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番外編4 ステラの冒険2

本編に掲載していた物を移設しました。

 番外編4


「なー!」


 ステラは怒ってるの!

 じいちゃがいなくなっちゃって、すごいやな感じで、しっぽがしょぼんってしてたのに、今度はソレイユねえちゃまでいなくなっちゃうって言うんだもん!

 とうちゃも、かあちゃも、ルナねえちゃも、ダメ! どうして!? こんなに悲しいのに! 行っちゃやだって、なんで言わないの? わかんない!


 いつもいっしょなのに! ねえちゃたちもステラと違うみたいだし……。


「なー!」


 とん、とん、とーん。


 だから、思いっきり走るの。

 やな感じのするとこはよけて、原っぱを、土ばかりの所を、木の間を、木の上を、おっきな山を、ぴょんぴょんと飛び跳ねて、ずっと走ってると少しだけいい感じになった。

 でも、やっぱり胸の奥で、やな感じが残ってて、消えてくれない。


「なあああああ!」


 とうちゃが迎えに来て、あやまるまで絶対に帰らないんだから!




 走って、走って、走って。

 夜から朝になって、朝がお昼になって、昼が夜になって。

 走って、食べて、走って、お昼寝して、食べて、走って、眠って、食べて、走って、チョウチョを追いけて、食べて、お昼寝して、バッタを捕まえて、食べて、眠って、食べて、原っぱでゴロゴロして、お昼寝して……。


 大きなお池の近くでお昼寝をしてたけど、もうやめて、思い切りのびーっとする。


「なー……」


 でも、あまり気持ちよくない。

 耳としっぽもしゅんと垂れちゃうの。


 もう三日も家出してるのにとうちゃは来てくれない……。

 もしかして、とうちゃ怒ったのかな。

 ステラのこと、嫌いになっちゃたのかな。

 家出する悪い子なんて、もうとうちゃの子供じゃないのかな。


 お家のある方をじーっと見るけど、誰も追いかけてきてくれない。

 さびしくて、悲しくて、胸がきゅーってしちゃって、泣いちゃいそうになるけど、思い切り鳴き声を上げる。


「なー!」


 いいもん! じゃあ、ステラ、悪い子になるもん!

 家出もするし、勝手におやつも食べるし、お勉強しないし、遊ぶし、えっと、あと、ええっと、あ、お手伝いも! お手伝いもしないの! あ、でも、かあちゃのしっぽがたしーんっていうから、それはダメ! お手伝いはするの!

 むふー。ステラ、悪い子だ。


 でも、どうしよう。

 ソレイユねえちゃから(無許可で)借りた筆はあるけど、紙とインクがなくなっちゃった。速く走るの、もうできない。

 それに、お家から(勝手に)持って来たパンもお肉もなくなっちゃった。


「なぁ」


 くー


 鳴き声といっしょにお腹も鳴った。

 今日のお昼はおいしそうな果物がついてる木を見つけて食べたけど、このおっきなお池の近くにはない。


「なー!」


 でも、だいじょうぶ!

 ステラ、わかるんだよ! このお池にたくさんお魚いるの! じゅる、おいしそう……。


 えっと、村の人が川でお魚をとるとき、どうしてたっけ?

 なんか、棒に、糸をつけて、川に入れたら、とれてたよね。

 棒はあるの。木が一杯のとこに落ちてたから。これ、杖って言うんだよね! とうちゃとソレイユねえちゃとおそろいなの! これを使お!


「なー」


 けど、糸がない……。

 棒でお池を叩いてみるけど、近くにいたお魚が離れちゃったからやめる。


 耳をすますと、ちょっと離れたとこに人がいて、糸のくっついた棒を持ってるから、あの人もたぶんお魚をとろうとしてるみたい。

 お願いしたら、糸くれるかな? でも、知らない人。やな感じじゃないけど、なんだかお顔が怖くて、ちょっとやだ。


 もうちょっと、ステラだけでがんばろ。


 うーんと、あ、これならどうだろう?

 お池の近くにお尻を近づけて、しっぽをお水に入れてみる。


「なー! なー!」


 冷たい。しっぽがぐっしょりする。

 でも、がまんして、しっぽをふりふり。


 ふりふり。

 ふりふりふり。

 バシャバシャ。


「なぁ……」


 ダメだった。

 お魚がまた遠くに行っちゃった。


 くー、とまたお腹が鳴って、しっぽもびしょびしょで、がっかりしちゃう。


「な!」


 思い出す。

 今みたいに川の近くでとうちゃと遊んでいた時、お腹がすいちゃったとき、とうちゃがお魚をとってくれたの。

 赤く光って、強い強いになって、お水をバッシャーンって叩いたら、お水がぐわーってなって、びしょびしょになっちゃったけど、お魚がいっぱいとれたの!


「なあ!」


 パンツの他のお洋服をぬいで、ソレイユねえちゃの筆もいっしょにして、あ、たたまないと悪い子になっちゃうから、ちゃんとたたんで……できたー。うー、寒い。

 でも、がまん!


 ステラは、とうちゃみたいにできないけど、お水をばしゃーってしたらいいんだよね?

 おっきなお池から少し離れて、おもいっきり走るの! 走るの! それでね、いっぱい飛ぶのー!


