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ゼリーノイドの独奏

作者: 麻々 翠庵


今日の給食にはゼリーが出る。



先月、帰りの会で先生から配られた献立表にはそう書いてあった。

給食に期待する子などあまりいないし、私も特段気にかけないが、今日は別、特別なのだ。

私はこの日のために、ある作戦を思い立った。


名は、ゼリー強奪作戦。


目的は、隣のクラスのゼリーを全て手に入れること。

この日のために、私は給食委員会に所属していた。スパイってやつだ。

給食委員は3時間目の休み時間に、給食センターから運ばれてくる給食を給食室に運搬・保管する手伝いをする。

今日の当番は私だ。だから、できる。

いつもは退屈な算数の授業も、道徳の授業も、今日はゼリーのためのエッセンス。

図画工作では、粘土でゼリーを作って先生に褒められた。


そして、鐘は鳴る。


さぁ、仕事だ。



私は足早に一階の給食室へと向かう。

一年生がキャーキャーと喚いている廊下には、すでに今日の給食の香りが広がっている。

もちろん、ゼリーの香りも。


給食室には、すでに運搬車から給食の入った鋼鉄製の配給用ボックスが学年分降ろされていた。

この中に、お宝が眠っている。


「じゃあ、けい君は純子先生と3階まで運んでね」


「委細承知」


「よろしくね、けい君」


私は薄く笑う。

純子先生は警戒心が薄いので、楽に任務をこなせそうだ。

我々は配給用ボックスとともに、エレベーターに入る。

時間は15秒が良いところ。

扉が閉まるその瞬間、私はすかさず配給用ボックスに体当たりをし、反対側に立つ純子先生を押し潰した。


「ぐへぇぇ」


純子先生は頭部を強く揺さぶられ脳震盪を起こしている。

今だ。

配給用ボックスの正面に立ち、64桁のパスコードの入力作業に取り掛かる。

今は3時間目の休み時間だから、11時12分37秒、今月は7月なのでこの数字をOWO方程式に代入し、今日は木曜日のためLLR係数で解く。


1234567890123456789012345678901234567890123456789012345678901234


ガシュン


「……解けた」


さぁ、ご開帳。

ゼリーが、視界いっぱいに広がる。

透明なビニール袋に、一口で全部平らげてしまいそうな程度のゼリーが、生徒数分。

背筋を這い上がってくる、興奮、感動。

3年3組のみんな、悪かったな。このゼリーはいただく。

演技じみたセリフを心の中で呟き、袋のひとつを解き放つ。





3階の給食室には別の先生が待っていた。


「あひ、はふ、あれ、もう3階に着いてる?」

「純子先生、なんか具合悪そうでしたよ」

「え、うーん、そうなのかなぁ。ん、なんか甘い匂いがする?」

「今日はゼリーが付いてきますから」

「あ、今日はゼリーが付いてくるのかぁ。けい君は詳しいね」


純子先生が目を覚ましたときには、全て決着がついていた。

4時間目の授業を終えたときにこの事実が発覚するが、しかし誰も私が犯人だとは思うまい。


お腹の中でゼリー達が嬉しそうに蠢いているというのに。


私の作戦は、成功したのだ。

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