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王宮舞踏会ー平穏な生活は程遠いー

 中等科で王宮のお茶会に招かれて以降、なんだかんだと理由を付けて、王宮からの招待状が届くようになっていた。いつも王女様方からの招待なのだが、たいてい途中からレオナルド王子も合流される。セシル王女とはお忍びの街の視察をご一緒したこともあったなぁ…。騎士団の公開訓練の観戦もご一緒したし…。


 そんな風に、中等科から現在に至るまで、セシル王女やユリア王女、レオナルド王子とは交流が続いている。最近はレオナルド王子の従兄弟でご学友でもある、公爵家嫡男のレイク様とも知り合いになった。あまりに招待の頻度が高いものだから、門番の騎士様や侍女さんにもすっかり覚えられたくらいだ。



 でも、この招待状は…!舞踏会の招待状って!?頻繁な王宮からの招待。普通では考えられないことだとは思っていた。いくら王女様方が私との親交を望まれているとはいっても、他の王族方は認められているのかなと。そこに今回の舞踏会への招待状。…これは決定打なのでは?



(王宮、いや王家が私を取り込もうとしてる!?)



 神の寵児と言われる存在を王家が取り込むことは過去にもあったらしい。神の寵児の子孫は多くが同じように神様からの寵愛を受ける。王家だからといって、神様の寵愛を必ず得られるわけではないから、取り込もうとするのは王家、そして国のこれからの発展の為には必然な行動なのかもしれない。



(でも!そもそも舞踏会とか貴族の社交場だよね?そこに貴族でもない私が参加できるの?!いや…招待状も来てるし参加はできるんだろうけど…。王女様方とも王子様とも、それくらい親しくなっちゃったし…。隠し事ができないくらいには。闇属性の守護を持つことも話してある。御三方とも驚かれていたけれど、受け止めてくださった。さらにレオナルド様は力になるとも言ってくださった。でも、親しくなったのも、私を取り込みたい為だけだったのかな…?それだと悲しいな…)



 そんなことを悩んでるうちに舞踏会当日になる。当初、ドレスは?!と思っていたけど、準備がいいことに王女様から事前に贈られてきたのだった。サイズを測ってないのにピッタリなのはなぜだろう…。


 贈られたのは鮮やかな緋色のすごく華やかなドレスだ。王宮に招待されることも増えたから、綺麗なワンピースは揃えるようになっていたけど、当然ながらワンピースとは作りが別物だ。装飾のレースもとても繊細で優美なものだ。緋色というとても艶やかな色合いのドレスなのに、そういった繊細な装飾のおかげか派手過ぎるという印象にはなっていない。舞踏会のドレスは華やかなものが好まれると、以前セシル様から聞いたことがある。これがそうなのだろう。


 舞踏会当日、王宮からは馬車と侍女さんが派遣された。ドレスでは徒歩で王宮まで行けないから、馬車を用意してくれるのはわかるとしても…侍女さんはなぜ?!そう思ったのだが、全ては舞踏会の準備の為だった。


 舞踏会のドレスは1人では着ることができないし、髪型も普通に結うくらいでは、舞踏会では地味過ぎるし浮いてしまう。派遣された侍女さんの手によって、ドレスを着せられ、手際良く化粧を施される。髪も複雑な形に結い上げられる。髪飾りや装飾品を身に付け、身支度は完成だ。鏡を見てみると、化粧をしているというのもあるけど、自分が自分に見えない感じだ。



 迎えの馬車に乗り込むと、家族皆で送り出してくれる。いろいろと思うところはあるのだろうけど、最終的に舞踏会への参加を決めた私に反対することはしない。守る時はしっかり守ってくれるけれど、こういった時は私の判断を尊重してくれるのだ。



 舞踏会の会場にはレイク様にエスコートされて入場した。案の定、皆の注目の的…。なんだかヒソヒソ声が聞こえてくるようだ。



 舞踏会の始まりは王家のダンスから始まる。セシル様とその婚約者である隣国の王子様とのダンスだ。そこにレイク様と私のペアも加わる。



(そうでした!レイク様も王家に連なる方でしたね!)



 ダンスは踊れたのかって?お茶会に何度か呼ばれるうちに、なぜかダンスの練習にも付き合わされていたから踊れました。レイク様のエスコートが上手いから、私のダンスもなんとか形になるのだろう。なんとか踊り切ると、レオナルド王子の元へ挨拶に向かう。


 そして、次はレオナルド様とのダンスだ。心なしか王子のご機嫌が悪いような…?ダンスはなんとか無事に終わり、そのままバルコニーにエスコートされる。


 ダンスで暑くなったから、風が気持ちいい。ふと王子を見上げると王子も私を見つめていて目がバッチリ合う。



「最初、アンとレイクが踊っている姿がとてもお似合いに見えて、嫉妬してしまったよ。気づいているかもしれないけど、わたしはアンのことが好きなんだ。どうかレイクではなく、わたしの手をとって欲しい」



 突然の告白に驚き、返事が返せずにいると…。



「突然ですまない。でも、ずっとアンに惹かれていたんだ。君の周りにはいろいろと言う者がいるかもしれない。神の寵児である君を取り込みたいだけだとか言う者がね。正直に言おう。最初、姉上が君を呼び出した時に会いに行った頃は、そういう思いもあったかもしれない。でも、君と接して親しくなるうち、そんなことはどうでもよくなったんだ。そんなことは関係無く、君自身に惹かれているんだ」


