首都へー神様の愛になんか押しつぶされない!ー
家族で首都に引っ越しをすることが決まってからは、荷造りや、新居探し、学校への手続きなど、することが多過ぎて父様も母様も姉様も忙しそうだった。もちろん私も手伝った。でも、7歳の私にできることといったら、荷造りくらいで。それも、重たい荷物は持てないから、たいして役に立たないでいた。
でも、家族のみんなは私に甘いから、簡単な荷造りしか手伝えなくて、まったく疲れていないのに、すぐに休憩を勧めてきたり、もっと簡単なこと…例えば飼い猫のお世話などを任せようとしてきたり…。
うちのニィはご飯も自分で調達するから、お世話といっても、寝床のクッションのお掃除か、水の交換くらいしかないのに!
そんなことを思ってると、ニィに少し睨まれた…。ニィは人の感情を読み取るのがうまいのだ。…ごめんなさい、ちゃんとお世話させて頂きます。
今世ではまだ7歳とはいえ、前世での20年分の記憶がある私としては、みんなが『私の為に』忙しくしているのに手伝えないというのは、なんだか歯がゆいのだ…。
あまり時間をかけていては、入学の時期がどんどん遅れるということで、最低限必要なものだけを荷造りし、残りは近所の人にそれぞれ必要なものを引き取ってもらった。
そうして、なにも無くなった家を見るというのは…たった7年とはいえ、慣れ親しんだ家ということもあり寂しいものだった。
そして『さよなら平穏な日々…』といった7歳らしからぬ哀愁を漂わせながら、首都行きの馬車に乗り込むのだった。
今まで住んでいた街から首都までは馬車で3日の距離だ。途中の街で休憩をとりながら、ゆっくり進んでいく。これも幼い私への配慮だろう…。
そして、馬車に揺られること3日、ついに首都に着いた私は、初めて見る首都の大きさにビックリしていた。
立派な外壁でぐるりと囲まれた首都は、出入りする門も立派で。そこには、数人の騎士が立っていて、通行許可証を順番に確認していた。
壁や門には近くで見ると細かい細工が施してあって、見ていて飽きることはなかった。キョロキョロ見回しながら順番を待っていると、いつの間にか順番がきていたらしい。
クスッと笑われたことで顔を上げてみると、すぐそばに騎士様が!?
どうやら、浮かれ上がってる様子を笑われたらしい…幼いこどもに対する微笑ましい笑いであると思うが…。
急に間近に迫った騎士様は紺色の制服をキッチリと着こなし、前世の記憶で『騎士といえば!』とイメージした姿にピッタリと当てはまるような金髪の凛々しい姿で…
つまり、人との接触を極力避け、読書の世界に入り込んでいた前世の【杏】の好みど真ん中だった為、アンは真っ赤になって俯いてしまう。
それを笑われたせいだと勘違いした騎士様にさらに近づかれ…といった、今思い出しても恥ずかしい出来事があったものの、無事に首都への門を通り抜けることができたのだった。
首都に入ってすぐに向かったのは両親が復職することになる職場だ。時間がなかった為、職場の人にこちらで住むことになる新居を探して貰っていたのだ。
職場に着いた私たち一家は両親の元同僚さん、そしてこれから再び同僚になる人達に温かく迎えられ、私と姉様はお菓子や飲み物でしっかりと歓待された。
そして、再会の喜びも落ち着いた頃、新居を案内してもらうべく、両親の職場を離れた。歩いて10分も経たないで、新居には到着した。アパートの1階で、まだ荷物のない部屋はガランとしているが、木の温もりが感じられる素敵な家だった。
早速、部屋の見聞が始まり、3部屋ある個室からどこを誰の部屋にするかなど決めて回った。そして、私の部屋は東向きの小さいながら可愛らしい壁紙の明るい部屋に決まった。
家具の搬入や荷解きなどは、両親の同僚さんも手伝ってくれたおかげで、さほど時間もかからず終わり、手伝ってくれた面々と夕食の席を囲んだ。
話題は尽きることなく、私にもわかりやすく面白おかしく首都のことを話してくれるので、とても楽しい夕食だったが、幼い私には引っ越しの疲れも出ていたようで、夕食後すぐに眠たくなり、両親に休むように促され部屋に戻った。
部屋に戻るとベッドの上にはすでにニィが座って私のことを待っていてくれた。ニィは気ままに行動するが、寝る時は必ず私のベッドで一緒に眠るのだ。早速ベッドに潜り込むと、ニィがすり寄ってきた。ニィのふわふわな毛並みを撫でていると、さらに眠気は深まっていった。
首都の学校への入学手続きは、明日早速行うことになっている。私は初等科、姉様は中等科だ。
前代未聞の全属性の神様の寵愛持ちということで、穏やかな学校生活とはならないかもしれないが、私は諦めない!
前世では意味もわからず押しつぶされてしまったが、今世はそうではないのだから。私は神様の愛になんか押しつぶされない!神様が愛してくれるというのなら、うまくその力を制御できるようなって、平穏ではなくとも、波乱万丈ではない生活を手に入れるのだ!
眠たいながらも、明日からの学校生活に思いをはせつつ、眠りにつくのだった。