【シャーク王国】ー謁見の申し出ー
レオナルドとアンの婚姻が結ばれ、親しみやすい妃として皇国の民からの支持も磐石になった頃、皇太子妃が【闇の神】の寵愛も持つということが発表された。当初はもちろん驚きの声が多く上がったが、特に大きな混乱などは起きなかった。
その発表までには、綿密な計画が練られていたからだ。レオナルドの優秀な側近達によって、まずは皇国内の貴族、聖教会への通達が行われた。当然、周辺国への事前の根回しも怠らなかった。そういった、すべての策が抜かりなく施されてからの、万を持しての発表だったのだ。
皇王陛下をはじめとした王族方は受け入れている。聖教会も今までの古く凝り固まった考えを一旦捨て去り、【闇】が光と共にあり得ることを受け入れた。国内の貴族からも、反発の声は上がらなかった。あとは、国民がどう受け止めるかだけだったのだが、国民に人気のある皇太子妃のことである。しかも、彼らが信仰する聖教会も受け入れているのだ。反発の声など上がるはずがなかった。彼らは単純に驚いただけだった。そして、驚きが落ち着くと、当然のようにそれを受け入れたのだ。
オスラン皇国は、周辺の国々に対して大きな影響力を持つ。事前の根回しがあったこともあり、今回の発表は【光と闇の在り方の教義】を根本から変えるようなものだったが、周辺国から大きな抗議の声は上がらなかった。
皇国内でのこれらの動きを、【シャーク王国】からの優秀な視察員達が見過ごすはずはなかった。彼らは情報を集めると、即座に自国に持ち帰った。その情報は好意的に受け止められた。それほど民に受け入れられているアン皇太子妃になら、時期を見て王国から公式の謁見を求めても良いのでは、とまで意見が発展した。
かの大陸の国との公式の謁見が実現すれば、実に千数百年ぶりのことだ。それだけ途方もない時を、2つの大陸間の交易は閉ざされていたのだ。謁見がうまくいっても、すぐには交易は再開されないだろう。急激な変化は、互いに支障をきたすだろうから。完全に再開させるまでには、順を追って緩やかに進めていくべきだ。
それに、アン皇太子妃を抱えるオスラン皇国では、確実に【闇】への認識が改善されてきているようだが、かの大陸の他の国々は、まだそこまでの改善は見られないのだ。オスラン皇国の皇王が認めたことに、表立って抗議はしない。だが、自国内でもそれを受け入れるかどうかは別物だからだ。
数年後ー・・・
オスラン皇国では、突然の【シャーク王国】からの、公式の謁見の申し出への対応に追われていた。皇太子妃の奮闘によって、確かに皇国内では【闇】の守護を持つことや、【闇】属性の魔法に関しての研究も進み、徐々にではあるが、その流れは周辺国にも及びつつある。
しかし、【闇の民】の国ともいえる【シャーク王国】から、こんなにも早い段階で接触があろうとは思いもしなかったのだ。皇王も大臣達も皇太子も…もちろんアン自身も。
オスラン皇国の謁見の代表として求められているのは、当然のことながらアンとレオナルドであった。【シャーク王国】からも、第一王子とその妃が代表としてオスラン皇国を訪れるそうだ。お互いに若い世代、次代を担う世代から徐々に壁を取り崩していこうということなのだろう。
皇太子妃として、外交の場にも出るようになっていたが、【シャーク王国】との謁見となると、今までの経験を活かせば大丈夫というわけにはいかないだろう。その為、毎日のように側近達との打ち合わせに追われるアンなのだった。