「なああああああああっ!」


 お水の上に向かって、ぴょんってした。


 手を頭の上に伸ばして、ピーンと足も伸ばして、ついでに耳としっぽもピンと立てて、ひゅーんって飛んで、飛んで……。

 たくさん飛んでいい気分で。


 そして、ばっしゃーん! じゃなくて、ビタン! って水面にぶつかった。


 なあ! 痛い! お顔もお胸もお腹もヒリヒリするの!

 あぶ! あれ!? お水! お水が耳に入っちゃう!

 えっと、お水が! お水飲んじゃった! や! 苦しい!


 バタバタ手を動かしても、お水の下に落ちていっちゃう。

 胸が苦しくて、色々と痛くて、息ができなくて、泣きそうになって、目をぎゅってした。


 なー……。




「あ、なんか来た! 異界原書! 今なら居場所がわかりそう! っていうか、ステラ無事でいてくれよ!?」




 なあ?


 なんか、まっくらになりそうになったら、ぐいいって引っ張られた。

 暗いのが、どんどん明るくなって、ばしゃんってお水のお外に出れたの!


「娘、無事か!?」




 どこかの村で父親が慌てながらも異界原書を手にしようとするが、そうしている内に再び直感が働かなくなってしまった。


「遅かった……」


 膝をついた父親は絶望すると同時に、娘が危機から脱しただろう事にも安堵する。

 そして、決意した。


「……いいさ。こうなったらずっと異界原書を構えて、精神集中してやる。少しでも感じ取ったら、一瞬で発動してやる……」


 切羽詰まったせいか爛々と目を輝かせ、彼は家の庭に立ち続けるのだった。




「なぁっ! こほっ! なあぁ……」


 でも、お水が気持ち悪くて、げほっげほってして、泣いちゃいそうなのをがまんしてたら、知らないおじいさんがステラを運んでくれたの。

 お池から上がって、まだゴホゴホしてたら、タオルをかけてくれてね、パッパッて用意して、たき火をつけてくれたの!


 ステラはたき火の近くであったまって、やっと苦しいのもなくなって、お洋服を着れた。なぁ、パンツ、ぐしょぐしょ。


「な?」


 助けてくれたおじいさんを見る。


「落ち着いたか」


 おじいさんはぬれたズボンを見て溜め息をしてたけど、ステラのことをじろりって見てきた。やっぱり、お顔が怖いの。

 でも、たぶん、いい人。


「まったく、こんな所で子供が一人でいるから何事かと思えば、いきなり身投げとは何を考えているのだ、最近の若い者は」

「なー。お魚、とろうとしたの」

「……まだ春というのも早いこの時期に?」


 お水、冷たかった。しっぱい。

 お魚も逃げちゃって、とれなかった。


「しかし、猫妖精の亜人の子か? 親は? 家族はどうした?」

「……知らない! ステラ、帰らない!」

「家出か。あの村にこんな子がいたとは思わんが……」

「ステラ、あっちから来たの!」


 お家の方を指差す。

 えっと、たくさん大きな人がいて、乱暴だけど、でも、元気で明るい感じの人がいる場所の、ずっーと向こう。

 おじいさんはそちらを見て、不思議そうだけど、うなずいてた。


「ブラン首都からか? やはり、村の子じゃないのか」

「ステラ、村の子だよ?」

「? 儂の知らん間に移住した家でもあったか。まったく、こんな小さな子供が家出しているのに、けしからん親だ」

「とうちゃもかあちゃも、けしからくないもん!」


 ふかーって怒る。

 おじいさんはまた溜め息をしてた。


「喧嘩しとるんじゃないのか?」

「うん! ステラ、悪い子になるの!」

「……ステラは悪い子にはなれんと思うぞ?」


 やれやれ、っておじいさんが立って、手を出してくる。


「ともかく、しっかり体を温めんと風邪をひく。来なさい」

「ん。でも、ステラ、家出してるから」

「わかった、わかった。ステラの家には秘密だ。それでいいか?」

「でも、知らない人についていっちゃダメって、とうちゃが言ってた」

「はあ。あー、ステラは悪い子なのだろう? ならば、親の言う事は聞かないものではないのか?」

「あ! ん、ついてく!」


 どうしたんだろう。おじいさん、また溜め息。

 どこか苦しい? 背中、なでる? ん、なでなで。


「ほら、いくぞ。少し歩くが、大丈夫か?」

「ん。歩く!」


 のびーってしてお返事したら、くーってお腹が鳴った。


「ついたら、温かいものでも出そう」

「ん! ん! ん!」


 ごはん、やたー!

 おじいさんの手をにぎって、ステラはついてくことにした。


 少し歩いたところで、おじいさんが見下ろしてくる。怖い顔だけど、もう怖くないよ。


「ステラか。心なしか、どこかで見た事があるような……。いや、誰かに似ている、のか? 猫妖精の亜人、といえば……いや、まさかな。家から離れて十年。知らんことが増えすぎたか。」


 ぶつぶつ言っているおじいさん。それで、おじいさんのお名前を知らないって気づいた。


「なぁ? おじいさん、お名前なあに?」

「儂か? 儂はアラン。昔は少し有名な家の主であったが。今は隠居して、釣りが趣味の老いぼれよ」

「アランおじいさん! ステラ、覚えた!」

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