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カフェの彼女

作者: Kazuya2009

 店内に流れるソフトジャズが気持ちを落ち着かせる。

 いつからか仕事帰りの日課にこうしてカフェでコーヒーを飲み読書をするのが、俺の一つの楽しみになっていた。

 最初はそう単純にカフェで一日の疲れを癒すようにふらりと立ち寄ったのが始まりだ。

 気が付けば毎日来るようになっていた。

 最近は更に一つの楽しみがある。


 店内のドア鈴がなる。

 俺が視線を入口に向けると、ダークグレイのスーツに身を纏ったロングヘアーの女性が入ってきた。

 彼女と視線が合うと、お互い軽い会釈と笑顔を返す。

 たったこれだけの関係だ。

 彼女と言葉を交わしたのは一度だけ。

 トレイを戻す時に狭い店内で彼女が通れるように道をちょっと譲った時に「すみません」、「いいえ」と言葉を交わしただけだ。

 それからは度々見かけてはこうして会釈と笑顔を交わす関係になった。

 別に彼女と相席になる事や、一緒にコーヒーを飲むこともない。

 彼女も自分の注文を終えると相席することなく別の席に着く。

 ただ席は近くお互い席を立つのが分かるよう位置にいる。

 俺が帰るか彼女が帰る時に、やはり笑顔と会釈を交わすだけだった。


 彼女がどんな女性か、付き合っている人がいるのか、どんな仕事をしているのか何て分からない。

 彼女が綺麗か可愛いかと聞かれれば、普通だとは思う。

 まだ歳は二十代だろう。若いなと思う印象だ。

 抜群にスタイルが良いわけでもない、特別惹きつける何かがある訳でもない。

 だが彼女は俺の中で心の清涼剤になっている。

 彼女を一目見るだけで十分だった。

 一日の終わりにこうした楽しみがあるのも良いものだと思う。


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