生活魔法ー水を生み出してみようー
楽しかった休日は本当にあっという間で、今日からはまた学校の始まりだ。学校も皆と会えるし、授業も面白い!すごく楽しみなんだけどね!
今週から歴史の授業は初代皇帝から現皇帝までの、歴代皇帝のことを学び始めている。ジョッシュ先生は皇帝陛下のことばかりではなく、皇后陛下や皇女様達の話も交えて、皆が興味を持ちやすいように工夫を凝らして話してくれる。特に皇女様達の話は聞いていると、王宮の華やかな様子も想像できてとても面白い。一般科目の授業では歴史の授業が1番好きだ。
午前中の休憩時間の話題の中心は、もちろん休日のお出かけのことだ。アリーネちゃんとジェシカちゃんとお喋りしていると、リラン君がやってきた。リラン君は、他の予定があって一緒に行けなかったことが残念だったようだ。『今度は一緒に行こう!また誘ってね!』と言うので、3人同時に『もちろん!』と答えたのが見事に重なって、笑い合う。
午後になり、魔法練習場に向かう。今週の魔法の授業は光源を起こす魔法の復習からだ。ランプを前に気持ちを落ち着けて、手の平を前に出し魔力を込める。そして、【光よ灯れ】と唱えると、ランプに光りが灯る。
(うん、大き過ぎもせず、小さくもない!成功だ!)
そう思ってスミス先生を振り返る。
「成功ですね。光源を起こす魔法はもう習得できたといっていいでしょう。習得を認められた魔法は家で使ってもいいですよ。では、今日は水を生み出す魔法を教えましょう。では、また先生がして見せるので、よく見ていてくださいね」
そういうと、スミス先生は浴槽サイズほどに掘られた池の前に歩いて行く。池の中には水はなく、どうやらここに水を生み出すようだ。
「では、始めます」
スミス先生は手の平を池の上にかざし、魔力を集中させる。ここまでは光源を起こす魔法とあまり変わらない。私も最初に魔法を見せてもらった時と同じように、目に魔力を集中させてその様子を見ている。
そして、魔力を込め終わり、【水よ湧き出せ】と唱えると…
手の平の魔力の光の中から湧き出した水が池の中へ流れ出し、どんどん貯まっていく。そして、ちょうど満杯になったところで、水は止まった。
「わかりましたか?魔力の流れは光源を起こす魔法と変わりません。あとは、はっきりと生み出したい水の量を思い描いてください。多すぎると池の容量を超えても水は湧き出し続けますから気をつけてくださいね。では、次はアンさんにやってもらいましょう」
「はい!」
そして、池の前に向かったのだが…池の中には当然スミス先生が出した水が貯まったままだ。
「スミス先生、この水はどうしたら…」
「あぁ、そうでしたね。まずは水を抜かなければ」
そう言うと、端の石を動かす。水はあっという間に溝へと流れ出ていく。
(水を抜くのは原子的なんだなぁ。魔法を使ったりはしないんだ…)
アンはそう思ったのだが、実は魔法でしようと思えばできるのだ。ただ、まだ教える段階にない魔法を授業の中で見せないことになっているだけである。
改めてアンは池の前に立った。池の上に手をかざし、魔力を込める。お風呂サイズの池だから、頭の中には毎日入るお風呂のお湯の量を思い描いている。そして呪文を唱える。
【水よ湧き出せ】
すると、手の平の光の中から水がどんどん湧き出してくる。水は冷たくて心地良い。どんどん湧き出してくる水を眺めていたら、どんどんどんどん水が湧き出して……
(あれ…?水が止まる気配が…?うわぁ…どうしよう…どうすれば?!)
水はどんどん湧き出し、池の容量を超えてアンの足元まで水浸しになったところでようやく止まったのだった。しかも、途中から水の勢いも強くなってしまって、服も跳ね返りの水で濡れてしまっている。
「失敗しました…」
「どれくらいの水を生み出すイメージを持ちましたか?」
「家のお風呂のお湯と同じくらいのサイズに見えたので、お風呂のお水の量を思い描いきました」
「そうですか。縦横のサイズは同じように見えても、深さが少し違ったのかもしれませんね。大丈夫です。光源を起こす魔法と同じで、誰しも最初から成功はしませんよ。それに言ったでしょう?今日は着替えを持ってくるようにと」
そう言うと、スミス先生は笑顔を見せるのだった。
(そうだった…。前回の授業が終わった時に、次回の持参物として着替えを持ってくるように言われたんだった。この為かぁ…)
失敗が前提だったんだなぁと、安心する。スミス先生のちょっとした悪戯が成功したような笑顔は、スミス先生を身近な存在に感じさせてくれる。学園長に教えてもらっているという緊張感は、少しずつなくなっているのだった。
「どうせ着替えるのだから濡れたついでに、あと何度か練習しましょうね」
でも、スミス先生は笑顔で結構スパルタなことを言う。今日は暑いくらいの陽気で、少々濡れたくらいじゃあ、着替えずに続けても問題ない。ピッタリ満杯に水を出せるようになるまで、時間いっぱい練習を続けるのだった。