「…ほんとうに?」


「信じてくれない?わたしも姉達も、とうに神の寵児であることは関係無くアンと接していたんだよ?」


「疑いたくはないの。だって私もレオナルド様や王女様方のことを…。でも、そんなことってあるのかなって。私自身に魅力なんて…」


「そんなことはない!アンにはたくさんの魅力がある!」



 そう言うと私の【魅力】を延々と語り始めるレオナルド様なのだった。それはもう聞いている方が恥ずかしくなる程に…。



「し、信じます!レオナルド様のこと信じますから…!」



 自分の魅力とやらを延々と聞いていられなくて、そう叫んでしまう。すると、レオナルド様は手を差し出しもう一度…。



「どうかわたしの手を取ってくれないだろうか。これからの人生を共にあって欲しい」


「…はい」



 そういうと、私はレオナルド様の手をとったのだった。


 思えばもうずっと前から私も惹かれていたのだ。王女様とは本当にお友達になれたような気がしていたし、王子様には仄かに恋心を…。王家が神の寵児を取り込みたいだけなのではということを聞いて、あんなに悲しかったのはそれだけ惹かれていたから。王子様や王女様の態度が作られものであって欲しくなかったから。だから、ここまで率直に気持ちをぶつけられてはノーとは言えない。


 それに、レオナルド様の率直な言葉はすごく心に響いた。レイク様に嫉妬したというのも本当なのかも。私が騎士様に憧れていること、王宮に招待されている時は騎士団施設への多少の出入りが許可されていたので、ちょこちょこ見学に行っていることなどを、何気なくレオナルド様にも話したのだ。話した時は、特に何もなかったのだが、それから私が騎士団施設へ見学に行く時には、自分も一緒に行こうと言われる時が増えたり、私が1人で行っても対応にしてくださる騎士様が何故か今までの若手の騎士様から、老練の騎士様に変わっていたりということがあったのだ。その時は、老練の騎士様も渋くて素敵だとか思って深くは気にしていなかったけれど。思い返してみたら、それも嫉妬してくれていたのかもしれない。



 そして、私は卒業と同時にまずは王族のマナーなどのお勉強ということで、王宮に移り住むことが決まった。身分は【皇太子の婚約者】だ。ちなみに、王宮にはニィも一緒に移り住む。使い魔とはあまり離れることはできないしね。王族の婚約期間は2年と長めだ。王族の結婚となれば、式などの準備にそれくらいかかるのだそう。その2年間で、しっかりと勉強しなければいけない。学園は卒業しても、勉強は続くのだ…。



 いろいろこれから大変だろうけど、王家に入ったからといって、これまでの交友関係を切り捨てないといけないということはないらしい。だから、これからもいろんな人が私を支えてくれると思う。


 それに、卒業後に就こうとしていた仕事も諦めなくていいそうだ。さすがに皇太子様の婚約者になると、仕事は諦めなくてはいけないのかと思っていた。だが、王宮内に仕事場があり、危険を伴わないものであれば、いずれ皇太子妃となった時に始まる公務の支障にならない範囲でなら、仕事に就けるそうだ。


 王宮騎士団の魔法部隊であれば、危険を伴う実地には出られないが、内勤であれば可能。魔法研究所であれば、基本的に王宮内の研究所での仕事になるので、全く問題ないとのことだった。どちらかと言えば、魔法研究所へ就職したいという気持ちが強くなっていたので、私の方にも問題はない。『皇太子妃となることで、折角の才能を埋れさせるのは避けよ』との皇王陛下の命もあったのだと、後になって聞いた。



 私にはもう一つ卒業前にしたい希望があった。これもレオナルド様に大丈夫かどうか聞いてみる。

【友達との卒業旅行】だ。その友達の中にリラン君が含まれていること、旅行の行き先はリラン君の故郷である、隣国との国境に近い街である事を伝えていくと、レオナルド様の表情がどんどん不機嫌そうに歪められていく。



(やっぱりダメ…?)



 この旅行の件については、かなり前から計画を立てていた。国内なのに異国の雰囲気も味わう事ができるという、その街に皆で行く事を楽しみにしてたのだ。行けないのかと思うと、自然に悲しくなって目にも涙が…。


 すると、レオナルド様が慌てだしたのだった。



「行っては駄目だとは言っていない!ただ、まだ婚姻前だとしても、未来の皇太子妃を警備もなしで旅行には出せないのだ。隣国とは友好関係を築いているとはいっても、国境付近は他国の出入りも多いしな。護衛騎士と侍女を伴うなら…旅行を許可する」


 友達との旅行に護衛騎士と侍女…かなり大仰な旅行になってしまうだろうけど、きっと皆は理解してくれるはず!それに、行けないかと思っていた旅行に行けるんだという嬉しさの方が強かった。



「本当に?ありがとうございます!」



 そう言って破顔する。その笑顔に見惚れた王子は、それを隠すように侍女にお茶のお代わりを所望する。


 その時に王子が呟いた一言は侍女の耳にはしっかり聞こえたしまったのだった。


 ー決して嫉妬ではない、涙に負けたのではないー


 少し情けない呟きを、賢明な侍女は聞かなかった事にしたのだった。




 これまでの交友関係も持続できる、就職もできる。我儘かもしれないけど旅行だって諦めなくていいことになった。だとしても私の人生は、当初は避けようと決意していた波乱万丈なものになっていくのだろう。でも、平穏な道を歩んでいたら、成し遂げたい願いも叶えることはできないのだろうから。


 これは自分の意思で決めたことだ。私は自分の決めた道を、これからも精一杯生きていく!


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