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愚者の魔法陣  作者: 狛月
8/10

異常 1-5

誠に勝手ながら一時期の間、話をクローズさせていただきます。申し訳ございません。

「『スエッラ』『ヒムン』『ランザ』『ウォート』『リュヌルンス』『テイッラ』『マイマ』『ムアイツェ』『レーベルザンダ』『グロームン』『フォビュラ』『イグザンディ』」



 閉ざされた牢獄で一人の少女が歌っていた。しかし、歌にしてはやけに語句の一つ一つが誰かにささやくような想いが込められている。

 小鳥が囀さえずるように微かに響く旋律は、弱々しいものだが、愉悦に浸った少女の横顔は狂喜のそれだ。

 ボロ切れ同然の白い服を擦り、両足に繋がれた鎖を忌々しくその虚ろな瞳で一瞥して、興味を無くしたように銀の髪を撫でる。

 少女は弱々しく、だけどどこか幸せそうに――狂い壊れた人形のように呪曲を紡ぐ。




『今宵も私は歌います。貴方のために身を削り、どうか届きますようにと祈りながら。


 でも今宵は違います。貴方は来るべき世界へと帰ってきた。

 また威光を掲げ、惨めで醜い私を救いに来てくださいます。


 勇敢で哀れな勇者様。

 この歌が聞こえますか?


 聞こえるなら答えて欲しい。

 貴方の目に映る世界は綺麗ですか?

 貴方の横に寄り添える人はいますか?

 貴方に必要な存在はいますか?


 私だけ――私だけ――


 それは世界の運命でしょう。――貴方はきっと私のもとへと来ます。

 迷って嘆き苦しんで折れそうになるでしょう。――それでもきっと貴方は私のもとへと来ます。


 緋竜が業火で焦土にしても、蒼竜が津波を呼び寄せて大陸を沈めても、翠竜が大地に亀裂を走らせ大陸を分断させても、銀竜が世界を銀に染め上げ人々を駆逐しても、金竜が世界から輝きを奪って阿鼻叫喚を作っても、――貴方は私のもとに来ます。

 私だけの勇者様。私だけの――私だけの――。』




 壊れたように、狂ったように、少女は歌う。

 華奢な少女に似つかわしくない血と鉄の匂いがする牢獄の中で、狂気に呑まれた少女はただただそこであり続ける。

 千年・・前から彼女の心は一人の男性に向いている。

 光を照らし、勇猛果敢に悲劇を喜劇に変えてくれた英雄。

 ――嗚呼、嗚呼。

 声にならない歓喜の嗚咽が漏れると同時に少女を光が包み、やがて数秒の後に晴れる。

 少女ではなく一人の女性に変わったその姿は、艶かしく色気を纏った聖女の姿をしていた。

 布切れでは隠しきれなかったその肢体は少女の面影も形もなく、あるのは鎖によって出来た傷の数々。

 その背に、二対の銀翼があった。

 四枚羽根。まさしく彼女は――天使だった。


「勇者様ぁ。惑わされないでね?私はここですよぉ、うふふ」


 艶のある声音で一人呟く。

 頬を朱に染め歓喜に震える彼女。

 やがて、虚空を見上げ、


「―――みぃーつけたぁ」


 虚空を眺めるその紫紺の双眸は、やがて俺・を見てニタァ、と笑った。

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