているからな。代わりの竿もまだある。しかし、どうしたものか。台車がなくては運べんな」
あ、そうだった。
ヌシもだけど、他のお魚ももうかごに入りきらなくなってる。
ステラとアランおじいさんだけじゃ、いっぱい行って帰ってってしないと。
「……ぜんぶ、ここで食べる?」
「それは欲張りすぎだ、ステラ。儂らだけでは食いきれん。村の者たちにも分けよう。すまないが、村の者を呼んできてくれ。湖の周りならば魔物もいない。ステラ一人でも大丈夫だろう」
残念。
でも、しあわせはみんなもいっしょだと、もっとしあわせ。
アランおじいさんは紙の束を出して、何か書き始めた。
「なあに? それ?」
「これか? 実はここで釣りをするのは頼まれごとでもあるのだ。何が、どれほど釣れるのか記録している。尤も、ステラがいるならばわざわざ釣る必要はないかもしれないが」
「ううん! お魚、釣る!」
「そうか。猫妖精の血が騒ぐか。しかし、ほどほどにせねば獲り尽くしてしまうぞ」
お魚がかわいそう?
……おいしいのに。
でも、食べれないぐらいいっぱいはダメだって、とうちゃも言ってた。前にお魚をバッシャーンってした時、かあちゃに怒られてたし。
「ん。わかった」
「良い子だ」
アランおじいさんがなでてくれた。なあ~。ステラ、悪い子だけど、なでてもらうの気持ちいから、良い子でいいよ?
「そろそろ行きなさい。戻ってくる頃には記録も終わっているだろう」
「ん。いってきます」
「急がんでよいから、気を付けて行きなさい」
「なあ」
でも、はやくお魚食べたいから、びゅんって走っちゃった。
「ん。早く、早く」
「お嬢ちゃん、元気だねえ」
「お魚、食べる」
「ああ。お腹がすいてるんだね」
村の人といっしょに台車を押して、急いで戻る。
ごはん。ごはん。ごはんって、歌っていると、
「出て行けえっ!」
「あの方は全てご覧だ!」
「神罰を恐れよ!」
「恥を知れ!」
「神域を汚すな!」
やな感じの声が聞こえた。
近づくと、アランおじいさんがやな感じの人たちに囲まれて、怖い顔をしていた。